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最終話 弟の俺が姉の身代わりで新妻になった件
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「久嗣さん、こっち!」
病室というには豪華な扉を開けて、ちょうど廊下に先に居たスーツ姿の久嗣さんへと手を振った。
俺を見つけるなり、スーツ姿のその人はこちらへと駆け寄ろうとしてーー院内なので通りがかった看護師さんに注意されて、謝っている。
うん、まあ、気が急くのははわかる・・・何せ先ほど、この病室に入る前に俺は全く同じことをしでかした。一緒に暮らすと似てくるのかもしれない。
久嗣さんは苦笑を浮かべつつ、俺の前に来た。室内へと案内をする。
「赤ちゃん達は?」
「あさの隣にいるよ」
ほら、と手で小さな小さな子供達を指した。
部屋の中には、あさと子供達、そして虎太郎君ーー一応年上なので敬称はつけてやっているーーに俺と久嗣さんだけだ。
「あれ?お義父さん達は?」
「あ、さっきまでいたんだけど、一回帰るって」
そうなんだ、と頷きながら久嗣さんは、手に持っていた紙袋を挨拶をしつつ虎太郎君に渡した。そういえばあさが好きなお菓子を持っていく、とメッセージにあった。こういうところ、ちゃんと気がつく人なので、とても鼻が高い。
子供達のそばに俺が寄ると、久嗣さんも隣へと来た。
「うわぁ、ちっちゃいなあ。かわいいなあ。きみたちのこと思い出すなぁ・・・」
感慨深げに久嗣さんはそう言いながら微笑んだ。
あさは双子を産んだ。男女の兄弟で、2000グラムと少しの元気な子達だ。少し早く産まれたものの安産で、双子はとても元気にふにゃふにゃと動いている。あさも元気そのものではあるが、疲れたのだろう。よだれを垂らしつつぐうぐう寝ていた。
「抱っこさせてもらってもいいのかな?」
久嗣さんが聞くと、虎太郎君が笑顔で頷いた。
「あ、どうぞどうぞ。してやってください」
子供達に向かって手を向けた。・・・くっそ、父親面すんな。父親だけど。もう何ヶ月も経つが、未だに虎太郎君にはあさを取られたという意識しかない。くっそ。
俺もまだ抱っこはしていないので、久嗣さんと2人で手を洗って、緊張しながら子供達に手を伸ばした。
チラリと久嗣さんを見ると、其方もおっかなびっくり。
抱っこをした子供は小さくて暖かくて柔らかい。こんなに小さくて軽いのに内臓とかちゃんとできてるのか、人間って凄い。
俺が抱っこしたのは青い産着を着せてもらっているので、男の子だ。久嗣さんが抱っこしたのがピンク色の産着を着ているので女の子。どちらも面白いくらいに、あさに似ていた。あさに似ている、ということは俺にも似ているわけで。もちろん、母さんにもそっくりだ。色濃く春見の血が出たなぁ・・・。
「・・・ちっさ・・・可愛い・・・」
「名前はもう決まってるのかい?」
久嗣さんが腕の中に抱きながら虎太郎君に問いかけた。
「男の子が響で女の子が奏だよ」
いつの間にか目覚めたあさが答えた。
「ゆうーめっちゃくちゃきつかったー」
起き上がりながら、あさが俺の方に手を伸ばす。響、と呼ばれた子を抱き抱えたまま、俺はあさの隣に行った。ベッドの端に座って子供が落ちないようにしながら、伸ばされた手を握る。
「お疲れ様、あさ」
「もう疲れた疲れた。名前はね、私らじゃセンスがなかったから虎道にーちゃんに頼んだんだ。ふっふー、私たちにそっくりだよね?」
あさが俺の腕の中にいる響の頬をツンツンとしながら笑う。
「ん。すっげー可愛い。18でオジサンになるとは思わなかったけどな」
「オジサン・・・ねー、こた。ゆうと久嗣に話した?」
あさが虎太郎君を見上げながら、首を傾げる。まだ、と虎太郎君が短く返事した。俺と久嗣さんも顔を見合わせて首を傾げる。あさは再び響の頬をつつきながら俺を見た。
