捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?

めがねあざらし

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第52話:黒狼の咆哮

 薄曇りの空の下、獣の王は風を裂いた。
 黒い騎馬の背にまたがる男の金の双眸は、迷いなく一方を射抜いている。
 王宮を出て半日。
 馬車では到底届かぬ国境の森――地図にも記されぬ廃離宮、その奥へと、彼は疾走していた。

 「……ようやく、掴んだぞ」

 牙を噛みしめるようにして、ガルハルトは呟いた。
 背後には、ライを含めて数人の信頼できる近衛兵。
 だが、彼にとって彼らは“万が一の補佐”にすぎない。
 これは、あくまで――自らの手で取り戻す戦いだ。

 密偵からの報が届いたのは、つい昨夜のことだった。

 王妃直下の諜報部門が密かに動かしていた探査網が、
 ついに“クラウスの潜伏先”と、背後にいる存在の一端を掴んだ。

 ――クラウスはザイファルの一部貴族と内通していた。

ザイファルの王家に古くから属する血筋でありながら、クラウスはラグナスの外交戦略の“駒”として、リオンを利用しようとしていた。

平和は、多くの者が望む理想だが、影はどこにでも存在する。
戦を望む者たちにとって、“平和をもたらす存在”ほど邪魔なものはない。
リオンは、いつの間にか──対魔物との戦火利権に寄生する貴族たちから、排除すべき異物として見なされていた。
クラウスは、そんな連中の代弁者にすぎなかった。

 しかし、ガルハルトは思った。

(それだけじゃない。……あの男の執着は、もっと歪んでいる)

 これは、奪還であって、救出であり──誰にも触れさせぬための、たった一つの戦い。



 廃離宮の門を前に、ガルハルトは僅かに眉を寄せた。
 重く閉ざされた扉の向こうから、微かに甘い匂いが流れてくる。

 それは、ひとたび感じたら決して忘れられない匂い。

(ああ……リオンのフェロモンだ、これは……)

 本能で理解する。
 この世でただ一つ、自分の理性を奪いかねない、危険な香り。

(……近い)

 喉の奥が焼けるようだった。
 理性が警鐘を鳴らす。
 自分の“番”が、すぐそこにいる。

 しかし同時に、その香りには、苦しみの匂いも混じっていた。

(……薬、か。無理やり発情させられている……どこまでも卑劣な……)

 ガルハルトの牙が唇の間から覗く。
 狼の耳が、怒りに震えながら立った。

 ――今、理性をなくしたら、それはあの男と同じになる。

 リオンを“救う”のではなく、“欲望のはけ口”にすることになる。

 それだけは、絶対に許されない。
 だからこそ――

 「この扉の先には、地獄がある」

 低く、己に言い聞かせるように呟く。
 そして――

 ガンッ――!!

 扉が、獣の咆哮と共に木っ端微塵に砕けた。

 風が巻き起こり、砂が舞う。
 金の瞳が、獲物を睨み据えるようにギラリと光る。

 扉が開くやいなや、ガルハルトは騎馬より飛び降りて走った。
 己の感覚が求めるままに、その匂いに導かれるように。
 ガルハルトの身体からは、黒狼の本能が溢れていた。
 だがその怒気は、暴力ではなく――守護のためのそれだった。

 「……ここか」

 言葉は短く、しかしこの上なく鋭かった。

 リオンの匂いが、より一層強くなる。
 甘さと、痛みと、……涙の香りを含んで。
 抑え切れない怒りを飲み込みながら、一室の扉を開け放った。
 部屋の奥にいた男――クラウスが、驚愕の目を見開いた。

「ほう……これはこれは、王太子殿。やはり獣は匂いで探し当てるものか……獣はやはり獣」

 クラウスがゆっくりと立ち上がる。
 まるで“自分の縄張り”を荒らされた獣のように。

 対峙する二人の男。

 一方は支配の愛を語る者。
 一方は自由のために戦う者。

 リオンに咆哮は、まだ届かない。
 だが、黒狼の声は――すでに世界を割り始めていた。




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昨日の投稿を失敗してました🤤
というわけで、二話更新しています。
投稿は毎日8時・21時の2回です。
リアクションやコメントいただけると嬉しいです♪
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感想 3

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