弟の俺が姉の身代わりで新妻になった件

めがねあざらし

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第六十三話 side:U 桐月の台風と旅行と

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蓋を開けて見れば呆気なく終わった妊娠報告ではあったが、概ね成功だった。しかし予想通りというか何というか・・・桐月の嵐は谷家へと上陸した。

「ねえ嗣にぃ、麗華さん、何持って来たんだろうね」
「なんだろうね、そんなことより天気がいいね・・・」

俺が小声で話しかけると、嗣にぃは窓の外に視線を向ける。・・・駄目だ現実逃避してる。
足音がドアの前で止まると、それが開けられて、颯爽と麗華さんが部屋に中へと入ってきた。今日もスタイルの良さを全面に押し出したパンツスーツだ。紺色が白い肌にとても似合っている。
その姿を見て虎道さんは立ち上がり、麗華さんの前へと立った。手を広げて出迎える。・・・こう、握手を求める感じではなく抱き止める感じなのだが・・・挨拶ってこんなんだっけ?
麗華さんは虎道さんより一歩下がったところで止まった。

「・・・ご機嫌よう、谷さん」

若干引き攣ったような笑顔を麗華さんは浮かべていた。
虎道さんが一歩進む。そうすると、麗華さんは一歩下がった。

「久しぶりじゃないか。いつ見ても綺麗だなぁ・・・、麗華ちゃん。どうだ?今からでも嫁に来ないか?」

と言った。え、この二人、なに、え?!
驚いて嗣にぃを見ると、そちらも目を丸くしていて、俺と目が合うと「知らない」と言うかのようにぶんぶん首を左右に振る。

「・・・うふふ。嫌だわ、虎道さんたら・・・そんな言い方すると、勘違いされてしまってよ?」
「おお、いいぞいいぞ。勘違い大歓迎だ。もう桐月には立派な跡目もいるし、晴れて自由の身だろう?明敬なんか捨てて、私の元に来るといい。ご執心の昼乃ちゃんも連れて、だ」

どうだ?と首を傾げつつ、もう一歩虎道さんが進むと、麗華さんがまた一歩下がる。麗華さんは横を向いて、ちっ、と舌打ちを漏らした。
なんか凄いことが起こってるんですけど・・・え、本当に何が・・・。虎道さんはうちの母さんも知っているかのような口ぶりだ。
俺が唾を飲み込む横で嗣にぃも固まっている。それは先輩と大濠さんも一緒で、唯一動じてないのはあさだけだ。もりもりとフルーツを食べている。
・・・おまえの心臓には剛毛でも生えてんのか??
じりじりと2人は前進し後退しを繰り返していて、ついには麗華さんが壁へと追い詰められた。

「元はと言えば、私が君の婚約者だったところを明敬に奪われたんだ。そろそろ私の元に戻ってもいい頃合いと思うがね?」

色々と明かされていく事実を唖然と聞くしかない。元婚約者って、ええ、どんな状態だよ?!
虎道さんの片手が麗華さんの顔の横に置かれたーードラマみたいな壁ドンだな?!ーーところで、嗣にぃと先輩が立ち上がった。が、それより早く麗華さんの右手が虎道さんの鳩尾に綺麗に埋まった。う、と鈍い呻き声をあげて虎道さんがその場に蹲る。

「言語道断ね。明敬さんの爪の垢でも飲んだほうが宜しいのじゃなくて?それに昼乃ちゃんとか気安く呼ばないで頂きたいわ。昼乃がけ、が、れ、る!でしょう!」

フン、と鼻を鳴らしたあと、更にその爪先で虎道さんの足を蹴ってから、こちらへと歩いてくる。

「皆さん、ご機嫌よう。お見苦しいところをお見せしてごめんなさいね?あさちゃんのおめでたの話を聞いて駆けつけたの。あさちゃん、色々とお土産を持って来たから、あとで食べてね?そして、ゆうちゃんも暫くぶりね。うちの愚息はちゃんとお世話できていて?」

笑顔と共にそう言い、流れるような動作であさの横へと座る。立っていた、嗣にぃと先輩へと向かって、座るように手をゆっくりと振った。2人が、はた、と我に返りそれぞれ座る。全員が、麗華さんに圧倒されていた。・・・あさを除いて。

