引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

文字の大きさ
233 / 252
第8章

第274話

しおりを挟む
 天星祭最終日の三日目、俺は事前に話し合っていた通りに、姉さんたちと別れて一人で行動していた。そして午前中は冒険者ギルドとメリオス行政府に立ち寄り、催し物の様子を見学したり、楽しむメリオスの住人を眺めて過ごした。
 冒険者ギルドで行われていた催し物は、まんまストラックアウトだった。それも、投げて的を抜く野球タイプと、脚で蹴って的を抜くサッカータイプの二種類用意されていた。ただ兄さんたちの射的と違うのは、挑戦出来るのが一般の住人だけだという点だった。
 アレットさんやジョニーさんが言うには、天星祭での催し物の目的は、冒険者ギルドに親しみをもってもらう事だという。それから、ストラックアウトという催し物に挑戦しに来たメリオスの住人の皆さんと、交流を深めようという目的もあるそうだ。年に一度とはいえこうして交流を深めていく事で、メリオスの住民の皆さんが依頼をしやすくなる様にと、冒険者ギルドも環境作りに努力していた。
 冒険者ギルドの次に向かったのが、領主であるフォルセさんを支える、この都市の重要機関であるメリオス行政府だ。メリオス行政府で行われていた催し物は、大人数で挑戦するビンゴゲームと、前世で人気となった違う人生を歩む某ルーレットゲームだった。
 ビンゴゲームの方に関しては、朝・昼・夜の部の三部制で分けられており、景品が終わり次第終了という前世と同じ形式で行っていた。景品には様々な物が用意されており、参加賞レベルの小物類から旅行券などの高額な商品、それから高級なお肉や果物といったものまであった。景品が豪華な事もあって、一日目も二日目も盛況だった様だ。
 そして某ルーレットゲームの方はと言えば、こちらも前世と同じ形式ではあるが、各種種族用に異なるボードサイズのものと、このファンタジー世界に沿った内容が追加されていた。良い事が起こるマスも悪い事が起こるマスも、前世ではありえない様な内容などが書かれていたりと、色々な内容があって面白かった。中でも特に面白いと思ったのは就職マスで、この世界ならではの職業が沢山用意されており、ランクアップ先の職業も凝っているものが多かった。
 こちらは時間制ではなく、朝から夜まで楽しむ事が出来るので、子供連れのご家族などが仲良く楽しんでいた。それ以外にも、冒険者仲間数人だったり、商人たちや職人たちも同じ様に某ルーレットゲームを楽しんでいたな。ゲームとはいえ、違う人生を歩むというのがやっぱり面白い様で、毎年かなりの人が遊びにくるそうだ。

〈一年に一度の祭りだからいいかって、先輩たち大分はっちゃけたな。色々と聞いたら、何十年も前の天星祭からあるって話だったしな。毎年バージョンアップもしてるそうだし、完全に帝国の文化の一つになっていたな〉

 先輩たちのはっちゃけぶりに大丈夫なのかと思ったが、俺にはどうする事も出来ないのと、何か問題があれば精霊様方やサリエル様たちが動くだろうと、この事に関して深く考えるのをやめる事にした。
 立ち並ぶ屋台を巡って、自分の昼食分と子供たちやミストラルたち分、リムリットさんやエマさんたちの分のお土産を沢山買い込んで、一人ブラブラとメリオスを歩きながら孤児院へと足を進める。というのも、最近ミストラルたちとのんびりまったりと過ごす時間がなかったからだ。なので、今日は日が暮れるまでの間の時間は全て、ミストラルたちとの触れ合いの時間にしようと思っている。
 まず最初に、教会でリムリットさんやエマさんたちと言葉を交わしてから、子供たちやミストラルたちの所に向かう。孤児院に近づく事に、一日目と同じ様に楽し気な声が聞こえてくる。最終日である今日も、メリオスの住人の皆さんとの触れ合いが上手くいっている様で、ミストラルたちの主である俺も一安心だ。