「あたし、あと何人かは産む予定なんだよね。でね、まーすぐにとは言えないんだけどさ・・・」
「うん?」
「響か奏、どちらかをゆうの養子にしたい」
「えっ」
「えっ」
俺と久嗣さんの声が重なった。俺達はお互いの顔を見た後に、虎太郎君を見た。
そりゃ、あさは俺の姉だし片割れだし、俺を思ってくれる思いは強いだろうが、父親である虎太郎君はそうではない。
「いや、でも、それは・・・そんな・・・」
いいのかな?と戸惑いながら言葉にする久嗣さんに、俺も頷いた。しかし、虎太郎君はへにゃっと笑う。
「2人で考えたんすよ。育てるのはうちだと思うし、先の話にはなると思うっすけど。ほら、桐月も後継者的なの必要だと思うし・・・それに、まあ・・・」
「ゆうになら、任せられる。ま、こたが言ったように先の話ね。この子らが嫌がったら無理だけどさ。でもどっちもきっと・・・ゆうを好きになるよ。そんな気がする。てぇか、私が産む子はゆうに懐くよ。だって、私たち、そっくりだもん」
子供達も間違えるかもよ?とあさはおどけて笑った。
「久嗣には懐かないかもなー駄目男だしなー」
「いやいやいや・・・もうそろそろね、あさちゃんさぁ・・・」
二人がそんな風にやりとりしてる中で、ぼろっと俺の目から涙が溢れた。
おあああああああああ!!涙腺んんんんんんんんんん!!!!
あさが笑うのをやめて瞬きを繰り返した後、俺の涙を指先で拭う。
「なーに?嬉しくて泣いちゃった?」
あさが、こつん、と俺の額に自分の額を付ける。
そりゃな。嬉しいというか、何というか・・・。言葉にしがたい嬉しさの感情だ。次から次へと溢れる涙の一つが、俺の抱く響の手にぽたりと落ちた。まだ何もわからない子供は、手をぱたぱたと動かすばかりだ。
「あさぁ・・・・・・」
「出来たおねーちゃんでしょ?」
ふふ、とあさは笑い声を漏らす。
久嗣さんは自分の抱いていた子を虎太郎君に預けて、俺の背中を撫でた。
「ありがとう、あさちゃん。虎太郎くん」
「べっつに。久嗣のためじゃねーし!早くちゃんとゆうを籍に入れてよね!じゃないと子供は預けないし、ゆうを谷に引き取るから!」
ゆうならよりどりみどりだからね!と付け加えて、合わせた額同士を擦り合わせて離れた。久嗣さんを見上げると若干焦りつつも、
「そこはちゃんとするつもりだよ。ゆうくんを谷さんのお宅には渡す気はないしね」
背中を撫でていた手が、俺の頭を撫でる。
「フン。あたしのゆうなんだから、大事にしてよね」
近くいる久嗣さんを遠慮なく、あさはグーで殴る。下腹を目掛けて。だからそこな、怖いから、男にとってな・・・。
う、とうめいた後に、勿論、と久嗣さんは頷いた。つうか、結構大事にされている気はするけどなぁ、俺。たまに久嗣さんは行き過ぎるところもあるがーー主に嫉妬がーー、俺的にはそれも嬉しいわけで。いたす回数も久嗣さんなりには考えてくれるようになっていて、逆に俺が「少なくない?!」と迫る日もあったりする。まあ、俺に色々と教えたのは間違いなくこの人なので、自業自得ってやつだ。
もぞ、と抱いていた響が動いた。だが、嬉しいことに俺が抱いていても嫌そうじゃない。ぱくぱくと開く口が何か喋っているようで、最高に可愛い。
思わずその額に頬ずりをした。
「やべぇ、ゆうが母親に見えてきた・・・あたしが産んだはずなのに・・・」
「え、ゆうくんが産んだ・・・?」
「いやいやいや、俺らの子供だけどな?!でもすげー懐いてる気はする」
それぞれに口にするものだから、俺は思わず笑ってしまった。
腕の中にいる響も、それに応じるように両手で伸びをした。
それからほどなくして両親に麗華さん、谷家の面々ーーと鷹我さんの婚約者の撫子さんーーがぞろぞろやってきた。どうやら、あさが全員を呼んだらしい。
