引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第249話

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 天空島ロクス・アモエヌスにおける屋敷巡りは、精神的にもの凄く疲れる事となった。アメリアさんによって拠点に相応しいと選ばれた屋敷の数々は、どれもこれもが、最初に連れていかれた武家屋敷と同レベルの質のものばかりだった。
 アメリアさんも俺たちが少人数である事を考慮して、最初の武家屋敷に匹敵する程広大な屋敷を選ぶ事がなくなったのは、心の底からホッした。その代わりに、一軒紹介していく事に、内装などのレベルが僅かずつではあるが上がっていった。屋敷の中にある家具やお風呂場など、どこの大貴族や王族が使うんだよといったレベルのものなどもあった。

「ここもダメとなってしまうと、ご紹介出来る屋敷も残り僅かと…………」(アメリア)
「あの、……アメリアさん」
「はい、何でしょうか?」(アメリア)
「屋敷の規模を小さくしてくれるのは大変ありがたいんですが、どんどん内装が豪華になっていっていませんか?」
「そうですね。私たちにも、質と同時に見た目にも凝る時期がありまして……。直近でご紹介してきた屋敷は、丁度その時期に建てられたものになります。なので、内装も豪華に見える家具などが取り揃えられているんです」(アメリア)
「なる程」

 俺たちの里にも、職人たちの間で流行が変わる事が何度かあった。そして、その流行していた時期に色々と作り、そのまま里の中で使われる事なく倉庫に眠る事が多い。天族の者たちは、それらの有効活用法を自分たちで考え付いた。それが、屋敷の家具として使う事だったのだろう。
 故郷の里には、外部のお客様が訪れる事はまずない。あったとしても、年に数回もあれば多いと言える程だ。なので、故郷の里にはお客様が滞在する用の家は数軒しかない。そして大抵里を訪れる客は、長老衆や長、もしくはヘクトル爺の友人である事が多い。なので、誰かの家に泊めるのがいつもの流れなのだ。
 だが天族の者たちの場合は、基本的にサリエル様やルシフェル様たち関係のお客様が中心となるため、宿泊専用の色々な屋敷が建てられたのだろう。

「……やはり俺たちの拠点となる屋敷は、アメリアさんたち天族の皆さんが暮らしている様な、普通の屋敷でいいんです」

 外観や内装が凄かったり豪華すぎると、前世や今世通して根っからの庶民である俺としては、内心ビクビクしてしまって使いづらい。兄さんが宿代わりに使わせてくれている屋敷でさえも、俺にとっては豪邸に分類される様な立派な家なのだ。

「…………分かりました。カイルさんのご希望に沿う屋敷の幾つかを、今からご紹介しています。気に入った屋敷があったら、私の声を掛けてくださいね」(アメリア)
「はい、お願いします」

 そこから再び始まった屋敷巡りで紹介された屋敷の数々は、外観も内装も落ち着きがあり、家具なども見た目はシンプルなものだった。しかし見た目はシンプルではあるが、当然質の方は最高級品である。
 外観や内装が普通の屋敷と言っても、お客様が宿泊する時に使用する屋敷だからな。どれもこれもが超一流の職人たちの手で作られ、もの凄く丁寧に仕上げられている。一見すると同じ職人さんの作品に見えるが、一つ一つの作品の所々に、各職人たちのこだわりが見え隠れしている。
 その屋敷巡りの中で特に気に入った屋敷は、二つの屋敷に絞られた。一つは、自然豊かな森に近い位置に建てられ、近くに自然に流れる川や小さな湖などもある屋敷。もう一つは、天族の者たちが多く暮らしている地域に近く、天空島に住む天族の者たちと交流しやすい場所に建てられた屋敷。
 天族の者たちが長い歴史の中で作り上げた街には、様々なお店が多く立ち並んでおり、生活必需品から食べ物に至るまで色々と揃っている。街に近い場所に建てられている屋敷に関してはそれだけでなく、サリエル様たちが暮らしている巨大な館のある場所から、そう遠くない場所に屋敷があるという点だ。それから女性陣にとって欠かせない、天然の温泉に入れる入浴施設があるという所も、姉さんたちが気に入るだろうと思っている。
 天然の温泉に関しては、天空島ロクス・アモエヌスを作り出す時に、サリエル様たちがそれとなく細工をした事で、普通に温泉が湧く様になっているそうだ。天族の者たちも天然の温泉はお気に入りの様で、街中には温泉施設が幾つか建てられており、街で暮らしている天族の者たちの中には、毎日の様に通っている者もいるそうだ。