「あなたが谷姫鷹君ね?はじめまして。そこの愚息の母で桐月麗華よ」
「あ、え、はい。はじめまして。あの、兄が失礼をしたようで・・・」

若干狼狽ながらも、先輩が頭を下げる。麗華さんは謝罪を述べた先輩へと、いいのよ、と微笑んだ。

「昔から虎道さんはああだから、気にしていないわ。横の方は大濠三成さん。あなたは結婚式でお会いしたわね」
「久嗣君にはお世話になっております」
「あなたの有能さは聞き及んでいるの。これからも久嗣をよろしくね。さて、あさちゃん!」

麗華さんは身体ごと横へと向けて、フルーツを食べ終えたあさの手を取る。

「あさちゃん、おめでとう!おばさん、嬉しいわ。何せ初めての孫だもの・・・!欲しいものはないかしら?何でも用意してよ?」

結婚式の時も麗華さんは『やっと昼乃と法的に本当の家族になれるのね!』と喜んでいたが、その時と同じ笑顔だ。あさが責められるようなことがないのには、安堵した。何せ桐月から逃げた挙句に妊娠だ。普通ならば怒りに触れそうなものが、寛大な心で認めてくれているどころか、祝ってくれている。
しかし孫って・・・桐月の血は一滴も入っていないが、誰も突っ込まなかった。嗣にぃと俺は、慣れっこだ。
大濠さんと谷先輩は珍獣を見るような顔をしていたが、突っ込むことはせず、様子を見ている。

「わーい!ありがとう!じゃあ・・・100パーセントのりんごジュース飲みたいな!みかんでもいいよ!」

あさがそう答えると、麗華さんが頷いた。

「なるほど・・・果樹園ね?!任せてちょうだい・・・!最高の林檎と蜜柑が出来るところを選んであげるわ!」

にっこにこで麗華さんが答えると、わーい、ともう一度あさが笑う。
嗣にぃは苦笑を浮かべて、俺や先輩、大濠さんは揃って「え」と声を上げた。
そりゃ、いきなり果樹園がプレゼントなんて、そうそう聞くような話でもない。驚くのが当たり前だ。そしてそれを拒否しないあさの心臓には、剛毛どころか鋼の毛が生えていそうだ・・・。
ちなみに俺が黙っているのは、既にキャパオーバーだからだ。果樹園とか・・・サイコロで電車を進めるゲームの中でしか買ったことねぇわ・・・。
だめだ、俺も現実逃避したくなってきた・・・。

「果樹園があれば、こたが留年して就職できなくても、路頭に迷うことないからいいよね!いざとなったら子供と3人で林檎か蜜柑育てるよ!」

あさの言葉を聞いて、麗華さんは目を瞬かせた。

「・・・あの、確認するけど大丈夫なのよね?留年とか聞こえたけど、大丈夫なのよね?お相手は。谷虎太郎君は大丈夫なのよね?」

あさの肩をがっしり掴んで、麗華さんが笑顔を消して若干怖い顔つきで首を傾げた。
俺もそこは気になった。先輩を見ると、苦虫を噛み潰したような表情だ。・・・え、大丈夫だろうなあのチャラ男。

「なんとでもなるよ!!もーまんたーい!」
「はっはっは。谷の嫁はこれくらい豪胆じゃないとなぁ!良かったな!あー子!」

いつに間にか復活した虎道さんが、あさと麗華さんが座る席の後ろへと立ち、二人の肩へと手を置いて朗らかに笑った。数秒後、その手は麗華さんに見事に叩き落とされていたが。手を落とされた張本人は「つれないなぁ」とぼやいたが、そこまで気にしているような様子でもなかった。

「・・・・・・色々とこれは、もう・・・・・・ゆうくん、そろそろ帰ろうか?帰りに猫カフェでも行こう?ゆうくん、行きたがってたよね?」

台風に台風が重なれば、そりゃ大型台風にしかならない。隣で嗣にぃが遠い目をしつつ、微笑む。あ、こりゃまた現実逃避しているな、と俺は苦笑した。
ちなみに先輩と大濠さんは、やはり珍獣を見る目で麗華さんやあさを見ていた。
まあ、そうなるよな。わかります。でも虎道さんも結構アレだと思うな、俺。