『主様!!』(ミストラル)
『そのままで大丈夫だよ』

 俺はミストラルたちにそう念話で返事をし、孤児院の庭に置かれている椅子の一つに座って、机に買い込んだ昼食を並べて食べ始める。昼食を食べながらミストラルたちの触れ合いの様子を眺める。こうして眺めていると、メリオスの住人の皆さんはミストラルたちに触れる時や撫でる時には、優しく丁寧にしてくれているのがよく分かるな。ミストラルたちも、天星祭の三日間での触れ合いで大分慣れた様で、大人しく触られたり撫でられたりしている。
 ミストラルたちと触れ合っている者たちをよく見ると、天星祭一日目にも触れ合いに来ていた人がチラホラといる。初めて触れ合いにきた人と比べると、その人たちとミストラルたちの距離が僅かに近い。それを見て、ミストラルたちとメリオスの住民の皆さんが、少しだけであっても仲良くなったんだなと思い嬉しくなる。
 そんな和やかな空間に、元気の塊であり孤児院の子供たちも参加し、この場がさらにほんわかしたものになっていく。子供たちはワイワイと楽し気に笑いながら、ミストラルたちの所へと駆け寄っていく。対するミストラルたちは、身体の大きな子たちが前に出て、駆け寄ってくる子供たちを待ち構える。駆け寄っていった子供たちは地面を蹴ってぴょんと跳び、身体の大きな子たちの身体に飛び込み、モチモチプニプニとした身体へと埋もれていく。

「モチモチ~!!」(マニーニャ)
「プニプニ~!!」(クトリ)
『ははは、くすぐったいよ』(ヘペル)
『また寝ちゃダメだよ~』(クヌイ)

 飛びついた子供たちは、熊・獅子・羊などのモデルにしたスライムアニマルたちの身体に埋もれ、身体が完全に脱力して顔もとろけてしまっている。そんな子供たちに、熊のスライムアニマルであるヘペルや羊のスライムアニマルであるクヌイが、軽く緩く注意する。子供たちは、ヘペルやクヌイたちの柔らかい身体を堪能しつつ、注意された事に生返事を返す。
 そして一部の食いしん坊な子供たちは、俺が机の上に並べていた料理の匂いを嗅ぎ取り、フラフラと匂いに引き付けられる様にこちらに近づいてくる。近づいてくる子供たちの目はキラリと輝き、獲物を狙うハンターの様な雰囲気を漂わせている。そして机の上の料理を視認すると、サササッと迅速に動き、俺が使っている机の椅子に座り込む。

「カイル兄ちゃん!!その美味しそうな料理を食べさせてください!!」(アルフォンス)
「一口!!一口だけでもいいからさ!!」(ルッツ)
「今から食べちゃうと、夕食が食べられなくなっちゃうぞ」
「だけどさ、その料理も今食べないとなくなっちゃんうだろ?」(アルフォンス)
「それに、カイル兄ちゃんこの後またどっかいくんでしょ?」(ルッツ)
「いや、今日は夕食をここで食べてから帰るぞ。アルフォンスたちやミストラルたち、それからリムリットさんやエマさんたちの分の夕食を、何回かお代わりしても余裕があるくらいには買い込んであるからな。ちなみに、机の上に置かれている料理も夕食の中にあるぞ」
『!?』(食いしん坊の子供たち)
「どうする?今料理を食べてしまうか、それとも夕食まで我慢するのか?」
『…………我慢する』(食いしん坊の子供たち)

 食いしん坊の子供たちに我慢だけさせるのも悪いので、口寂くちさびしさを紛らわらせてあげる為に、ポーチから果物ジュースから作った飴が入った瓶を取り出す。不思議そうに飴を見る子供たちの前で瓶のふたを開け、子供たちに掌を上にして前に出す様に示してから、飴を一つ一つ瓶から取り出して子供たちの手に乗せていく。
 ジッと掌の上の飴を見つめる子供たちに、俺は見本を見せる為に飴を一個取り出して、そのまま飴を口の中に入れて見せた。子供たちは俺の行動を見て、真似する様に口の中に飴を入れる。すると、子供たちの顔がみるみると喜びの笑顔に変わっていく。

「美味しい!!」(アルフォンス)
「凄い甘いね!!」(ルッツ)
「舐めてれば溶けて小さくなってくから、大きい状態のまま飲み込んだりしちゃダメだぞ。喉に詰まらせたら大事だからな」
『は~い!!』(食いしん坊の子供たち)

 子供たちが美味しさと甘さに大きな声を上げると、ミストラルたちや他の子供たち、それから触れ合いに参加していた住人の皆さんも興味を持った様で、俺たちの方に近寄ってくる。
 俺は近寄ってきた者たちに飴の説明をして、全員に一つ一つ渡していく。皆アルフォンスたちの喜びの笑顔を見て、直ぐに飴を口の中に入れる。すると、子供も大人も美味しさや甘さに驚きながらも喜び、その口元が弧を描いていく。どうやら、大人たちにも飴は好評の様だ。
 ミストラルたちにも飴は好評で、その中でも子供っぽい性格の子たちには特に大好評だ。早々に飴を舐め切ってしまった子たちが、俺の傍に近寄ってお代わりをおねだりしてくる。俺はお代わりを希望する子たちや大人たちにもう一つずつ渡し、一緒に飴を楽しみながら住民の皆さんとも交流を深め、のんびりまったりとした時間を過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。