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第十一話 動揺
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「三成が、見合い・・・?」
「らしいぜ?兄貴がそんなこと言ってた」
構内にある食堂で虎太郎から出た話題に、姫鷹の箸が止まった。
「龍一郎兄さんが・・・」
谷龍一郎とは虎太郎の兄で、三成とは同級生にあたり、付き合いも深い。姫鷹にとっても従兄弟というだけでなく、小さな頃から世話になった人物だーー悪戯を繰り返す虎太郎の巻き添えになって怒られもしたがーー。
ーー見合い、三成が・・・。
頭の中で、もう一度同じことを繰り返す。
最近、三成本人とは顔をよく合わせるというのに、そんな話は露ほども聞いた覚えが姫鷹にはない。結局その程度の関係か、と思うと苦笑が漏れる。
けれど、驚きはしたものの、姫鷹にショックはそこまでなかった。姫鷹はそんな自分の気持ちの変化に、少し驚く。何せ相手は長年恋心を抱いていた人物だ。下手すれば何日かは寝込むかもしれないと考えていたのだが、自分へと先に告げなかったことに対しては少し腹を立ててはいるものの、思っていたほどのショックは、現在、ない。それは予め予測していた、ということもあるが、何よりも央亮の存在が大きいようにも思えた。
ーーこれは、央亮に感謝かな・・・。
央亮にこのことを話したならば『俺を選んで正解でしょ?』と笑ってくれそうだ。姫鷹はそんな央亮の姿を思い浮かべた後に、息を一つ吐き出して、皿の上にある手をつけてないメンチカツを箸で摘んで虎太郎の皿へと放り込んだ。
「え、くれんの?サンキュ♪」
「情報のお代だよ。三成の結婚が決まったら、何かお祝いを選ばないとね。その時は、付き合ってくれよ。従兄弟殿」
「別にいいけど。あいつが欲しそうなもんって・・・辞書とかノートとか・・・電卓・・・?」
「なんだ、それは?学生じゃないんだから」
虎太郎の言葉に思わず笑いが漏れる。さて、と言いながら姫鷹は立ち上がった。
「そろそろ俺は行くよ。授業前にちょっと図書館に寄りたいんだ」
「わあった。な、な、今日の授業後は暇?オレ、買い物行きたい。今度合コンあるんだよ・・・!」
「ああ、服か?今日なら・・・そうだね、大丈夫かな。お前、放っておくとおかしなセンスだものね・・・」
「うっせぇ!じゃ、授業後に正門で待ってっから!」
はいはい、と虎太郎へと返事をしてから自分のトレーを持って歩き出す。
ーー見合い、か。
姫鷹はもう一度頭の中で繰り返した。あの堅物がどんな顔してそんな席にいくのだろうか。そう思うと、今度は可笑しかった。今度顔を見せたら揶揄ってやるか・・・いや、その前に説教か?と姫鷹はそんなことを思いつつ、トレーを返却口へと下げた。
※
三成が勤める会社は谷家と同じく、関東では屈指の名家である桐月家を頂点とする企業だ。内定を見事に勝ち取り、入社を決めたときは谷家の家長である虎道に呼び出されて泣かれるという珍事まで起こったが、なんとか虎道を説き伏せた後は、平穏に企業戦士ライフを満喫している。はずではあったが、最近の三成はとにかくため息が多かった。
それは他でもない、主人である谷姫鷹のことだ。先日、偶然にも、三成は見てしまったのである。主人が、姫鷹がーー男と、キスをしている場面を。
ーー誰だ、あの男・・・。
ーー何故、あんなことを・・・。
ーーどうして、姫鷹さんは俺に話してくれない?
