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第7章
第218話
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「…………そうですか、寂しくなりますね。カイルさんも冒険者ですからね。大事な依頼を受けているにも関わらず、無理に引き留めたりしたら、お父様やお母様に叱られてしまいます。ですけど、またお時間があれば、今度はゆっくりと滞在してくださいね」(シュリ)
「そうですよ。…また、この国に遊びに来てください。私たちは、何時でもお待ちしております」(エルバ)
「はい、その時はよろしくお願いしますね」
この国を去る事を、シュリ第二王女とエルバさんの二人に伝えた。二人は少し寂しそうにしつつも、笑顔を浮かべて、俺にそう言ってくれる。確かに、依頼の関係もあったが、今回の滞在は反乱などの影響で、常に警戒の意識を保ち続けながら生活していたので、王都コンヤをゆっくりと堪能する事はなかった。実際に出掛けた先も少なく、基本的には同じ場所にしか行けていない。次に王都コンヤを訪れる時は、もっと色々な場所に行ってみたいと思う。その時には、時間が合うならば、二人に案内を頼んでみようか。
「お父様やお母様たちには、もうお伝えに?」(シュリ)
「いえ、まだです。お二人に、先にお伝えしようと思いましたので。獣王様や王妃様方には、今から伝えに向かおうと思っています」
「なる程。では、私どもも共に向かいましょう。私が一緒ならば、謁見までの時間を短く出来ますから」(シュリ)
「宜しいんですか?」
「ええ、問題ありません。私が今日中にやるべき事は、既に終わらせています。それに、この後は復興作業のお手伝いに向かいますし、その事について、お父様たちと話したい事もあったので、ちょうど良いのです」(シュリ)
「では、お願いします」
「ええ、お任せください。エルバ、先触れをお願い」(シュリ)
「お任せください」(エルバ)
シュリ第二王女の命を受けたエルバさんが、シュリ第二王女の執務室から退出する。俺とシュリ第二王女も、エルバさんの後に続いて、執務室から移動を始める。
シュリ第二王女は、最初に獣王様に謁見した時の様に、スタスタと王城内を進んでいく。そして、俺たちの向かう先も、最初の時と同じ場所の様だ。だが、最初と違う所もある。それは、プライベートな区画に向かう際に、すれ違う者たちの全員が、ピシリとその場で動きを止めて、シュリ第二王女に敬意を示しているという点だ。
メイドさんや執事さんたちは以前から、シュリ第二王女が傍を通り過ぎる時、必ずその場で動きを止めて、頭を下げて一礼していた。だが、反王族派に属していた騎士たちや、シュリ第二王女に対して負の感情を抱いていた者たちなどは、形だけの敬礼をしたりなど、敬意を抱いていないのが見て分かる程だった。
しかし、今は違う。すれ違う者たちは皆、しっかりとその場で立ち止まり、シュリ第二王女に一礼や敬礼をし、すれ違い終わるまで動きを止めているのだ。これは、反王族派の者たちがいなくなった事もあるが、シュリ第二王女が反乱の際に、力を示した事が大きいのだろう。
「姫様、カイルさん、お待ちしておりました。獣王様は、庭園にてお待ちになっております」(エルバ)
「ありがとう、エルバ」(シュリ)
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です」(エルバ)
「では、お父様の元に向かいましょう」(シュリ)
俺たちが庭園の入り口に到着すると、そこにエルバさんが立っており、既に準備万端の様子で待ち構えていた。待たせていた事を謝罪し、三人で一緒に、庭園の中へ歩み始める。
相も変わらず、庭園には綺麗な花々が咲き誇っている。そして、最初にこの庭園に足を踏み入れた時と同じ様に、この庭園の中心にある、屋根のある場所の椅子に獣王様が座り、静かに綺麗な花々を眺めながら、俺を待っていた。
「おう、来たか」(グース)
「お待たせして、申し訳ありません」
「気にするな。ちょっとした気分転換が出来たし、俺としても、中々に悪くない時間だった」(グース)
「そう言ってくださると、こちらも助かります」
「それじゃあ、早速本題に入ってくれ。復興作業も、まだ完全には終わっていない。早く終わらせるためにも、色々とやっておきたい事もあるから」(グース)
