47 / 64
11-5
しおりを挟む
ロベルトと王の謁見が終わり、レオナードが軍務のため詰所へ向かったのは昼前のことだった。
「外出は控えろ」と言い残していったものの、今のエリアスを完全に閉じ込めようとはしていない。
それならば、とエリアスはハルトのもとへ向かうことにした。
ハルトの元ならば王宮内であり、問題ないと判断したからだ。
(……随分とハルトとも会っていない。カーティスの話によると心配しているみたいだし……)
ハルトは最近、貴賓室から離宮に移されたようで、そちらへ向かうと、侍女がすぐに彼を通してくれた。
「ハルト様は庭園にいらっしゃいます」
案内されながら歩いていると、噴水の近くに佇むハルトの姿が見えた。
茶色の瞳がふとエリアスに気づき、瞬間、表情がぱっと輝いた。
「エリアス様!!」
勢いよく駆けてきたと思えば、そのまま、エリアスの腕を掴み――強く抱きしめられる。
「エリアス様っ!! よかった……! 無事で……!」
驚く間もなく、ハルトの体温が伝わってくる。
思わず固まるエリアスをよそに、彼は震える声で続けた。
「ずっと、ずっと心配してたんです! 急に王弟妃になったって聞いて、でも全然会えなくて……!」
「……そんなに?」
「そんなに、です!!」
ハルトは顔を上げ、潤んだ瞳でエリアスを見つめる。
その表情は本当に心配していたようで、エリアスは内心で申し訳なく思った。
レオナードのことや王宮の状況、暗殺未遂の件……いろいろあったとはいえ、ハルトに何の説明もできていなかった。
それに気づき、エリアスは少し力を抜き、そっと彼の肩に手を置いた。
「心配をかけてすみませんでした」
「……エリアス様……」
「でも、こうしてちゃんと元気にしてますよ。だから、安心して下さい」
ハルトの肩を軽く叩きながら、エリアスは優しく微笑んだ。
ハルトは目をぱちぱちと瞬かせたあと、ほっとしたように笑みを浮かべる。
「……よかったぁ……!」
しかし――。
「――それで、いつまで抱きついているつもりだ?」
突然、低く冷ややかな声が割り込んできた。
「っ……!」
ハルトがビクリと肩を震わせ、エリアスの腕を放した。
エリアスが振り返ると、そこにはレオナードが立っていた。
(……レオ様、軍務に行っていたはずでは……)
しかし、そんな疑問を口にするよりも早く、レオナードがエリアスの腕を引き寄せる。
その手には、いつもの余裕はなかった。
「目を離すとすぐこれだ……お前は、誰のものだ?」
低く囁かれ、背筋がぞくりとする。
「……っ、レオ様……」
(まさか、嫉妬……?)
そう思った次の瞬間――。
「御子ハルト」
レオナードは冷静な声でハルトを見た。
「エリアスに近づくなと言うつもりはないが、お前には確認しておくことがある」
「え……?」
「お前、最近、不審な動きを感じたことはないか?」
ハルトの表情が曇る。
「……え?」
「お前の身辺で、妙な出来事はなかったかと聞いている」
「え……あ……」
ハルトは、少しだけ視線を逸らした。
「……実は、ありました」
エリアスとレオナードが同時に目を細める。
「詳しく」
促され、ハルトは小さく息をついた。
「……最近、宮殿の中で使用人たちが何かひそひそと話していたんです。でも、俺が近づくとすぐに黙ってしまう……。それに、夜になると誰かの気配を感じることが増えて……」
「それは、気のせいではなさそうですか?」
エリアスが慎重に問いかけると、ハルトは首を振った。
「そう思っていたんですが……実は、セオドール様がすでに何人か怪しい者'を排除したみたいで……」
「セオドールが……?」
レオナードの眉がわずかに動く。
「ええ。でも、全部は把握できていないみたいです。まだ何かが隠されている気がして……」
「……ハルト、お前は巻き込まれつつある、ということだな」
エリアスは真剣な表情で言った。
「どういう……ことですか?」
「つまり、お前自身が標的というわけではなく、お前の周囲で何者かが暗躍している。そして、それをセオドールが排除し続けている……」
「それって……!」
ハルトが息をのむ。
「まだ確定ではないが……何かが動いているのは間違いない。まあ、何かというか……あの方だろうが」
