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[Revenant/Fantome]

[03]第二話 白の化け物

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 「ギニ、ギギギ」

金属が擦れるような、歯と歯を擦り合わせるような気味の悪い声を発しながら、白い化け物はヘリンを見た。

白の中に異様に映える金色の光り輝く目で見つめられ、ヘリンは身が竦んだ。

その恐怖を隠すために、剣を握ろうとするが、なかなか柄に手をかけられない。

 「(震えるな、震えるな)」

祈るように、ヘリンは心の中で呟く。

次の瞬間、白い化け物の手がヘリンの前に振り下ろされた。

雪が空中に舞う。

あと一歩引くのが遅ければその一撃を食らっていたに違いない。

ヘリンは息を吐く。

恐怖に囚われ続けていたら確実に死んでしまっていただろう。

きちんと剣を握りしめ、白い化け物と対峙する。

震えは不思議と止まっていた。

 「今度は斬る」

声と共に白い息が吐き出される。

 「ギギギギギ」

白い化け物はヘリンの言葉をせせら笑うように口を釣り上げる。

醜悪な笑みを見せる白い化け物に、ヘリンは気分が悪くなる。

 「イベリスが見たら、卒倒するかもな。絶対、ここで食い止める」

守るための覚悟。

それだけがヘリンを突き動かす。

剣を頭上に掲げ、左手を剣の切っ先に添えるように構える。

父ボールスがしていた、弓張りの構え。

まるで弓矢を射るような姿をした構えの為、そう呼ばれていた。

攻撃を受け流すことに特化した構えである。

完全に受けてしまえば、潰されることも腕力の差があればあり得る事だ。

だが、受け流すことができれば、攻撃をできるチャンスは大きくなる。

相手の体勢を崩させ、そこから生じる隙。

それに賭けるしかない。

ヘリンは白い化け物から目を離さずに、深呼吸した。

気を落ち着かせると同時に集中力を高めるためだ。

冷たい空気は相変わらずだが、気を引き締める上でちょうどいい。

 「ギギッ!」

白い化け物が威嚇するように腕の刃を広げる。

その腕の刃は数本で形成されており、一本一本が鋭い刃になっている。

白く輝くその刃は一見すると、美しく思える。

だが、美しさの中に浮かぶ凶悪な狂気に身震いがする。

雪がさらに強くなってきた気がした。

白い化け物の殺気と呼応しているようにも思える。

動かなければ体が寒さで動けなくなる。

ヘリンは攻撃の先手を打った。

地を蹴り、白い化け物へと駆ける。

正面から向かってくるヘリンに白い化け物はヘリンの頭上に向かって腕を再び振り下ろす。

数本ある刃が擦れ合い、甲高い音が鳴る。

耳を塞ぎたくなるような音だったが、ヘリンはそのまま駆け抜けた。

振り下ろしに速度はない。

そもそも、この白い化け物は速そうに見えて、動きが緩慢だ。

勝機はそこにあるかもしれない。

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