あさと麗華さんを残したまま、俺たちはそそくさと谷家を出た。嗣にぃが提案した通り猫カフェへと寄ってーー今は、その帰りである。谷家でのことは、とりあえず放置して、もふもふで2人とも癒された。情報過多すぎるわ、あんなん。

「それで、ゆうくん・・・週末の旅行なんだけど」

運転しながら嗣にぃが切り出したことに、俺は首を傾げる。
え、なんだっけ・・・?
俺の様子を見て、嗣にぃは「えぇ・・・」と漏らして苦笑した。

「やだなぁ、ゆうくん。昨日の朝に言ったよね?一泊でもいいから旅行に行きたいって」
「あ!」

そうか。昨日の朝か!あーねぇ・・・嗣にぃと別れなければならないから、せめて思い出・・・とセンチメンタルな気分で頷いたあれだ!いかん、すっかりと俺は忘れていた・・・。

「あ、うん。うん、覚えてるよ、やだなぁ!」

俺は取り繕って笑いつつ、頭を掻く。嗣にぃはじとっとした目で俺を見たが、緩く息を吐き出して、俺の頭を撫でた。

「まあ、いいけどね。でね、近場だけど予約したから行こうね」

気にしないでいいよ、と言おうとしたところで畳み掛けられた。
予約しただと?!早くない?!いや、週末だからそんなもんか・・・?!

「えっ」
「行こうね」

笑顔を浮かべながら有無を言わせない声で言われると、一度は行きたいと言った手前、それ以上俺は抗うことも出来ず、あい・・・、と返事するしかなかった。



でね。あっという間に週末!
そして今、俺は素敵極まりないホテルの一室で外を眺めていた。
雲ひとつない青空がガラスの向こうに広がっており、視線を下げるとそこは真っ青な海だ。
部屋に中ももちろん、素晴らしい。
まだまだ繁忙期と思われる時期に、オーシャンビューのこの部屋・・・ここ、幾らするんだろうか・・・。うへぇ・・・あさみたいに手放しで喜べない庶民な俺・・・。いや、あさも庶民だけどな?!あ、でもあいつはでかい家に嫁に行くから庶民じゃないな?!
しかし、流石、嗣にぃは慣れたもので、この素敵ホテルの豪華なロビーに動じることもなく、キョドっている俺の背中を撫でた後に、サクッとチェックインを済ませた。こういうところは大人だな、と思う。思うけど、ね。

「ゆうくん・・・」

俺の名を呼びながら、後ろから抱きしめてくる。その手がゆっくりと、俺の腹側の服の裾から侵入して、肌を直接撫でた。大人飛び越えてエロジジイですよ!

「ちょ・・・っ、嗣にぃ、いま、昼・・・!!」

侵入して来た嗣にぃの手を止めようと俺はもがいたが、片手がガッチリとホールドしてくるものだから、嗣にぃより随分と非力な俺は動けない。く、くそ・・・!
嗣にぃはそのまま、俺の耳朶を甘噛みしてきた。

「お昼でも関係ないよ?それにほら、新婚旅行みたいだね・・・子作り、しちゃう?」
「こっ・・・!」

後ろの男、ノリノリである。俺の方が顔が熱い。
できねーーーしな?!俺にはできないわけで!!・・・まあ、そりゃね。たまーに、出来ればいいかなー、とか思ったりもするお花畑脳ですけどね!!

「ね、ねぇ、ここ温泉もあるんだよね?その、先に入ろうよ」

何とか嗣にぃの気を逸らせないかと、ロビーで見かけた情報を口にする。大浴場があるとそれには書かれていたのだ。この真昼間、大浴場でならばそういう雰囲気にもなるまい!と画策したものの、

「それもいいね。温泉は部屋にあるからね。向こうのテラス、露天風呂だよ?」

あ、ああああああ・・・そのタイプか!そのタイプなのか!!!そういえばこの部屋、お高い部屋ですよね!!
俺はまだ室内を見て回ってないから知らなかった・・・藪蛇すぎんだろ。嗣にぃは勝ち誇ったような満面の笑みだ。