ーーそれに、あの男・・・。
ここ数日間、ずっとそんなことばかりを考えていた。苛立ちとも困惑ともつかない感情が消えることなく渦巻いている。
仕事はなんとか支障なくこなしてはいるものの、姫鷹の顔を見るのはなんだか気が引けて、訪ねようにも足が向かず、顔を見せていない。
はぁ、と三成がまた大きなため息を吐くと、
「なんだか最近ため息が多いね、大濠くん」
隣のデスクから声がかかり、三成は手を止めてそちらへと顔を向けた。
声をかけてきたのは同期入社である桐月久嗣だった。
「仕事はしているぞ」
「それは分かっているよ。すごい速さでキーボード叩いてるしね。なんか悩みでもある?」
三成の返答に苦笑を漏らしながらも、久嗣は首を傾げた。
この三成の心配をする久嗣は桐月グループの跡取りであり、紛うことない御曹司だ。学歴はさる事ながら、容姿もやたらと魅力的で、優しい風貌のそれは売れ筋俳優と紹介されたら信じてしまいそうなほどだ。その上、背も高くスタイルも良い。しかしそれを気取ったり鼻にかけたりすることはなく、久嗣は一般社員と同じように働いている。上下に対する態度も自身の出生を盾にして高慢に振る舞うようなことはなく、相応なものだ。そのため、三成にとっては不可思議な存在だった。
はじめ三成は一般社員に混じり働くこの御曹司を、どうせボンボンの気紛れだろう迷惑な、と嫌厭していたが、共に仕事をするうちに人柄の良さや能力の高さに触れ、彼の印象を改めた。今では、三成にとって久嗣は同僚よりもむしろ友人に近い存在になっている。
「悩み・・・いや、そうであって・・・そうでないような・・・」
「ねぇ、そろそろお昼だし・・・一緒にランチでもどうだい?話を聞くよ?」
話、と三成は考えた。誰かに話せば多少は整理がつくのだろうか?自身の中で解決しないことの緩くため息を吐いた後、そうだな、と頷いた。
二人が今、居るのは、会社からごく近くにあるカフェだ。カフェといってもランチはボリュームがあって味も良いと評判で、今日も店内は人で賑わっている。社内食堂でも良いという三成に、せっかくだから、と連れ出したのは久嗣だった。
「それで?何でも聞くよ?」
食後の珈琲を飲みながら、久嗣が首を傾げる。三成は少し迷ったものの、口を開いた。
「これは、その・・・俺の話ではないのだが」
そう前置きして話し始めた三成に、いきなり下手すぎないか?!と、危うく飲んでいた珈琲を吹き出しそうになったが、何とかそれは堪えて久嗣は頷いた。
「その・・・ああ、そうだ。その知人には小さい頃から世話をしていた子供がいて・・・」
「小さい頃からの知り合いなんだね」
「その子は、そいつにとって大事な子なんだが・・・その子の保護者から頼まれたこともあって、久しぶり会い悩みなどを聞きにいったりしてたんだが・・・」
「そうなんだね」
「その子は頑なでな。とにかく、俺に話してくれないんだ。けれど、時折見せる顔がとにかく憂いがあるものでな」
三成は気付かずに自分だと宣言しているが、敢えてそこを久嗣は突っ込まずに、突っ込みたい気持ちを珈琲で流し込んだ。
「小さい頃から見てると、なんとなく分かるよね。僕にも大事にしている幼馴染がいるからわかるよ」
「そう、それだ。わかるよな?それで、まあ・・・ひょんなことから、その悩みの原因らしきものを見てしまってな」
「それはまた・・・深刻なものなのかな?」
「どうだろうか・・・その、人による気もするな。まあ、なんだ・・・その、人には言いにくいような人間と付き合っていたんだ。いや、あれは・・・いや、付き合っているんだろうな。それで、それが悩みの原因らしいのだが・・・そのことを俺には言ってくれなくてな・・・落胆したと言うか・・・」
もう一口、久嗣は珈琲を飲んで言葉を飲み込む。改めて、息を吸って、
「そうなんだ。うん、言ってもらえなかったのはショックかもね。でも、言いにくいような人だったようだし・・・もしかしたら、怒られるって思ったのかもよ?」
「そうか、そういうこともあるか・・・しかしだな、信頼関係があると思っていたんだ、俺は。だからだろうか、少し苛々としてしまってな。それに、その・・・付き合っていると言う、相手が・・・・・・何と言うか、似てるような・・・」
聞くからに、恋愛話のような、それ。今の今まで三成の恋愛話なんて、聞いたことなんてない。あまりにも興味を掻き立てられて、やや久嗣は身を乗り出し気味だ。
「え、おおほ・・・んんっ、その知人さんに?それは、なんとも気になるね?」
「そうだ、そうなんだ。それなら俺でもいいのでは?と思ってしまってな・・・その考え自体にも知人は困惑していて・・・」
そうだ、似ているのならば俺でもいいはずだ、と言って初めて三成は自身の考えに気付く。けれど、そう考えた自分に、何を考えているんだ?と突っ込みをいれる。
既に自分語りになっていることは敢えて大人な対応をして、なるほどね、と久嗣は頷き、笑顔になった。
「それは、あれだね。恋だね」
ぴ、と久嗣は三成を指差した。は?と三成は声に出しながら不可解な顔をする。
「恋とは・・・それは、俺が。いや、その、その知人が・・・その子を好きだと言うことか・・・?」
言葉を紡ぎながらも、やはり不思議そうに三成は首を傾げた。それに対して久嗣は頷いた。
