恋した君は、嘘のキミ──それでも、好きにならずにいられなかった──

めがねあざらし

文字の大きさ
22 / 40

第22話:似ている笑顔

しおりを挟む
昼下がりのキャンパスは、春から初夏へ移ろう匂いをまとっていた。
中庭に面したベンチには、のんびりと昼食を広げる学生もいれば、参考書を開いたまま居眠りしている者もいる。
その中で、俺はプリントを抱えたまま立ち止まってしまった。

――視界の端に、桐嶋奏真の姿があったからだ。

カーディガンを肩に掛け、ベンチの背もたれに軽く体を預けている。
その隣には、見覚えのない女の子。
同じゼミか、サークルの後輩かもしれない。
彼女が何かを話すと、奏真は笑って頷いていた。
眼鏡の奥の目尻が、いつもより柔らかく見える。

(……なんだよ、これ)

胸の奥が、不意にざわついた。
別にどうでもいいはずだ。
俺とあいつの関係なんて、ただの同級生。
多少口をきいて、多少助けられて、多少からかわれて。
それ以上でも、それ以下でもない。

……はずなのに。

「……なんで、俺が気にしてんだよ」

声にならない呟きが、喉の奥で燻る。
気づけば、足が止まっていた。
プリントを持った手に、知らないうちに力がこもる。
紙の角が指先に食い込んで、痛みがじわりと広がる。

(見なきゃいいだろ。歩けばいいだけなのに)

そう思っても、視線は勝手に彼らを追っていた。
笑い合う声が、風に乗って断片的に耳に届く。
そのたびに、胸の奥で針が小さく刺さるみたいな感覚が走った。

そして――奏真がふっと笑った瞬間。

(……っ)

時間が一瞬だけ止まったように感じた。
その笑顔が。
つい昨夜、店の照明の下で見た、レオンの笑顔に重なったのだ。

柔らかさも、目尻の角度も、光を反射する仕草さえも。
頭が勝手に二人の輪郭をなぞり合わせる。

(似てる……? いや、そんな……まさか……)

鼓動が速くなる。
手の中のプリントがしわを作るほど握り込まれる。

「……あれ、奏真くん。あの人、友達?」

女の子の声が、中庭のざわめきに混じって届いた。
俺の方を見たような気がして、心臓が跳ねた。

奏真はちらりとこちらを見て――軽く笑って言った。

「まあ、そうかな」

何でもない調子。
いつもの無表情に近いのに、なぜか突き放されたような響きに聞こえた。

(……「まあ、そうかな」)

その曖昧な一言が、胸に小さな痛みを落とす。
ほんの針先ひとつぶんの痛みが、じわじわと広がっていく。

「……なんなんだよ、俺……」

自分でも意味がわからない。
ただの同級生だろう?
それ以上でも以下でもない。
レオンと重ねる必要なんて、どこにもない。
似ているはずがない。似ていたら困る。似ていたら――。

(いや、まさか。本当に……?)

頭の中で問いが渦を巻く。
答えは出ないのに、否定の声だけが無理に大きく響く。

俺は気づかれないように足を速めた。
ベンチを背にして歩き出す。
けれど、胸の奥でざわめきは収まらない。
むしろ歩けば歩くほど、痛みが濃くなる。

中庭を抜けて校舎の影に入ったとき、深く息を吐いた。
息が白くならないのが不思議なくらい、胸の奥は冷えているのに、同時に熱を帯びていた。

――レオンの笑顔。
――奏真の笑顔。

本当に、似ていたのか?
人の顔ってどう判断するっけ?
声。そう奏真の声はどんなんだった?
さっき聞いたのに、どうしても頭の中で繰り返せない。
レオンと似てるのか似てないのか。
それとも、俺の心が勝手に似せたのか?

わからない。
わからないからこそ、余計に苦しい。

(……なんなんだよ、俺……)

そう繰り返しても答えは出なかった。
ただ胸の奥で、痛みだけが確かに残っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

馬鹿な先輩と後輩くん

綿毛ぽぽ
BL
美形新人×平凡上司 新人の教育係を任された主人公。しかし彼は自分が教える事も必要が無いほど完璧だった。だけど愛想は悪い。一方、主人公は愛想は良いがミスばかりをする。そんな凸凹な二人の話。 ━━━━━━━━━━━━━━━ 作者は飲み会を経験した事ないので誤った物を書いているかもしれませんがご了承ください。 本来は二次創作にて登場させたモブでしたが余りにもタイプだったのでモブルートを書いた所ただの創作BLになってました。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

君の隣は

ゆい
BL
修学旅行での班分けで、隠キャな僕が席が隣というだけで、イケメンの班のメンバーに誘われた。人数合わせの為に。 その中でも圧倒的なオーラを放つ彼が、何故か僕を構ってくる。 なんの取り柄もない僕になんで? またしても突発的な思いつきによる投稿です。楽しくお読みいただけたら嬉しいです。 久々(アルファポリスでは初)の現代BLです。言葉遣いが今の子達と違和感があるかと思いますが、限りなくスルーしていただけると有難いです。言葉遣いのおかしい箇所のご報告は有難いです。 今回もセリフが多めです。 誤字脱字等で文章を突然改稿するかもです。誤字脱字のご報告をいただけると有難いです。

インフルエンサー

うた
BL
イケメン同級生の大衡は、なぜか俺にだけ異様なほど塩対応をする。修学旅行でも大衡と同じ班になってしまって憂鬱な俺だったが、大衡の正体がSNSフォロワー5万人超えの憧れのインフルエンサーだと気づいてしまい……。 ※pixivにも投稿しています

とあるΩ達の試練

如月圭
BL
 吉住クレハは私立成城学園に通う中学三年生の男のオメガだった。同じ学園に通う男のオメガの月城真とは、転校して初めてできた同じオメガの友達だった。そんな真には、番のアルファが居て、クレハはうらやましいと思う。しかし、ベータの女子にとある事で目をつけられてしまい……。  この話はフィクションです。更新は、不定期です。

オメガ判定されました日記~俺を支えてくれた大切な人~

伊織
BL
「オメガ判定、された。」 それだけで、全部が変わるなんて思ってなかった。 まだ、よくわかんない。 けど……書けば、少しは整理できるかもしれないから。 **** 文武両道でアルファの「御門 蓮」と、オメガであることに戸惑う「陽」。 2人の関係は、幼なじみから恋人へ進んでいく。それは、あたたかくて、幸せな時間だった。 けれど、少しずつ──「恋人であること」は、陽の日常を脅かしていく。 大切な人を守るために、陽が選んだ道とは。 傷つきながらも、誰かを想い続けた少年の、ひとつの記録。 **** もう1つの小説「番じゃない僕らの恋」の、陽の日記です。 「章」はそちらの小説に合わせて、設定しています。

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

処理中です...