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第21話:どういう部屋?
新しい部屋へ案内されたとき、僕は正直──少し戸惑っていた。
天井が高く、窓も大きくて、朝になればたっぷりと光が差し込むだろう。壁の装飾は繊細で、家具も上質なものばかり。天蓋付きの寝台、大理石の洗面台、書き物机には金色の縁取り。
(……え、これ、本当に僕の部屋?)
不思議なくらい立派だった。いや、前の部屋だって十分だったけれど──これは明らかに、何かが違う。
なのに、周囲の人たちはというと、なぜか誰も何も言わない。ニコニコと笑ってはいるのに、どこかそわそわと落ち着かない様子で、視線が何度も僕と部屋のあいだを行き来していた。
「えっと……ありがとうございます。あの……手伝ってくれて」
そう言っても、「はいっ」と答える声は少し上ずっているし、誰も目を合わせてくれない。嫌な感じじゃないけれど、なんというか──妙だ。
と、そのとき。
「失礼する」
部屋の扉が軽くノックされて、ひょいと顔を覗かせたのは、ライ様だった。相変わらず髪はふわふわで、片手に書類を持っている。
「部屋を変わったっと聞きまして。まさかこの部屋を君に与えるとは……」
言葉の終わりが、なんとなく引っかかった。どこか、口ごもるような、意外そうな言い方だった。
しかも──あれ?
(……ライ様、こんな口調だっけ?)
いつもは軽口まじりに話しかけてくるのに、今日はどこか言葉遣いが整っている。気のせいじゃない。確かに、いつもより距離を取っているような感じがした。
「ああ、これ。扉の表に出しておく警護の交代表です。王宮内だからって気を抜かないようにお願いします」
「……ありがとうございます」
受け取った紙には、護衛の名と時間帯が細かく記されていた。
ライ様はそれ以上何も言わず、「じゃ、また」と手を振って去っていった。その背中が廊下に消えるまで、僕は扉のそばに立ったまま動けなかった。
(なんだろう……あの空気)
ふと振り返ると、やっぱり部屋の中はそわそわと落ち着かない。
使用人たちは僕の様子をうかがうようにしながら、持ち物を棚にしまったり、カーテンの丈を整えたりしている。でもその動きには、どこかぎこちなさがあった。
──これはもう、聞いた方が早い。
「ねえ、メリル」
少し離れたところでクッションを直していた彼女に声をかける。
「なんか……みんな、落ち着いてないよね? 僕、何か変なことしてる?」
「えっ? い、いえっ、そ、そんなことはっ」
メリルは飛び上がるほど驚いて、ぶんぶんと首を振った。
「ただ……その、ですね。この部屋は……」
何か言いかけた瞬間、扉の向こうから気配がした。
「リオン」
低く穏やかな声に、僕は一瞬だけ背筋を伸ばす。
扉が開かれると、そこにはガルハルト殿下がいた。普段と変わらない軍服姿だけれど、部屋の中に入った瞬間、空気が静まるのがわかった。
「殿下……」
「不都合はないか?」
ゆっくりと歩み寄ってくる彼は、いつもより少しだけ、言葉が柔らかい気がした。
「何かあれば、必ず言うように」
「は、はい」
思わず背筋を伸ばして返事をすると、ガルハルト殿下はふっと微笑んだ。
それだけだった。けれど、部屋の空気が一瞬、ぴたりと止まった。
──そして。
ガタン!
何かが床に落ちる音。そちらを見やると、メリルが手にしていた小箱を落としていた。慌てて拾い上げながら、彼女はぽつりとつぶやいた。
「……すっご……初めて見た……」
「え?」
「いえっ、なんでもありませんっ!」
明らかに動揺している。何かを見たらしい。というか、彼女だけじゃない。この場にいた全員が、同じように何かに驚いていた。
(……え?)