「間違いなくね。おおほ・・・いやいや、知人さんは自分のことだからわからないみたいだけどね。その子のこと好きだから苛々したり困惑したんだよ」
「しかし、その・・・好き?好き、とは恋愛のか・・・?」
三成は傾げた首を、今度は反対側に傾ける。その眉根には、困惑を表すかのように深い皺が刻まれ始めていた。久嗣は、もう一度頷いた。
「そうだね。その子とお相手さんでなくてさ、知人さんがつきあってると想像して楽しかったら・・・確定じゃないかな」
そう問いかけながら、今度は久嗣が首を傾げた。三成の額には相変わらず皺ができていて、そんなまさか、と呟きながら俯いた。少しの間、久嗣はその様子を眺めてから、どう?と声をかける。
「・・・・・・そう、だな・・・・・・。そんな気もする、な・・・・・・」
三成の答えは、まだ迷っているようにも聞こえた。それもその筈で、今まで姫鷹とどうの、と等考えたこともない。
「じゃあさ。その子が、今お付き合いしてる人と結婚する、とか言い出したら・・・」
「それは、許せない」
ばっと顔を上げて、三成は間髪を入れずに、答えた。答えを聞き、久嗣は少し驚いた。何より、答えた三成自身が驚いて自分の口を手で塞ぐ。久嗣がにっこりと微笑んだ。
「それが、答えなんじゃないかな?」
そう告げると、三成は大きく目を見開き、まさか、と再度呟く。
「今、その子にはお付き合いしている人がいるんだよね?」
「そうだな・・・」
「僕はその状況を実際に見たわけではないし、あまりいい加減なことは言えないけれど・・・後悔がないように動くのがいいと思うよ」
「・・・そうだな。ありがとう、桐月・・・」
未だに三成の顔から動揺は消えないままだが、何かに気付けたようではあった。幸せになれるといいね、と久嗣が言うと、そうだな、と三成は答えた。
余談だが、この恋愛ごとに長けていそうな素振りを見せる桐月久嗣こそ超がつくほど自分自身の恋愛については鈍感ではあるのだが・・・それはまた別の話である。
「らしいぜ?兄貴がそんなこと言ってた」
構内にある食堂で虎太郎から出た話題に、姫鷹の箸が止まった。
「龍一郎兄さんが・・・」
谷龍一郎とは虎太郎の兄で、三成とは同級生にあたり、付き合いも深い。姫鷹にとっても従兄弟というだけでなく、小さな頃から世話になった人物だーー悪戯を繰り返す虎太郎の巻き添えになって怒られもしたがーー。
ーー見合い、三成が・・・。
頭の中で、もう一度同じことを繰り返す。
最近、三成本人とは顔をよく合わせるというのに、そんな話は露ほども聞いた覚えが姫鷹にはない。結局その程度の関係か、と思うと苦笑が漏れる。
けれど、驚きはしたものの、姫鷹にショックはそこまでなかった。姫鷹はそんな自分の気持ちの変化に、少し驚く。何せ相手は長年恋心を抱いていた人物だ。下手すれば何日かは寝込むかもしれないと考えていたのだが、自分へと先に告げなかったことに対しては少し腹を立ててはいるものの、思っていたほどのショックは、現在、ない。それは予め予測していた、ということもあるが、何よりも央亮の存在が大きいようにも思えた。
ーーこれは、央亮に感謝かな・・・。
央亮にこのことを話したならば『俺を選んで正解でしょ?』と笑ってくれそうだ。姫鷹はそんな央亮の姿を思い浮かべた後に、息を一つ吐き出して、皿の上にある手をつけてないメンチカツを箸で摘んで虎太郎の皿へと放り込んだ。
「え、くれんの?サンキュ♪」
「情報のお代だよ。三成の結婚が決まったら、何かお祝いを選ばないとね。その時は、付き合ってくれよ。従兄弟殿」
「別にいいけど。あいつが欲しそうなもんって・・・辞書とかノートとか・・・電卓・・・?」
「なんだ、それは?学生じゃないんだから」
虎太郎の言葉に思わず笑いが漏れる。さて、と言いながら姫鷹は立ち上がった。
「そろそろ俺は行くよ。授業前にちょっと図書館に寄りたいんだ」
「わあった。な、な、今日の授業後は暇?オレ、買い物行きたい。今度合コンあるんだよ・・・!」
「ああ、服か?今日なら・・・そうだね、大丈夫かな。お前、放っておくとおかしなセンスだものね・・・」
「うっせぇ!じゃ、授業後に正門で待ってっから!」
はいはい、と虎太郎へと返事をしてから自分のトレーを持って歩き出す。
ーー見合い、か。
姫鷹はもう一度頭の中で繰り返した。あの堅物がどんな顔してそんな席にいくのだろうか。そう思うと、今度は可笑しかった。今度顔を見せたら揶揄ってやるか・・・いや、その前に説教か?と姫鷹はそんなことを思いつつ、トレーを返却口へと下げた。
※
三成が勤める会社は谷家と同じく、関東では屈指の名家である桐月家を頂点とする企業だ。内定を見事に勝ち取り、入社を決めたときは谷家の家長である虎道に呼び出されて泣かれるという珍事まで起こったが、なんとか虎道を説き伏せた後は、平穏に企業戦士ライフを満喫している。はずではあったが、最近の三成はとにかくため息が多かった。
それは他でもない、主人である谷姫鷹のことだ。先日、偶然にも、三成は見てしまったのである。主人が、姫鷹がーー男と、キスをしている場面を。
ーー誰だ、あの男・・・。
ーー何故、あんなことを・・・。
ーーどうして、姫鷹さんは俺に話してくれない?
