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[Revenant/Fantome]

[01]第一話 白き騎士ヘリン

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フェガリア大陸の南に位置するところにその城はあった。

ボードウィン城。

緑葉が生い茂る森に囲まれ、その白亜の立ち姿を際立たせていた。

ボードウィン城を治める王は『ヘリン・ル・ブラン(白のヘリン)』と呼ばれ、彼は安定と平和を持って国を治めている。

しかし、その平和を保たせるために、この世界に蔓延る『モーヴェ』と呼ばれる化け物退治を余儀なくされていた。

彼の父であるボールス=K・ボゥホートがモーヴェ討伐の為に結成された十字軍に参加し、命を落としたことから、国の状況が悪化したのだ。

ヘリンの父ボールスはその名を知らぬものはいないほど有名であり、世界を混乱に陥れた忌まわしき、キャムランの戦いを生き残った数少ない人物であった。

その偉大な人物が亡くなったことから、他国から圧力がかかり始め、同時にモーヴェの動きも活発になったのだ。

ヘリンにとっては他国との交渉よりもモーヴェを退治することが急務と考えてられていた。

モーヴェは人の血を啜り、その力を増す最も忌まわしい魔物であった。

その姿、形は多様で、血を啜られた者はモーヴェへと変貌を遂げてしまうのだ。

それこそがモーヴェの忌まわしいと言われる所以だ。
来る日も、来る日もモーヴェの被害は絶えずにやってくる。

その度にヘリンは被害の遭った土地へ赴き、退治をしてきた。

王自ら出陣するのは、父ボールスが仕えていた王の生き様に感銘を受け、ヘリン自身もそうありたいと思っての事だ。

だが、ヘリンとその王の違いは明らかだった。

栄光と呼ばれた騎士たちの存在。

ヘリンにはそれがないのだ。

騎士のほとんどはキャムランの戦いの最中に命を落とし、混乱に傾いた国でならず者に殺されていた。

明らかに戦力と呼べる者たちが少ないのだ。

ようやく空いた時間でヘリンは自室のベッドに腰掛けていた。

眠るわけでもない。

眠ったとしてもすぐに討伐へ向かわなければならない。

落ち着いて眠ったのはいつだったかとヘリンは不意に考えた。

 「父様……」

ヘリンは亡き父を思い浮かべていた。

父が生きていた頃。

その時間がいかに幸福だったか。

優しい父の顔ばかり思い出す。

強く気高い父の姿を思い出す。

思い出に浸る時がヘリンにとっての安らげる時間であった。

不意に、部屋のドアがノックされる。

 「入れ」

そのノックにヘリンはすぐに応じた。

ヘリンの言葉を聞き、ノックをした人物がドアを開け部屋に入ってきた。

その人物は執事として、ヘリンに仕えているアルフレッドだ。

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