〈自然豊かな森に近い位置に建てられた屋敷の方は、俺たち兄姉や、リナさんたちが暮らしてきた環境に近いという事で気に入ったんだが……。まあ少なくとも姉さんたちに関しては、温泉がある街に近い方の屋敷を選ぶだろうな〉
「ここまで紹介してきましたが、気になられた屋敷はありましたか?」(アメリア)
「ええ、二つ程ありました。ですが、改めてその二つの屋敷を客観的に考えてみて、どちらにするか決まりました」
「ちなみに、どちらとどちらで悩まれたんですか?」(アメリア)
「あの森に近い屋敷と、最後に紹介してくださった街に近い屋敷ですね。色々と悩みましたが、街に近い方の屋敷に決めました。姉さんたちも温泉、風呂に入って清潔を保つ事を気にしているので、温泉施設に近い方を選ばせてもらいました」
「なる程。……それならば、街中に建てられていて、温泉施設にも近い屋敷があります。そちらの方をお使いになりますか?」(アメリア)
「え?……いいんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。その屋敷は私の一族が所有している屋敷で、普段は使っていない屋敷の一つですから。ああ、使っていないと言っても、維持管理はしっかりとしてありますので、そこはご安心ください」(アメリア)
「一度見させてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ。それでは、後に付いてきてくださいね」(アメリア)
「はい、お願いします」

 貸していただける屋敷を見させてもらうために、アメリアさんと共に街の中へと足を進めていく。やはり天空島にお客様がくる事自体珍しいからか、街に暮らしている天族の者たちに興味深そうに見られている。
 天族の者たちから注目を集めているが、俺は足を止める事なく気にせず歩き続ける。皆、どんなお客様なんだろうという好奇心から興味深そうに見てくるだけであって、負の感情でもって敵視してきた訳ではないからな。
 そんな天族の者たちの中には、当然ながら老人から子供まで、様々な年代の者たちがいる。特に幼い子供たちは、俺というお客様を瞳をキラキラさせながら見ている。そんな子供たちに向かって軽く手を振ってあげると、ニコニコと純真な笑顔を浮かべながら手を振り返してくれた。

「ここ最近は竜種のお客様が多かったので、子供たちはカイルさんに興味津々の様です。何かご気分を害したりは……」(アメリア)
「ないです、ないです。寧ろ、微笑ましいなと思って見ていましたよ」
「それなら良かったです。屋敷には、もうまもなくで到着しますので」(アメリア)
「はい、分かりました」

 そのまま天族の者たちにジーッと見られ続けながらも歩く事五分程、一つの屋敷の前でアメリアさんの足が止まった。どうやらここが、アメリアさんの一族が所有している屋敷なのだろう。
 二階建ての横に広い屋敷で、俺や姉さんたち全員で使う事になったとしても、物置専用の部屋を作る事も出来る位には、部屋数にも余裕がありそうに見える。屋敷の外壁は、とても綺麗なあま色一色で統一されている。広い庭も付いており、姉さんたちと鍛錬も出来るくらいには余裕がありそうだ。
 外観に関しても、俺や姉さんたちが避ける様な豪華な装飾などが一切ない、シンプルでいながらも洗練されたデザインだ。個人的にも好ましい屋敷であるし、姉さんたちも気に入る事は間違いない。これに温泉施設が近いとなれば、確実にこの屋敷で決まるだろう。
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