レオナードが静かに言った。
「エリアス」
「はい」
「ハルトを、私たちの側につける」
「……え?」
ハルトがきょとんと目を丸くする。
エリアスは小さく頷いた。
「お前はすでに事件に巻き込まれつつある。ならば、お前を守らねばならない。お前自身の協力が必要だ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺にそんなこと……」
ハルトは慌てるが、エリアスは静かに彼の手を取った。
「ハルト様、これは 軽い問題ではないんですよ。あなたの身にも危険が迫ってるかもしれない」
「……っ」
「だからこそ、私たちに協力してくれませんか?今私たちは、あなたを狙っているかもしれない人物と戦う準備をしているのです」
ハルトの瞳が揺れる。
「……俺なんかが、役に立つんでしょうか……?」
「お前は、類まれなる力を持つ御子だ」
レオナードがはっきりと言った。
「お前が傷つけば 不吉だと噂される。……その影響を狙って、お前に手を出そうとする者がいるのかもしれない。それは避けたい事態だ」
「……そんな……」
ハルトの肩が震える。
「怖いか?」
レオナードが問いかける。
「……怖いですよ、それは……俺、そんな経験ないし」
正直にそう答えたハルトは、しかし、意を決したように拳を握りしめた。
「でも……俺も、エリアス様の力になりたいです……!」
エリアスの胸に、暖かいものが広がった。
「ありがとう、ハルト」
レオナードは満足げに頷いた。
///////////////////////////////
次の更新→2/14 PM10:30頃
⭐︎感想いただけると嬉しいです⭐︎
///////////////////////////////
「外出は控えろ」と言い残していったものの、今のエリアスを完全に閉じ込めようとはしていない。
それならば、とエリアスはハルトのもとへ向かうことにした。
ハルトの元ならば王宮内であり、問題ないと判断したからだ。
(……随分とハルトとも会っていない。カーティスの話によると心配しているみたいだし……)
ハルトは最近、貴賓室から離宮に移されたようで、そちらへ向かうと、侍女がすぐに彼を通してくれた。
「ハルト様は庭園にいらっしゃいます」
案内されながら歩いていると、噴水の近くに佇むハルトの姿が見えた。
茶色の瞳がふとエリアスに気づき、瞬間、表情がぱっと輝いた。
「エリアス様!!」
勢いよく駆けてきたと思えば、そのまま、エリアスの腕を掴み――強く抱きしめられる。
「エリアス様っ!! よかった……! 無事で……!」
驚く間もなく、ハルトの体温が伝わってくる。
思わず固まるエリアスをよそに、彼は震える声で続けた。
「ずっと、ずっと心配してたんです! 急に王弟妃になったって聞いて、でも全然会えなくて……!」
「……そんなに?」
「そんなに、です!!」
ハルトは顔を上げ、潤んだ瞳でエリアスを見つめる。
その表情は本当に心配していたようで、エリアスは内心で申し訳なく思った。
レオナードのことや王宮の状況、暗殺未遂の件……いろいろあったとはいえ、ハルトに何の説明もできていなかった。
それに気づき、エリアスは少し力を抜き、そっと彼の肩に手を置いた。
「心配をかけてすみませんでした」
「……エリアス様……」
「でも、こうしてちゃんと元気にしてますよ。だから、安心して下さい」
ハルトの肩を軽く叩きながら、エリアスは優しく微笑んだ。
ハルトは目をぱちぱちと瞬かせたあと、ほっとしたように笑みを浮かべる。
「……よかったぁ……!」
しかし――。
「――それで、いつまで抱きついているつもりだ?」
突然、低く冷ややかな声が割り込んできた。
「っ……!」
ハルトがビクリと肩を震わせ、エリアスの腕を放した。
エリアスが振り返ると、そこにはレオナードが立っていた。
(……レオ様、軍務に行っていたはずでは……)
しかし、そんな疑問を口にするよりも早く、レオナードがエリアスの腕を引き寄せる。
その手には、いつもの余裕はなかった。
「目を離すとすぐこれだ……お前は、誰のものだ?」
低く囁かれ、背筋がぞくりとする。
「……っ、レオ様……」
(まさか、嫉妬……?)