ーーそれに、あの男・・・。
ここ数日間、ずっとそんなことばかりを考えていた。苛立ちとも困惑ともつかない感情が消えることなく渦巻いている。
仕事はなんとか支障なくこなしてはいるものの、姫鷹の顔を見るのはなんだか気が引けて、訪ねようにも足が向かず、顔を見せていない。
はぁ、と三成がまた大きなため息を吐くと、
「なんだか最近ため息が多いね、大濠くん」
隣のデスクから声がかかり、三成は手を止めてそちらへと顔を向けた。
声をかけてきたのは同期入社である桐月久嗣だった。
「仕事はしているぞ」
「それは分かっているよ。すごい速さでキーボード叩いてるしね。なんか悩みでもある?」
三成の返答に苦笑を漏らしながらも、久嗣は首を傾げた。
この三成の心配をする久嗣は桐月グループの跡取りであり、紛うことない御曹司だ。学歴はさる事ながら、容姿もやたらと魅力的で、優しい風貌のそれは売れ筋俳優と紹介されたら信じてしまいそうなほどだ。その上、背も高くスタイルも良い。しかしそれを気取ったり鼻にかけたりすることはなく、久嗣は一般社員と同じように働いている。上下に対する態度も自身の出生を盾にして高慢に振る舞うようなことはなく、相応なものだ。そのため、三成にとっては不可思議な存在だった。
はじめ三成は一般社員に混じり働くこの御曹司を、どうせボンボンの気紛れだろう迷惑な、と嫌厭していたが、共に仕事をするうちに人柄の良さや能力の高さに触れ、彼の印象を改めた。今では、三成にとって久嗣は同僚よりもむしろ友人に近い存在になっている。
「悩み・・・いや、そうであって・・・そうでないような・・・」
「ねぇ、そろそろお昼だし・・・一緒にランチでもどうだい?話を聞くよ?」
話、と三成は考えた。誰かに話せば多少は整理がつくのだろうか?自身の中で解決しないことの緩くため息を吐いた後、そうだな、と頷いた。
二人が今、居るのは、会社からごく近くにあるカフェだ。カフェといってもランチはボリュームがあって味も良いと評判で、今日も店内は人で賑わっている。社内食堂でも良いという三成に、せっかくだから、と連れ出したのは久嗣だった。
「それで?何でも聞くよ?」
食後の珈琲を飲みながら、久嗣が首を傾げる。三成は少し迷ったものの、口を開いた。
「これは、その・・・俺の話ではないのだが」
そう前置きして話し始めた三成に、いきなり下手すぎないか?!と、危うく飲んでいた珈琲を吹き出しそうになったが、何とかそれは堪えて久嗣は頷いた。
「その・・・ああ、そうだ。その知人には小さい頃から世話をしていた子供がいて・・・」
「小さい頃からの知り合いなんだね」
「その子は、そいつにとって大事な子なんだが・・・その子の保護者から頼まれたこともあって、久しぶり会い悩みなどを聞きにいったりしてたんだが・・・」
「そうなんだね」
「その子は頑なでな。とにかく、俺に話してくれないんだ。けれど、時折見せる顔がとにかく憂いがあるものでな」
三成は気付かずに自分だと宣言しているが、敢えてそこを久嗣は突っ込まずに、突っ込みたい気持ちを珈琲で流し込んだ。
「小さい頃から見てると、なんとなく分かるよね。僕にも大事にしている幼馴染がいるからわかるよ」
「そう、それだ。わかるよな?それで、まあ・・・ひょんなことから、その悩みの原因らしきものを見てしまってな」
「それはまた・・・深刻なものなのかな?」
「どうだろうか・・・その、人による気もするな。まあ、なんだ・・・その、人には言いにくいような人間と付き合っていたんだ。いや、あれは・・・いや、付き合っているんだろうな。それで、それが悩みの原因らしいのだが・・・そのことを俺には言ってくれなくてな・・・落胆したと言うか・・・」
