捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?

めがねあざらし

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第20話:提案という名の……  

 自室に戻ると、全身がどっと重くなった。

 柔らかな羽根布団に背を預けながら、天井を見上げる。白い布地の天蓋が、ゆっくりと揺れていた。外では風が木々を撫でているらしく、窓辺のレースがかすかにふくらんだ。

 ……戻ってこられたんだな。

 そんな、ひとごとのような思いが、ようやく喉まで降りてきた。

(……マリエル姫)

 あのあと、彼女は王妃様付きに引き取られたはずだ。

 あんなに気丈で、誇り高かった人が、僕の腕の中で小さく震えていた。彼女なりに、きっと焦りや恐れがあったのだろう。
 今回の一件が、彼女にどう影響するのかはわからない。でも、殿下のあの様子なら、大きな罰は下されない気がする。見逃してくれるだろう。

 (……友達、になれるかな)

 そう思った瞬間、控えの間の扉がノックされた。

「リオン、入ってもいいか?」

 低く落ち着いた声。すぐにわかった。僕は慌てて体を起こし、襟を整えてから答えた。

「……どうぞ」

 入ってきたのは、ガルハルト殿下だった。

 戦装束ではなかったが、軍服のような簡素な上着を着ていた。あのときの怒気は、すでに影を潜めている。けれど、目元の険しさはそのままだった。

「すまなかった」

 入って早々、そう言われて、僕は思わずまばたきした。

「え……なにが、ですか」
「気づくのが、遅れたことだ」

 彼は僕の正面の椅子に腰を下ろすと、静かに言葉を継いだ。

「警備は決して甘くはなかった。それでも、君のような“特別な存在”を、狙おうと思えば狙えるという証明になった」

 その言葉のひとつひとつが、僕の胸に重たく降ってくる。

「そ、そこまで深いものでは……僕は無事でしたし、少し注意すれば──」

 口にした瞬間、彼が眉を寄せた。

「リオン」

 名前を呼ばれた声に、思わず言葉を呑んだ。

「君は、自分の価値をまるでわかっていない」

 その声音は、叱責というより、危惧と……わずかな痛みを含んでいた。

「君の力は特殊だ。これまで君の能力が見つからなかったのは、周囲に“理解できる者がいなかった”からだ。だがここでは違う。君の能力を皆が稀有で得難いものだと考えている、故に……今後、狙われる可能性は充分にある」
「……はい」
「それを、今回まで見抜けていなかったのは私の落ち度だ。今回は動機が異なるようだが、だからといって次がないとは限らない」

 その瞳に、わずかに影が落ちた。

 ……そこまで、僕のことを考えてくれていたんだろうか。

 黙ったまま俯いた僕に、殿下は少し言いにくそうに言葉を継いだ。

「そこで、提案がある」

 その前置きだけで、なんだか……嫌な予感がした。
 とんでもないことを言われるような、そんな予感。

「……はい?」
「私と同じ部屋で生活するのは、どうだろうか」
「………………は?」

 耳を疑った。いや、聞き間違いであってほしかった。
 
 殿下と、同じ部屋……?

 頭の中で数回繰り返して、ようやくその言葉が理解できた。
 僕はそのとんでもない提案に恐る恐る口を開いた。

「そ、それは、つまり……“同室”という意味ですか!?」
「ああ。警護しやすくて助かるのだが」
「いやいやいやいや!それは無理ですって!いくら何でも!」

 思わず腰を浮かせそうになるのを、ぎりぎりでこらえる。
 嫌な予感は的中だ。

(どこの世界に王太子殿下と同室で過ごす人間がいるんだ……それに)

「僕はオメガですし、その……いろいろと、殿下にご迷惑をおかけするかもしれません」

 僕の第二の性は実に厄介だ。
 男女ともに子を孕めるという希少性はあるものの、それには発情期が付きまとう。
 その時になれば、アルファを誘うためのフェロモンが僕から発せられるだろう。
 獣人の殿下にどれだけ人間である僕のそれが効くのかはわからないが……。

(それこそ、間違いがあったら……せっかく僕を受け入れてくれているこの国に顔向けができない……)

 すると、ガルハルト殿下がふっと微笑んだ。

「冗談だ。……半分はな」

 その笑顔には少しばかり悪戯めいたものが見え隠れしている。
 つまり、揶揄われたらしい。

「半分!?半分ってなんですか……そんなさらっと……!」
「まあまあ、落ち着いてくれ」

 彼が笑いを抑えるように口元を押さえて、ようやく続けた。

「君を“安全に、そして自然に”警護できる場所が必要だ。私の部屋の隣にある接続部屋は、長らく空いている。あそこならば、君が使っても誰も文句は言わない」
「え……?」

 多少の違和感を覚えたけれど、今はそれよりも“安全に自然に”の方が大きかった。

「部屋同士は内扉で繋がっている。君が危惧しているようなことも……まあ、なんとかなるだろう。なんといっても、もし何かあっても、すぐ駆けつけられる距離だ」

 ……たしかに、それは安心かもしれない。
 自分で“危険はない”なんて言ったくせに、こうして提案されると、内心では少し安堵してしまう。

「……それなら、わかりました。そのお部屋を、僕が使わせてもらいます」
「了解した」

 それだけを言って、彼は立ち上がった。けれど、その背にはどこか……言いようのない余韻が残っていた気がした。

(……あれ、なんか……やっぱり妙だ)

 でも、それを問いただす勇気は、さすがにまだ僕にはなかった。




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次の更新は夜(21:30・21:40)となります。
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