元気なのは良いことだが、大丈夫か・・・俺の方が心配になる。しかし心配をよそに、誰かが差し入れてくれたフルーツをあさはモリモリと食べている。動かないから辛いには辛いのだろうが・・・まあ、元気なのは良いことか。
そんな中、皆が口々にお祝いをあさに伝えていて、俺は俺でなんだか誇らしいわ嬉しいわと言った心地だ。
虎道さんなんか「祝日だな今日は!日本政府にかけあうべきだ!」と言い出し、近くにいた麗華さんへと「ついでに嫁に来ないか?!」と迫っていたが麗華さんは「祝日の件には賛成するけれど、昼乃が穢れるからそばに来ないでくださる?」とぴしゃりと言っていた。虎道さんはそれにめげることなく「明敬がいないときがチャンスだ!」と息を巻いていた。懲りない人だな、と苦笑しかない。
姫先輩は「俺まで連れてこられたけどいいのかな」と居心地悪そうだったが、子供達を見ると、笑顔になった。もっと居心地が悪かったのはどうして良いかわからない顔をしていた大濠さんだろう。それでも子供の一人を姫先輩が抱っこした時は写真を撮りまくって「俺の子か・・・?」と錯乱していたので、まあ、先輩のところもラブラブなんだな、と思った。
ちなみに養子のことをあさが麗華さんに話すと、放心した後に泣き崩れていて「昼乃と私の孫がああああああ」と叫んで、久嗣さんが遠い目をしていた。いつも通りだ。
俺は少し離れて、病室の窓側に立ち、皆を見る。そこは笑顔が溢れていて、優しく暖かな空間だ。久嗣さんが俺に気付くと、隣へと来る。
「疲れた?」
「いや・・・なんか嬉しいなって。皆が笑顔で。1年前はどうしようかって思ってた頃だからさ」
「あー確かに、そうだね。でも、うん・・・僕はゆうと一緒になれて、良かった。そして、あーちゃんも幸せになってくれて良かった・・・僕はゆうが居て、ゆうを愛せて幸せだったけど、あーちゃんのことを考えるとね・・・」
ちょっと重荷だったんだ、と心情を吐露する。そりゃ、そうだよな。逃げた人間のことを考えれば、そうそう両手を挙げて幸せになれるものでもない。それは俺も一緒で、気になっていたことで、あさには感謝しかない。しかもあさは・・・
「俺に養子、とか・・・びっくりした。色々と考えてくれてたんだな、って」
久嗣さんは俺の背中に手を回してゆっくりと撫でた。
「凄いね、あーちゃんは。幸福の女神様みたいだ」
女神様・・・まあ、それはそうだが・・・あいつが女神っていうと、
「戦と混沌の女神、とかが似合うなぁ・・・」
俺がぼそっと言うと、久嗣さんが思わず笑った。違いない、と同意しながら。
「あー、でもさ・・・」
「うん?」
「俺、あさに結婚相手も子供も用意されたな、って思って」
俺の言葉に、久嗣さんは目を瞬かせた後、また笑った。
「ははっ、あーちゃんは頼れるお姉さんだねえ。僕も負けてられないな」
あさもまさか逃げた先でーーというかあさの逃亡劇にはガッツリと父さんが関わってた。父さんが披露宴中に青い顔をしていたのは、地理に強いあさがなかなか谷家に辿り着かなかったかららしい。遅くなった理由はただの買い食いだったーー恋人ができて、そこで子供までできるとは思って・・・いや、確信犯っぽいが・・・新郎は確実に譲ってくれたわけで。
「そういえば久嗣さんは料理教えてたでしょ、あさに」
「ああ、そうだったね。最後に作ってもらったのはバレンタインのザッハトルテだったかな・・・?あれはよくできてた。最初台所燃やした頃から比べると成長したよねえ。離乳食作り手伝いたいなぁ」
懐かしむように久嗣さんが話すのを聞くと、申し訳ない気持ちになる。何せあれはーー。
「あのザッハトルテ俺が作ったんだ」
「・・・え?」
「あさにバレンタイン何作るか聞いたら『作っといて!』て言われてさ。俺は俺で、久嗣さんに食べてもらうう最後のチャンスだ、なんて湿っぽいメンタルで作ったんだよ」