「というわけで、ゆうくんのご希望通り、温泉から楽しもうか?あと、約束通り夜の話し合いにはみーーっちり付き合ってもらうからね?」

と言われながら、俺は横抱きにされて風呂に連れて行かれた。
オオオゥフ・・・。忘れてくれても良かったのよ?旦那様ァ・・・。

で。俺の身体中にキスをしながら、嗣にぃは器用に服を脱がせた。それと同時進行で、嗣にぃ自身も服を脱いでいくものだから、どんな技術だよ、と若干息を荒らしつつ俺は思う。
手際良く丸裸にされた俺は、これまた手際良く、外へと連れ出されて洗い場へと連れて行かれる。
屋外なので夏の暑さはあるものの、日差し除けが上手く作られていて、海からの風がよく通った。
そんな中での洗い場。何をされるか既に予測がつく人もいるでしょう・・・そう、中の洗浄です・・・。
俺はどうしても場所が場所なだけに気になってしまうので、そりゃ必ずするようにはしているが・・・されたいわけじゃないんだよ、これ!

「や、やあ・・・自分でするからぁ・・・、だめっ、嗣にぃ・・・お湯、いれちゃ・・・ひんっ」

対面で膝の上、足を広げた状態で座らせられ、先ほどのように片手は俺をガッチリとホールドしている。その状態での洗浄だ。既に何度もされているが、慣れることなんてない。羞恥で涙が浮かぶ俺の目尻へと嗣にぃはキスをしつつ、つい今まで俺の尻近くにあったシャワーヘッドを、フックへとかけた。お湯は俺の下半身に流れ続けたままだ。そうして、空いた片手で俺の腹を撫でる。

「ほら、ゆうくん。このままじゃお腹が辛いよね?」

そう言いつつ、撫でた腹を押す。
いや、腹も辛いよ?!でも精神的に辛いんじゃあああああああ!!!!
しかし外部から圧をかけられると、止められものでもなく・・・。

「やあ、あぁ・・・」

俺はか弱く叫びつつ・・・・・・洗浄完了だ・・・・・・。これ、本当に精神的に辛い。
が!俺のそうした痴態を見て、大きくさせるのが目の前の男である。
なんでかなぁ?!ここ、勃起させるとこなの?!あんたの興奮スイッチどこだよ?!
そう罵ってやりたいところだが、

「・・・ふぇ、嗣にぃの変態・・・っ・・・」

強制的に洗浄された俺は羞恥やら何やらで、嗣にぃを上目に睨みつつ、それくらいしか言えなかった。
嗣にぃは、ふふ、と笑い声を落とす。

「こういう僕も、嫌いじゃないくせに」

不敵にそう囁いた。
ああ、はいはいはい!!好きですよ!!その顔も身体も声も性格も無駄にエロいとこも全部な!!!
あまりにも口惜しくて、ちょっとは仕返しをと思い、俺はお互いの間で屹立している嗣にぃのものへと指を這わせて、その唇に自分の唇をくっつける。
いつも負けてばかりと思うなよ?!桐月久嗣め!今日は勝つ!と俺は心に固く決めた。
・・・・・・が。

「あっ・・・ふ、ぁ・・・だめ、嗣にぃ・・・いじわる、しないでぇ・・・」

即落ち2コマである。ちょっと触られてちょっと焦らされたら、すぐに懇願する俺がいた。弱すぎないか?なあ、俺、弱すぎないか?!十分も経ってないと思う・・・!
そんな俺へとにやにやしながら、

「えぇ?気持ちよくさせてるのに心外だなあ。僕の何が意地悪かな?教えて・・・?」

耳の傍で嗣にぃが囁く。それにも反応してしまい、俺は身体を震わせてしまっていた。
嗣にぃの手は俺の尻をやわやわと揉みながら、入り口を突ついたりするが、中へとは入ってこない。俺が腰を揺らして誘導しても、入り口の中心をくにっと押すだけで、それ以上はするりと指が逃げていく。
俺が息を切らしつつ見上げた顔は、殴ってやりたいくらいに笑顔だ。
焦らし過ぎなんだよこの男・・・!
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