僕だけが、わかっていない。
ただ、妙に柔らかい表情で微笑んでいた殿下の顔が、今も記憶に残っていた。
天井が高く、窓も大きくて、朝になればたっぷりと光が差し込むだろう。壁の装飾は繊細で、家具も上質なものばかり。天蓋付きの寝台、大理石の洗面台、書き物机には金色の縁取り。
(……え、これ、本当に僕の部屋?)
不思議なくらい立派だった。いや、前の部屋だって十分だったけれど──これは明らかに、何かが違う。
なのに、周囲の人たちはというと、なぜか誰も何も言わない。ニコニコと笑ってはいるのに、どこかそわそわと落ち着かない様子で、視線が何度も僕と部屋のあいだを行き来していた。
「えっと……ありがとうございます。あの……手伝ってくれて」
そう言っても、「はいっ」と答える声は少し上ずっているし、誰も目を合わせてくれない。嫌な感じじゃないけれど、なんというか──妙だ。
と、そのとき。
「失礼する」
部屋の扉が軽くノックされて、ひょいと顔を覗かせたのは、ライ様だった。相変わらず髪はふわふわで、片手に書類を持っている。
「部屋を変わったっと聞きまして。まさかこの部屋を君に与えるとは……」
言葉の終わりが、なんとなく引っかかった。どこか、口ごもるような、意外そうな言い方だった。
しかも──あれ?
(……ライ様、こんな口調だっけ?)
いつもは軽口まじりに話しかけてくるのに、今日はどこか言葉遣いが整っている。気のせいじゃない。確かに、いつもより距離を取っているような感じがした。
「ああ、これ。扉の表に出しておく警護の交代表です。王宮内だからって気を抜かないようにお願いします」
「……ありがとうございます」
受け取った紙には、護衛の名と時間帯が細かく記されていた。
ライ様はそれ以上何も言わず、「じゃ、また」と手を振って去っていった。その背中が廊下に消えるまで、僕は扉のそばに立ったまま動けなかった。
(なんだろう……あの空気)
ふと振り返ると、やっぱり部屋の中はそわそわと落ち着かない。
使用人たちは僕の様子をうかがうようにしながら、持ち物を棚にしまったり、カーテンの丈を整えたりしている。でもその動きには、どこかぎこちなさがあった。
──これはもう、聞いた方が早い。
「ねえ、メリル」
少し離れたところでクッションを直していた彼女に声をかける。
「なんか……みんな、落ち着いてないよね? 僕、何か変なことしてる?」
「えっ? い、いえっ、そ、そんなことはっ」
メリルは飛び上がるほど驚いて、ぶんぶんと首を振った。
「ただ……その、ですね。この部屋は……」
何か言いかけた瞬間、扉の向こうから気配がした。
「リオン」
低く穏やかな声に、僕は一瞬だけ背筋を伸ばす。
扉が開かれると、そこにはガルハルト殿下がいた。普段と変わらない軍服姿だけれど、部屋の中に入った瞬間、空気が静まるのがわかった。
「殿下……」
「不都合はないか?」
ゆっくりと歩み寄ってくる彼は、いつもより少しだけ、言葉が柔らかい気がした。
「何かあれば、必ず言うように」
「は、はい」
思わず背筋を伸ばして返事をすると、ガルハルト殿下はふっと微笑んだ。
それだけだった。けれど、部屋の空気が一瞬、ぴたりと止まった。
──そして。
ガタン!
何かが床に落ちる音。そちらを見やると、メリルが手にしていた小箱を落としていた。慌てて拾い上げながら、彼女はぽつりとつぶやいた。
「……すっご……初めて見た……」
「え?」
「いえっ、なんでもありませんっ!」
明らかに動揺している。何かを見たらしい。というか、彼女だけじゃない。この場にいた全員が、同じように何かに驚いていた。
(……え?)
僕だけが、わかっていない。
ただ、妙に柔らかい表情で微笑んでいた殿下の顔が、今も記憶に残っていた。
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