一年と少し前の秘密ごとだ。あれを渡した後、めっちゃ褒められてすごく嬉しかった。はは、懐かしい。
「そうか、そうかぁ・・・君達の見た目で騙されたことはないけど、ああ、騙されちゃったな。美味しかったよあれ」
久嗣さんの手が背中から俺の肩へと周り、身体を寄せられる。
周りが気になったが、どうやらあさと子供達に夢中で、こちらを見る人なんかいないようだ。
「あ」
久嗣さんが俺の肩を抱きながらも窓の外を見て声を上げる。
「どうしたの?」
問いかけると、下を見てごらん、と言われて俺は視線を窓の外、下を見た。
産院の裏手は教会だったようで、そこではちょうど結婚式が催されていた。
多くの人の中を新郎新婦が歩いている。
「結婚式、やっぱり早めにしたいなぁ・・・今度はちゃんとゆうが相手だと認識したうえでしたい」
お互いに思い出すのは、あの一年前の結婚式だ。あそこから始まり、色々とあったな、と思い出す。あの時俺はこの人が好きで、でも言えなくて。この人は花嫁に逃げられて慌てて・・・。
「籍も僕としては早めにいれたいんだよ?奥さん」
「それは、うん。その・・・だって、さぁ・・・」
俺は別に問題ないが、久嗣さんのことを考えるとどうしても憚られて、久嗣さんから何度も申し出はあったが断り続けていた。でも、そうだなぁ・・・。
「でも、うん・・・子供が出来るなら、ね。・・・考えてみる」
何から何まであさはお見通しなのかもしれないな、と俺には思えた。
ちなみにだね、と久嗣さんは続ける。
「子供達連れて、遊園地とかも行きたいなぁ・・・動物園とか水族館もいいね。うちに来るのが一人としても、二人とも僕は可愛がりたい。ゆうと二人で。それで人生の終わりには一緒の老人ホームに入って同じお墓に入る」
「えぇ?!えらく飛んだね?!60年くらいかっ飛ばしてない?!」
俺が突っ込むと久嗣さんが満面の笑みを浮かべた。
「ずっと一緒に居たいんだよ、ゆう」
肩を強く抱かれる。
でも、うん。嬉しい。先の先まで描いてくれるのは嬉しい。
俺と久嗣さんなら、これからも一緒に手を取り合って歩いていけるなと思った。
俺は周囲を確かめて、こちらに目がないことを念入りに確認してから、背伸びをして久嗣さんの頬に口付けた。
「俺もずっと、一緒に居たい。愛してるよ・・・久嗣さん」
久嗣さんは少し驚いて俺を見て、次の瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。
丁度そのときーー。
リンゴーンと教会の鐘が鳴り響く。
三月某日晴天。大変にお日柄もよく。
桜も何とか残っていて、春の光も温かい今日は、未来へと歩み出すにはうってつけの日。
『弟の俺が姉の身代わりで新妻になった件』
ーー終ーー
病室というには豪華な扉を開けて、ちょうど廊下に先に居たスーツ姿の久嗣さんへと手を振った。
俺を見つけるなり、スーツ姿のその人はこちらへと駆け寄ろうとしてーー院内なので通りがかった看護師さんに注意されて、謝っている。
うん、まあ、気が急くのははわかる・・・何せ先ほど、この病室に入る前に俺は全く同じことをしでかした。一緒に暮らすと似てくるのかもしれない。
久嗣さんは苦笑を浮かべつつ、俺の前に来た。室内へと案内をする。
「赤ちゃん達は?」
「あさの隣にいるよ」
ほら、と手で小さな小さな子供達を指した。
部屋の中には、あさと子供達、そして虎太郎君ーー一応年上なので敬称はつけてやっているーーに俺と久嗣さんだけだ。
「あれ?お義父さん達は?」
「あ、さっきまでいたんだけど、一回帰るって」
そうなんだ、と頷きながら久嗣さんは、手に持っていた紙袋を挨拶をしつつ虎太郎君に渡した。そういえばあさが好きなお菓子を持っていく、とメッセージにあった。こういうところ、ちゃんと気がつく人なので、とても鼻が高い。