そう思った次の瞬間――。
「御子ハルト」
レオナードは冷静な声でハルトを見た。
「エリアスに近づくなと言うつもりはないが、お前には確認しておくことがある」
「え……?」
「お前、最近、不審な動きを感じたことはないか?」
ハルトの表情が曇る。
「……え?」
「お前の身辺で、妙な出来事はなかったかと聞いている」
「え……あ……」
ハルトは、少しだけ視線を逸らした。
「……実は、ありました」
エリアスとレオナードが同時に目を細める。
「詳しく」
促され、ハルトは小さく息をついた。
「……最近、宮殿の中で使用人たちが何かひそひそと話していたんです。でも、俺が近づくとすぐに黙ってしまう……。それに、夜になると誰かの気配を感じることが増えて……」
「それは、気のせいではなさそうですか?」
エリアスが慎重に問いかけると、ハルトは首を振った。
「そう思っていたんですが……実は、セオドール様がすでに何人か怪しい者'を排除したみたいで……」
「セオドールが……?」
レオナードの眉がわずかに動く。
「ええ。でも、全部は把握できていないみたいです。まだ何かが隠されている気がして……」
「……ハルト、お前は巻き込まれつつある、ということだな」
エリアスは真剣な表情で言った。
「どういう……ことですか?」
「つまり、お前自身が標的というわけではなく、お前の周囲で何者かが暗躍している。そして、それをセオドールが排除し続けている……」
「それって……!」
ハルトが息をのむ。
「まだ確定ではないが……何かが動いているのは間違いない。まあ、何かというか……あの方だろうが」
レオナードが静かに言った。
「エリアス」
「はい」
「ハルトを、私たちの側につける」
「……え?」
ハルトがきょとんと目を丸くする。
エリアスは小さく頷いた。
「お前はすでに事件に巻き込まれつつある。ならば、お前を守らねばならない。お前自身の協力が必要だ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺にそんなこと……」
ハルトは慌てるが、エリアスは静かに彼の手を取った。
「ハルト様、これは 軽い問題ではないんですよ。あなたの身にも危険が迫ってるかもしれない」
「……っ」
「だからこそ、私たちに協力してくれませんか?今私たちは、あなたを狙っているかもしれない人物と戦う準備をしているのです」
ハルトの瞳が揺れる。
「……俺なんかが、役に立つんでしょうか……?」
「お前は、類まれなる力を持つ御子だ」
レオナードがはっきりと言った。
「お前が傷つけば 不吉だと噂される。……その影響を狙って、お前に手を出そうとする者がいるのかもしれない。それは避けたい事態だ」
「……そんな……」
ハルトの肩が震える。
「怖いか?」
レオナードが問いかける。
「……怖いですよ、それは……俺、そんな経験ないし」
正直にそう答えたハルトは、しかし、意を決したように拳を握りしめた。
「でも……俺も、エリアス様の力になりたいです……!」
エリアスの胸に、暖かいものが広がった。
「ありがとう、ハルト」
レオナードは満足げに頷いた。
///////////////////////////////
次の更新→2/14 PM10:30頃
⭐︎感想いただけると嬉しいです⭐︎
///////////////////////////////
853
あなたにおすすめの小説
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
好きだから手放したら捕まった
鳴海
BL
隣に住む幼馴染である子爵子息とは6才の頃から婚約関係にあった伯爵子息エミリオン。お互いがお互いを大好きで、心から思い合っている二人だったが、ある日、エミリオンは自分たちの婚約が正式に成されておらず、口約束にすぎないものでしかないことを父親に知らされる。そして、身分差を理由に、見せかけだけでしかなかった婚約を完全に解消するよう命じられてしまう。
※異性、同性関わらず婚姻も出産もできる世界観です。
※毎週日曜日の21:00に投稿予約済
本編5話+おまけ1話 全6話
本編最終話とおまけは同時投稿します。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
側近候補を外されて覚醒したら旦那ができた話をしよう。
とうや
BL
【6/10最終話です】
「お前を側近候補から外す。良くない噂がたっているし、正直鬱陶しいんだ」
王太子殿下のために10年捧げてきた生活だった。側近候補から外され、公爵家を除籍された。死のうと思った時に思い出したのは、ふわっとした前世の記憶。
あれ?俺ってあいつに尽くして尽くして、自分のための努力ってした事あったっけ?!
自分のために努力して、自分のために生きていく。そう決めたら友達がいっぱいできた。親友もできた。すぐ旦那になったけど。
***********************
ATTENTION
***********************
※オリジンシリーズ、魔王シリーズとは世界線が違います。単発の短い話です。『新居に旦那の幼馴染〜』と多分同じ世界線です。
※朝6時くらいに更新です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる