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[Revenant/Fantome]

[02]第四話 白の中の黒

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どうにか体勢を戻して、立ち上がらなければと転がりながらイベリスは考える。

だが、考えてもどうにもならない。

怒りに任せた白い化け物の攻撃は止むことを知らない。

 「きゃ……」

転がるイベリスの背に何かが当たった。

それは、そこに生えている巨木だった。

転がることのできなくなった体は白い化け物の一撃を待つだけの状態になってしまった。

一矢報いることもできず、まして、こんな情けない状態で死を迎えるかもしれないと思うとイベリスは悔しくなった。

白い化け物は避けられなくなったと見て、口の端を釣り上げ笑った。

その醜悪さにイベリスは怖くなった。

一片の勇気は時として、無謀と呼ばれるものになる。

安い正義は時として、死に直結する。

まさにイベリスの行動はそれと同じようになっていた。

白い化け物はイベリスに死を与えようと、その手を振り下ろさんばかりだった。

 「きゃああぁぁ!」

まだ、少女であったイベリスは叫ぶしかできなかった。

 「その声、少し耳障りだ」

そう誰かが呟いたのが聞こえ、イベリスは顔を上げる。

瞬間、イベリスの前に黒が舞った。

白の中にある異様な黒。


その黒が白い化け物に攻撃を加えていく。

固いはずの外皮が飴細工の様に崩れていく。

雪に混じり、キラキラと輝きを放っている。

それは異様な光景だった。

白が染める幻想的な光景の中に悪魔のような黒が白い世界を壊している。

 「あ……!」

黒が地を蹴りあげ、跳躍すると白い化け物の頭部に剣を突き刺した。

その鮮やかすぎる攻撃にイベリスは目を奪われた。

剣を刺している黒は少年のようだった。

暴れ狂う白い化け物から剣を抜き、頭を蹴り上げると、白い化け物は雪の中へその巨躯を沈める。

少年はそっと雪の上に着地すると、剣についた血を払った。

白い化け物は身を横たえたまま絶命し、動かなくなった。

動かなくなったと思ったら、不意にその体が白い煙のようなものに変化していく。

そして、その煙は静かに少年が持つ剣に吸い込まれていった。

一部始終を見ていたイベリスは、その現象が不思議で仕方なかった。

 「おい、お前こんな所で何をしていた?」

座り込んでいたイベリスに少年がぶっきらぼうに聞いてきた。

イベリスの方を振り向かずに背中を見せたままの状態で聞くのだ。

 「父に代わって、白い化け物を倒そうと思ったのです」

そんな少年にイベリスはすんなり言葉を返す。

それよりも助けてくれたお礼を言おうと、立ち上がろうとしたが白い化け物に斬られた足が痛くてうまく立てなかった。
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