「そうですね。……では早速ですが、冒険者ギルドで受けていた依頼に、動きがありました。急な話になりますが、明日にでも王都から発ち、帝国に戻りたいと思います。その旨を、獣王様にお伝えしようと思い、お時間をいただきました」
「……そうか。少し寂しく思うが、カイルも冒険者だ。依頼という事もあるし、無理には引き留められん。しかし、明日にも発つのか。それならば、今日の夜は、盛大に見送りをしてやらねばならんな」(グース)
「そうですね、私もそれがいいと思います」(シュリ)
「獣王様もシュリ王女も、少し落ち着いてください。俺の送別会なんて、いつもの食事会みたいなもので十分ですよ。そういった盛大なものは、復興作業が終わった時の為に、とっておいてください」
「勿論だが、食に関しても、復興作業で動いている者たちや、被害にあった者たちの為に、色々と考えているから安心しろ。食料に関しても、まだまだ十分に余裕がある。それに、一食分を豪勢にしたところで、この国の食糧庫は一切揺らぐ事はない」(グース)
「……獣王様がそう仰るのなら、ありがたくお受けいたします」
「ああ、夜を楽しみにしていろ。ではすまんが、そろそろ俺も仕事に戻る。シュリもエルバも、復興作業の手伝いなどは、自分の体調を管理しながら、無理のない範囲でな」(グース)
「承知しております」(エルバ)
「はい、分かっております。お父様も、お身体にお気をつけてくださいね」(シュリ)
「その辺は、しっかり考えながら動いているから安心しろ。では三人共、また夜にな」(グース)
獣王様は、右手をヒラヒラさせながら、背を向けて歩き出し、庭園から去っていった。シュリ第二王女やエルバさんも、直ぐにでも復興作業の手伝いに向かうという。俺もその手伝いを申し出たが、今日一日くらいは、ゆっくりと過ごしていてほしいと言われてしまった。明日にも王都を出ていくつもりだが、自分の荷物は、空間拡張された鞄や、異空間に仕舞いこんであるので、荷造りにかかる時間はない。なので、手伝いもやんわりと断られてしまった今、やる事がなくなってしまった。
庭園を出て二人と分かれた俺は、一旦使わせてもらっている部屋に戻る。そして暫くの間、部屋の中でのんびりと読書を楽しんだ。時間を忘れて読書に没頭していたが、一冊の書籍を読み終えた時に外をふと見れば、日が沈みかけており、真っ赤な夕日が輝いて、空を赤く染め上げている。そんな綺麗な景色を眺めていると、部屋の扉がノックされる。
「カイルさん、夕食の準備が出来ましたので、お知らせに参りました」(エルバ)
「は~い、分かりました。直ぐに行きます」
書籍を鞄の中に仕舞いこんで片付け、部屋の扉に向かって歩いていく。扉を開けると、そこにエルバさんが立っており、俺の姿を見て、ニコリと微笑んだ。
「では、向かいましょう」(エルバ)
「はい」
エルバさんの後に続いて歩き、獣王様たち、王家の人々の待つ食堂へと向かう。食堂に一歩一歩近づいていく事に、色々な料理の良い匂いが漂い、俺の鼻と食欲を刺激してくる。食堂に到着すると、食卓の上には、美味しそうな料理たちが並べられている。種類も豊富で、肉・野菜・果物などの食材がバランスよく使われており、どれもこれもが豪勢だ。
料理に興味を惹きつけられている俺を、エルバさんが優しく促して、シュリ第二王女の隣の椅子に座らせる。そして、俺が着席した事を確認し、獣王様が口を開く。
「来たな。…………では、カイルという、素晴らしき戦士との出会いと、明日からの旅の安全を祈って、――――――乾杯‼」(グース)
『乾杯‼』(王家の方々)
「乾杯」
乾杯の音頭と共に、近くの者同士で、銀のコップを軽くぶつけ合っていく。それを皮切りに、美味しい料理と美味しいお酒などを楽しみ始める。俺は、色々な料理を口にしながら、それらの料理を素人ながら分析する。姉さんたちが好きそうなもの、子供たちが喜びそうなものなどを記憶し、後で自分なりに再現してみる事にしよう。
料理やお酒を楽しみながら、獣王様や王妃様方など、交流の少なかった方々とも、積極的に談笑をしていく。時間が経つと、酔いが回った皆さんの口が軽くなったのか、面白い話から男女のラブロマンス、そして、獣王様が色んな意味でヤンチャをした話まで、色々な話を聞かせてくれた。
そんな中でも、子供たちの興味を惹いた話題が、両親のラブロマンスではなく、獣王様が引き起こした、様々なヤンチャに関してだった。アトル王子たちは、憧れである父親のヤンチャ話をもっと聞きたいと、王妃様方に詰め寄った。王妃様方も、懐かしい思い出が蘇ってくる様で、笑いながら話していく。次々と語られていく自分のヤンチャ話に、獣王様も少し恥ずかし気だ。