子供達のそばに俺が寄ると、久嗣さんも隣へと来た。
「うわぁ、ちっちゃいなあ。かわいいなあ。きみたちのこと思い出すなぁ・・・」
感慨深げに久嗣さんはそう言いながら微笑んだ。
あさは双子を産んだ。男女の兄弟で、2000グラムと少しの元気な子達だ。少し早く産まれたものの安産で、双子はとても元気にふにゃふにゃと動いている。あさも元気そのものではあるが、疲れたのだろう。よだれを垂らしつつぐうぐう寝ていた。
「抱っこさせてもらってもいいのかな?」
久嗣さんが聞くと、虎太郎君が笑顔で頷いた。
「あ、どうぞどうぞ。してやってください」
子供達に向かって手を向けた。・・・くっそ、父親面すんな。父親だけど。もう何ヶ月も経つが、未だに虎太郎君にはあさを取られたという意識しかない。くっそ。
俺もまだ抱っこはしていないので、久嗣さんと2人で手を洗って、緊張しながら子供達に手を伸ばした。
チラリと久嗣さんを見ると、其方もおっかなびっくり。
抱っこをした子供は小さくて暖かくて柔らかい。こんなに小さくて軽いのに内臓とかちゃんとできてるのか、人間って凄い。
俺が抱っこしたのは青い産着を着せてもらっているので、男の子だ。久嗣さんが抱っこしたのがピンク色の産着を着ているので女の子。どちらも面白いくらいに、あさに似ていた。あさに似ている、ということは俺にも似ているわけで。もちろん、母さんにもそっくりだ。色濃く春見の血が出たなぁ・・・。
「・・・ちっさ・・・可愛い・・・」
「名前はもう決まってるのかい?」
久嗣さんが腕の中に抱きながら虎太郎君に問いかけた。
「男の子が響で女の子が奏だよ」
いつの間にか目覚めたあさが答えた。
「ゆうーめっちゃくちゃきつかったー」
起き上がりながら、あさが俺の方に手を伸ばす。響、と呼ばれた子を抱き抱えたまま、俺はあさの隣に行った。ベッドの端に座って子供が落ちないようにしながら、伸ばされた手を握る。
「お疲れ様、あさ」
「もう疲れた疲れた。名前はね、私らじゃセンスがなかったから虎道にーちゃんに頼んだんだ。ふっふー、私たちにそっくりだよね?」
あさが俺の腕の中にいる響の頬をツンツンとしながら笑う。
「ん。すっげー可愛い。18でオジサンになるとは思わなかったけどな」
「オジサン・・・ねー、こた。ゆうと久嗣に話した?」
あさが虎太郎君を見上げながら、首を傾げる。まだ、と虎太郎君が短く返事した。俺と久嗣さんも顔を見合わせて首を傾げる。あさは再び響の頬をつつきながら俺を見た。
「あたし、あと何人かは産む予定なんだよね。でね、まーすぐにとは言えないんだけどさ・・・」
「うん?」
「響か奏、どちらかをゆうの養子にしたい」
「えっ」
「えっ」
俺と久嗣さんの声が重なった。俺達はお互いの顔を見た後に、虎太郎君を見た。
そりゃ、あさは俺の姉だし片割れだし、俺を思ってくれる思いは強いだろうが、父親である虎太郎君はそうではない。
「いや、でも、それは・・・そんな・・・」
いいのかな?と戸惑いながら言葉にする久嗣さんに、俺も頷いた。しかし、虎太郎君はへにゃっと笑う。
「2人で考えたんすよ。育てるのはうちだと思うし、先の話にはなると思うっすけど。ほら、桐月も後継者的なの必要だと思うし・・・それに、まあ・・・」
「ゆうになら、任せられる。ま、こたが言ったように先の話ね。この子らが嫌がったら無理だけどさ。でもどっちもきっと・・・ゆうを好きになるよ。そんな気がする。てぇか、私が産む子はゆうに懐くよ。だって、私たち、そっくりだもん」
子供達も間違えるかもよ?とあさはおどけて笑った。
「久嗣には懐かないかもなー駄目男だしなー」
「いやいやいや・・・もうそろそろね、あさちゃんさぁ・・・」
二人がそんな風にやりとりしてる中で、ぼろっと俺の目から涙が溢れた。
おあああああああああ!!涙腺んんんんんんんんんん!!!!