もう一口、久嗣は珈琲を飲んで言葉を飲み込む。改めて、息を吸って、
「そうなんだ。うん、言ってもらえなかったのはショックかもね。でも、言いにくいような人だったようだし・・・もしかしたら、怒られるって思ったのかもよ?」
「そうか、そういうこともあるか・・・しかしだな、信頼関係があると思っていたんだ、俺は。だからだろうか、少し苛々としてしまってな。それに、その・・・付き合っていると言う、相手が・・・・・・何と言うか、似てるような・・・」
聞くからに、恋愛話のような、それ。今の今まで三成の恋愛話なんて、聞いたことなんてない。あまりにも興味を掻き立てられて、やや久嗣は身を乗り出し気味だ。
「え、おおほ・・・んんっ、その知人さんに?それは、なんとも気になるね?」
「そうだ、そうなんだ。それなら俺でもいいのでは?と思ってしまってな・・・その考え自体にも知人は困惑していて・・・」
そうだ、似ているのならば俺でもいいはずだ、と言って初めて三成は自身の考えに気付く。けれど、そう考えた自分に、何を考えているんだ?と突っ込みをいれる。
既に自分語りになっていることは敢えて大人な対応をして、なるほどね、と久嗣は頷き、笑顔になった。
「それは、あれだね。恋だね」
ぴ、と久嗣は三成を指差した。は?と三成は声に出しながら不可解な顔をする。
「恋とは・・・それは、俺が。いや、その、その知人が・・・その子を好きだと言うことか・・・?」
言葉を紡ぎながらも、やはり不思議そうに三成は首を傾げた。それに対して久嗣は頷いた。
「間違いなくね。おおほ・・・いやいや、知人さんは自分のことだからわからないみたいだけどね。その子のこと好きだから苛々したり困惑したんだよ」
「しかし、その・・・好き?好き、とは恋愛のか・・・?」
三成は傾げた首を、今度は反対側に傾ける。その眉根には、困惑を表すかのように深い皺が刻まれ始めていた。久嗣は、もう一度頷いた。
「そうだね。その子とお相手さんでなくてさ、知人さんがつきあってると想像して楽しかったら・・・確定じゃないかな」
そう問いかけながら、今度は久嗣が首を傾げた。三成の額には相変わらず皺ができていて、そんなまさか、と呟きながら俯いた。少しの間、久嗣はその様子を眺めてから、どう?と声をかける。
「・・・・・・そう、だな・・・・・・。そんな気もする、な・・・・・・」
三成の答えは、まだ迷っているようにも聞こえた。それもその筈で、今まで姫鷹とどうの、と等考えたこともない。
「じゃあさ。その子が、今お付き合いしてる人と結婚する、とか言い出したら・・・」
「それは、許せない」
ばっと顔を上げて、三成は間髪を入れずに、答えた。答えを聞き、久嗣は少し驚いた。何より、答えた三成自身が驚いて自分の口を手で塞ぐ。久嗣がにっこりと微笑んだ。
「それが、答えなんじゃないかな?」
そう告げると、三成は大きく目を見開き、まさか、と再度呟く。
「今、その子にはお付き合いしている人がいるんだよね?」
「そうだな・・・」
「僕はその状況を実際に見たわけではないし、あまりいい加減なことは言えないけれど・・・後悔がないように動くのがいいと思うよ」
「・・・そうだな。ありがとう、桐月・・・」
未だに三成の顔から動揺は消えないままだが、何かに気付けたようではあった。幸せになれるといいね、と久嗣が言うと、そうだな、と三成は答えた。
余談だが、この恋愛ごとに長けていそうな素振りを見せる桐月久嗣こそ超がつくほど自分自身の恋愛については鈍感ではあるのだが・・・それはまた別の話である。
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