楽しい時間は直ぐに終わってしまう。だが、この日の夕食は、笑顔や笑い声が絶える事のない楽しい時間が、夜遅くまで続いたのだった。
「そうですよ。…また、この国に遊びに来てください。私たちは、何時でもお待ちしております」(エルバ)
「はい、その時はよろしくお願いしますね」
この国を去る事を、シュリ第二王女とエルバさんの二人に伝えた。二人は少し寂しそうにしつつも、笑顔を浮かべて、俺にそう言ってくれる。確かに、依頼の関係もあったが、今回の滞在は反乱などの影響で、常に警戒の意識を保ち続けながら生活していたので、王都コンヤをゆっくりと堪能する事はなかった。実際に出掛けた先も少なく、基本的には同じ場所にしか行けていない。次に王都コンヤを訪れる時は、もっと色々な場所に行ってみたいと思う。その時には、時間が合うならば、二人に案内を頼んでみようか。
「お父様やお母様たちには、もうお伝えに?」(シュリ)
「いえ、まだです。お二人に、先にお伝えしようと思いましたので。獣王様や王妃様方には、今から伝えに向かおうと思っています」
「なる程。では、私どもも共に向かいましょう。私が一緒ならば、謁見までの時間を短く出来ますから」(シュリ)
「宜しいんですか?」
「ええ、問題ありません。私が今日中にやるべき事は、既に終わらせています。それに、この後は復興作業のお手伝いに向かいますし、その事について、お父様たちと話したい事もあったので、ちょうど良いのです」(シュリ)
「では、お願いします」
「ええ、お任せください。エルバ、先触れをお願い」(シュリ)
「お任せください」(エルバ)
シュリ第二王女の命を受けたエルバさんが、シュリ第二王女の執務室から退出する。俺とシュリ第二王女も、エルバさんの後に続いて、執務室から移動を始める。
シュリ第二王女は、最初に獣王様に謁見した時の様に、スタスタと王城内を進んでいく。そして、俺たちの向かう先も、最初の時と同じ場所の様だ。だが、最初と違う所もある。それは、プライベートな区画に向かう際に、すれ違う者たちの全員が、ピシリとその場で動きを止めて、シュリ第二王女に敬意を示しているという点だ。
メイドさんや執事さんたちは以前から、シュリ第二王女が傍を通り過ぎる時、必ずその場で動きを止めて、頭を下げて一礼していた。だが、反王族派に属していた騎士たちや、シュリ第二王女に対して負の感情を抱いていた者たちなどは、形だけの敬礼をしたりなど、敬意を抱いていないのが見て分かる程だった。
しかし、今は違う。すれ違う者たちは皆、しっかりとその場で立ち止まり、シュリ第二王女に一礼や敬礼をし、すれ違い終わるまで動きを止めているのだ。これは、反王族派の者たちがいなくなった事もあるが、シュリ第二王女が反乱の際に、力を示した事が大きいのだろう。
「姫様、カイルさん、お待ちしておりました。獣王様は、庭園にてお待ちになっております」(エルバ)
「ありがとう、エルバ」(シュリ)
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です」(エルバ)
「では、お父様の元に向かいましょう」(シュリ)
俺たちが庭園の入り口に到着すると、そこにエルバさんが立っており、既に準備万端の様子で待ち構えていた。待たせていた事を謝罪し、三人で一緒に、庭園の中へ歩み始める。
相も変わらず、庭園には綺麗な花々が咲き誇っている。そして、最初にこの庭園に足を踏み入れた時と同じ様に、この庭園の中心にある、屋根のある場所の椅子に獣王様が座り、静かに綺麗な花々を眺めながら、俺を待っていた。
「おう、来たか」(グース)
「お待たせして、申し訳ありません」
「気にするな。ちょっとした気分転換が出来たし、俺としても、中々に悪くない時間だった」(グース)
「そう言ってくださると、こちらも助かります」
「それじゃあ、早速本題に入ってくれ。復興作業も、まだ完全には終わっていない。早く終わらせるためにも、色々とやっておきたい事もあるから」(グース)
「そうですね。……では早速ですが、冒険者ギルドで受けていた依頼に、動きがありました。急な話になりますが、明日にでも王都から発ち、帝国に戻りたいと思います。その旨を、獣王様にお伝えしようと思い、お時間をいただきました」
「……そうか。少し寂しく思うが、カイルも冒険者だ。依頼という事もあるし、無理には引き留められん。しかし、明日にも発つのか。それならば、今日の夜は、盛大に見送りをしてやらねばならんな」(グース)