あさが笑うのをやめて瞬きを繰り返した後、俺の涙を指先で拭う。
「なーに?嬉しくて泣いちゃった?」
あさが、こつん、と俺の額に自分の額を付ける。
そりゃな。嬉しいというか、何というか・・・。言葉にしがたい嬉しさの感情だ。次から次へと溢れる涙の一つが、俺の抱く響の手にぽたりと落ちた。まだ何もわからない子供は、手をぱたぱたと動かすばかりだ。
「あさぁ・・・・・・」
「出来たおねーちゃんでしょ?」
ふふ、とあさは笑い声を漏らす。
久嗣さんは自分の抱いていた子を虎太郎君に預けて、俺の背中を撫でた。
「ありがとう、あさちゃん。虎太郎くん」
「べっつに。久嗣のためじゃねーし!早くちゃんとゆうを籍に入れてよね!じゃないと子供は預けないし、ゆうを谷に引き取るから!」
ゆうならよりどりみどりだからね!と付け加えて、合わせた額同士を擦り合わせて離れた。久嗣さんを見上げると若干焦りつつも、
「そこはちゃんとするつもりだよ。ゆうくんを谷さんのお宅には渡す気はないしね」
背中を撫でていた手が、俺の頭を撫でる。
「フン。あたしのゆうなんだから、大事にしてよね」
近くいる久嗣さんを遠慮なく、あさはグーで殴る。下腹を目掛けて。だからそこな、怖いから、男にとってな・・・。
う、とうめいた後に、勿論、と久嗣さんは頷いた。つうか、結構大事にされている気はするけどなぁ、俺。たまに久嗣さんは行き過ぎるところもあるがーー主に嫉妬がーー、俺的にはそれも嬉しいわけで。いたす回数も久嗣さんなりには考えてくれるようになっていて、逆に俺が「少なくない?!」と迫る日もあったりする。まあ、俺に色々と教えたのは間違いなくこの人なので、自業自得ってやつだ。
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思わずその額に頬ずりをした。
「やべぇ、ゆうが母親に見えてきた・・・あたしが産んだはずなのに・・・」
「え、ゆうくんが産んだ・・・?」
「いやいやいや、俺らの子供だけどな?!でもすげー懐いてる気はする」
それぞれに口にするものだから、俺は思わず笑ってしまった。
腕の中にいる響も、それに応じるように両手で伸びをした。
それからほどなくして両親に麗華さん、谷家の面々ーーと鷹我さんの婚約者の撫子さんーーがぞろぞろやってきた。どうやら、あさが全員を呼んだらしい。
元気なのは良いことだが、大丈夫か・・・俺の方が心配になる。しかし心配をよそに、誰かが差し入れてくれたフルーツをあさはモリモリと食べている。動かないから辛いには辛いのだろうが・・・まあ、元気なのは良いことか。
そんな中、皆が口々にお祝いをあさに伝えていて、俺は俺でなんだか誇らしいわ嬉しいわと言った心地だ。
虎道さんなんか「祝日だな今日は!日本政府にかけあうべきだ!」と言い出し、近くにいた麗華さんへと「ついでに嫁に来ないか?!」と迫っていたが麗華さんは「祝日の件には賛成するけれど、昼乃が穢れるからそばに来ないでくださる?」とぴしゃりと言っていた。虎道さんはそれにめげることなく「明敬がいないときがチャンスだ!」と息を巻いていた。懲りない人だな、と苦笑しかない。
姫先輩は「俺まで連れてこられたけどいいのかな」と居心地悪そうだったが、子供達を見ると、笑顔になった。もっと居心地が悪かったのはどうして良いかわからない顔をしていた大濠さんだろう。それでも子供の一人を姫先輩が抱っこした時は写真を撮りまくって「俺の子か・・・?」と錯乱していたので、まあ、先輩のところもラブラブなんだな、と思った。
ちなみに養子のことをあさが麗華さんに話すと、放心した後に泣き崩れていて「昼乃と私の孫がああああああ」と叫んで、久嗣さんが遠い目をしていた。いつも通りだ。
俺は少し離れて、病室の窓側に立ち、皆を見る。そこは笑顔が溢れていて、優しく暖かな空間だ。久嗣さんが俺に気付くと、隣へと来る。
「疲れた?」
「いや・・・なんか嬉しいなって。皆が笑顔で。1年前はどうしようかって思ってた頃だからさ」
「あー確かに、そうだね。でも、うん・・・僕はゆうと一緒になれて、良かった。そして、あーちゃんも幸せになってくれて良かった・・・僕はゆうが居て、ゆうを愛せて幸せだったけど、あーちゃんのことを考えるとね・・・」
ちょっと重荷だったんだ、と心情を吐露する。そりゃ、そうだよな。逃げた人間のことを考えれば、そうそう両手を挙げて幸せになれるものでもない。それは俺も一緒で、気になっていたことで、あさには感謝しかない。しかもあさは・・・
「俺に養子、とか・・・びっくりした。色々と考えてくれてたんだな、って」
久嗣さんは俺の背中に手を回してゆっくりと撫でた。
「凄いね、あーちゃんは。幸福の女神様みたいだ」
女神様・・・まあ、それはそうだが・・・あいつが女神っていうと、
「戦と混沌の女神、とかが似合うなぁ・・・」
俺がぼそっと言うと、久嗣さんが思わず笑った。違いない、と同意しながら。
「あー、でもさ・・・」
「うん?」
「俺、あさに結婚相手も子供も用意されたな、って思って」
俺の言葉に、久嗣さんは目を瞬かせた後、また笑った。
「ははっ、あーちゃんは頼れるお姉さんだねえ。僕も負けてられないな」
あさもまさか逃げた先でーーというかあさの逃亡劇にはガッツリと父さんが関わってた。父さんが披露宴中に青い顔をしていたのは、地理に強いあさがなかなか谷家に辿り着かなかったかららしい。遅くなった理由はただの買い食いだったーー恋人ができて、そこで子供までできるとは思って・・・いや、確信犯っぽいが・・・新郎は確実に譲ってくれたわけで。
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「・・・え?」
「あさにバレンタイン何作るか聞いたら『作っといて!』て言われてさ。俺は俺で、久嗣さんに食べてもらうう最後のチャンスだ、なんて湿っぽいメンタルで作ったんだよ」
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「そうか、そうかぁ・・・君達の見た目で騙されたことはないけど、ああ、騙されちゃったな。美味しかったよあれ」
久嗣さんの手が背中から俺の肩へと周り、身体を寄せられる。
周りが気になったが、どうやらあさと子供達に夢中で、こちらを見る人なんかいないようだ。
「あ」
久嗣さんが俺の肩を抱きながらも窓の外を見て声を上げる。
「どうしたの?」
問いかけると、下を見てごらん、と言われて俺は視線を窓の外、下を見た。
産院の裏手は教会だったようで、そこではちょうど結婚式が催されていた。
多くの人の中を新郎新婦が歩いている。
「結婚式、やっぱり早めにしたいなぁ・・・今度はちゃんとゆうが相手だと認識したうえでしたい」
お互いに思い出すのは、あの一年前の結婚式だ。あそこから始まり、色々とあったな、と思い出す。あの時俺はこの人が好きで、でも言えなくて。この人は花嫁に逃げられて慌てて・・・。
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俺は別に問題ないが、久嗣さんのことを考えるとどうしても憚られて、久嗣さんから何度も申し出はあったが断り続けていた。でも、そうだなぁ・・・。
「でも、うん・・・子供が出来るなら、ね。・・・考えてみる」
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ちなみにだね、と久嗣さんは続ける。
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「えぇ?!えらく飛んだね?!60年くらいかっ飛ばしてない?!」
俺が突っ込むと久嗣さんが満面の笑みを浮かべた。
「ずっと一緒に居たいんだよ、ゆう」
肩を強く抱かれる。
でも、うん。嬉しい。先の先まで描いてくれるのは嬉しい。
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「俺もずっと、一緒に居たい。愛してるよ・・・久嗣さん」
久嗣さんは少し驚いて俺を見て、次の瞬間、ぎゅっと抱きしめられる。
丁度そのときーー。
リンゴーンと教会の鐘が鳴り響く。
三月某日晴天。大変にお日柄もよく。
桜も何とか残っていて、春の光も温かい今日は、未来へと歩み出すにはうってつけの日。
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沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
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