「そうですね、私もそれがいいと思います」(シュリ)
「獣王様もシュリ王女も、少し落ち着いてください。俺の送別会なんて、いつもの食事会みたいなもので十分ですよ。そういった盛大なものは、復興作業が終わった時の為に、とっておいてください」
「勿論だが、食に関しても、復興作業で動いている者たちや、被害にあった者たちの為に、色々と考えているから安心しろ。食料に関しても、まだまだ十分に余裕がある。それに、一食分を豪勢にしたところで、この国の食糧庫は一切揺らぐ事はない」(グース)
「……獣王様がそう仰るのなら、ありがたくお受けいたします」
「ああ、夜を楽しみにしていろ。ではすまんが、そろそろ俺も仕事に戻る。シュリもエルバも、復興作業の手伝いなどは、自分の体調を管理しながら、無理のない範囲でな」(グース)
「承知しております」(エルバ)
「はい、分かっております。お父様も、お身体にお気をつけてくださいね」(シュリ)
「その辺は、しっかり考えながら動いているから安心しろ。では三人共、また夜にな」(グース)
獣王様は、右手をヒラヒラさせながら、背を向けて歩き出し、庭園から去っていった。シュリ第二王女やエルバさんも、直ぐにでも復興作業の手伝いに向かうという。俺もその手伝いを申し出たが、今日一日くらいは、ゆっくりと過ごしていてほしいと言われてしまった。明日にも王都を出ていくつもりだが、自分の荷物は、空間拡張された鞄や、異空間に仕舞いこんであるので、荷造りにかかる時間はない。なので、手伝いもやんわりと断られてしまった今、やる事がなくなってしまった。
庭園を出て二人と分かれた俺は、一旦使わせてもらっている部屋に戻る。そして暫くの間、部屋の中でのんびりと読書を楽しんだ。時間を忘れて読書に没頭していたが、一冊の書籍を読み終えた時に外をふと見れば、日が沈みかけており、真っ赤な夕日が輝いて、空を赤く染め上げている。そんな綺麗な景色を眺めていると、部屋の扉がノックされる。
「カイルさん、夕食の準備が出来ましたので、お知らせに参りました」(エルバ)
「は~い、分かりました。直ぐに行きます」
書籍を鞄の中に仕舞いこんで片付け、部屋の扉に向かって歩いていく。扉を開けると、そこにエルバさんが立っており、俺の姿を見て、ニコリと微笑んだ。
「では、向かいましょう」(エルバ)
「はい」
エルバさんの後に続いて歩き、獣王様たち、王家の人々の待つ食堂へと向かう。食堂に一歩一歩近づいていく事に、色々な料理の良い匂いが漂い、俺の鼻と食欲を刺激してくる。食堂に到着すると、食卓の上には、美味しそうな料理たちが並べられている。種類も豊富で、肉・野菜・果物などの食材がバランスよく使われており、どれもこれもが豪勢だ。
料理に興味を惹きつけられている俺を、エルバさんが優しく促して、シュリ第二王女の隣の椅子に座らせる。そして、俺が着席した事を確認し、獣王様が口を開く。
「来たな。…………では、カイルという、素晴らしき戦士との出会いと、明日からの旅の安全を祈って、――――――乾杯‼」(グース)
『乾杯‼』(王家の方々)
「乾杯」
乾杯の音頭と共に、近くの者同士で、銀のコップを軽くぶつけ合っていく。それを皮切りに、美味しい料理と美味しいお酒などを楽しみ始める。俺は、色々な料理を口にしながら、それらの料理を素人ながら分析する。姉さんたちが好きそうなもの、子供たちが喜びそうなものなどを記憶し、後で自分なりに再現してみる事にしよう。
料理やお酒を楽しみながら、獣王様や王妃様方など、交流の少なかった方々とも、積極的に談笑をしていく。時間が経つと、酔いが回った皆さんの口が軽くなったのか、面白い話から男女のラブロマンス、そして、獣王様が色んな意味でヤンチャをした話まで、色々な話を聞かせてくれた。
そんな中でも、子供たちの興味を惹いた話題が、両親のラブロマンスではなく、獣王様が引き起こした、様々なヤンチャに関してだった。アトル王子たちは、憧れである父親のヤンチャ話をもっと聞きたいと、王妃様方に詰め寄った。王妃様方も、懐かしい思い出が蘇ってくる様で、笑いながら話していく。次々と語られていく自分のヤンチャ話に、獣王様も少し恥ずかし気だ。
楽しい時間は直ぐに終わってしまう。だが、この日の夕食は、笑顔や笑い声が絶える事のない楽しい時間が、夜遅くまで続いたのだった。
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