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琥珀とスパイス
3 アニス、ちょっとだけジンジャー
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「アルノーさん!」
ツリーの下で待っていると、少し離れた屋台の陰から陽色が駆けてきた。
胸の前で腕を組むようにして、小さなプレゼントの包みを抱えたその顔は、アルノーを見つけた安堵感からか、ふわりとほころぶ。
「いいものが見つかりましたか?」
「ええ、とっても!」
一刻も早く、それをティフォンに見せてあげたいと思っているのが、そわそわとした態度から見て取れるから、アルノーは低く笑った。
「酔って山道を歩くのも辛いですし、ワインやソーセージはお土産に買って帰りましょうか」
「僕もそう思ってました」
比較的空いている屋台を狙って、陽色はワインの、アルノーはソーセージの行列に並ぶ。
お互いを見失わないように時折投げかける視線に、頷き合い、小さく手を振ったりした。
お目当てのものをすべて買って、農場へと帰り着く頃には、もうあたりは薄暗く冷え込みも厳しくなっていた。
「早めに切り上げて正解でしたね」
「あぁ、でも、とっても楽しかった!」
真っ白な息を吐き、冷たい風を押し出すように重い扉を閉める。
「グリューワインを温め直します」
「暖炉もつけましょう」
暖炉に火を起こしてソファーを引き寄せるアルノーの傍らで、陽色はワインの瓶から、保温用に巻かれていた新聞紙を外した。
「シナモンとオレンジが入っているんだ……」
暖炉の火に透かすように瓶を持ち上げ、外した新聞紙を丸めて火にくべると、ワインを湯煎にかけるためキッチンへと消えた。
アルノーはクッションの陰にピアスの包みを隠し、ソーセージを串に刺して炙り始める。
ティフォンは、よだれの零れ落ちそうな顔をして、じっとソーセージと揺れる炎を見つめている。
しばらくすると、陽色が湯気の立つカップを二つ持ってアルノーの隣に腰を下ろした。
「はい」
「ありがとう」
ぶるっと震えて、陽色は首をすくめる。
「寒い」
「こっちにおいで」
腕を上げると、ふふっと笑って、陽色はいつもの定位置に納まる。アルノーの腕の中だ。
と思ったらすぐに身を離し、ティフォンを呼んだ。
「ティフォン!」
床に置いた袋から取り出し、足元に座れをしたティフォンの首に陽色が巻いたのは、光沢のある群青色のスカーフだった。
「あは、似合う」
「なんだ?」
思わずアルノーが口にすると、ティフォンもこれはなんなんだと言いたげに首を回し、スカーフを咥えて解いてしまう。
「あ、せっかくおしゃれなのに…!」
ティフォンは新しいおもちゃでも貰ったつもりか、頭を振ってスカーフを振り回し始めたから、アルノーは慌てて取り上げた。
陽色は残念そうに、アルノーの手のスカーフを見た。
「小型犬にはおしゃれな服があるのに、大型犬にはあまりないでしょう? 首も太くてバンダナも巻けないし、僕、これならいいかと思ったんですけど」
「ははっ、ティフォンに飾りは不要ですよ。ありのままの魅力で勝負できる男ですからね」
その通りだというように、ティフォンが力強く吠える。
「ちぇ。わかりました、僕が自分で使いますよーだ」
陽色はそう言ってアルノーの手からスカーフを取ると、首に巻いた。
アルノーはティフォンにソーセージを放ってやり、
「ティフォンにはあれが一番のプレゼントでしょう」
自分たちの分も皿に取ってテーブルに置くと、陽色に向き直った。
「じゃあ、乾杯」
「クリスマスおめでとう」
空いた方の手でお互いの肩を引き寄せ、軽くハグをする。クスクスと笑い合い、カップを鳴らした。
グリューワインは、甘く飲みやすかった。
「これはいい。スパイスが効いて、ぽかぽかしてきますね」
「ふふ……じゃあ、スパイスの当てっこしましょ?」
「え?」
「僕、何種類か足してきたんです。さっきキッチンで」
最初に出会った時からアルノーと陽色が繰り返してきたゲームは、普段アルノーが出題者で、陽色が回答者なのだが……。
少し酔ってきた陽色は、甘えるようにアルノーにもたれて上目づかいで挑発してくる。
「さぁ!」
「いいですよ。……まずはシナモン、オレンジピール、そしてクローブ……」
陽色は、スカーフの端をもてあそびながら、うんうんと頷く。
「それだけ?」
「……アニス。ちょっとだけジンジャー。……以上」
「ほんとに?」
「本当に」
「負けたら、僕に何をしてくれますか?」
「負ける前提で話さないでください」
「いいから」
アルノーは突発的に、この可愛らしい恋人を今すぐどうにかしたいような衝動に駆られたけれど、それをおくびにも出さずに答えた。
「負けたら、陽色さんに、素敵なクリスマスプレゼントをあげましょう」
「ふふ……アルノーさんの負けです」
ツリーの下で待っていると、少し離れた屋台の陰から陽色が駆けてきた。
胸の前で腕を組むようにして、小さなプレゼントの包みを抱えたその顔は、アルノーを見つけた安堵感からか、ふわりとほころぶ。
「いいものが見つかりましたか?」
「ええ、とっても!」
一刻も早く、それをティフォンに見せてあげたいと思っているのが、そわそわとした態度から見て取れるから、アルノーは低く笑った。
「酔って山道を歩くのも辛いですし、ワインやソーセージはお土産に買って帰りましょうか」
「僕もそう思ってました」
比較的空いている屋台を狙って、陽色はワインの、アルノーはソーセージの行列に並ぶ。
お互いを見失わないように時折投げかける視線に、頷き合い、小さく手を振ったりした。
お目当てのものをすべて買って、農場へと帰り着く頃には、もうあたりは薄暗く冷え込みも厳しくなっていた。
「早めに切り上げて正解でしたね」
「あぁ、でも、とっても楽しかった!」
真っ白な息を吐き、冷たい風を押し出すように重い扉を閉める。
「グリューワインを温め直します」
「暖炉もつけましょう」
暖炉に火を起こしてソファーを引き寄せるアルノーの傍らで、陽色はワインの瓶から、保温用に巻かれていた新聞紙を外した。
「シナモンとオレンジが入っているんだ……」
暖炉の火に透かすように瓶を持ち上げ、外した新聞紙を丸めて火にくべると、ワインを湯煎にかけるためキッチンへと消えた。
アルノーはクッションの陰にピアスの包みを隠し、ソーセージを串に刺して炙り始める。
ティフォンは、よだれの零れ落ちそうな顔をして、じっとソーセージと揺れる炎を見つめている。
しばらくすると、陽色が湯気の立つカップを二つ持ってアルノーの隣に腰を下ろした。
「はい」
「ありがとう」
ぶるっと震えて、陽色は首をすくめる。
「寒い」
「こっちにおいで」
腕を上げると、ふふっと笑って、陽色はいつもの定位置に納まる。アルノーの腕の中だ。
と思ったらすぐに身を離し、ティフォンを呼んだ。
「ティフォン!」
床に置いた袋から取り出し、足元に座れをしたティフォンの首に陽色が巻いたのは、光沢のある群青色のスカーフだった。
「あは、似合う」
「なんだ?」
思わずアルノーが口にすると、ティフォンもこれはなんなんだと言いたげに首を回し、スカーフを咥えて解いてしまう。
「あ、せっかくおしゃれなのに…!」
ティフォンは新しいおもちゃでも貰ったつもりか、頭を振ってスカーフを振り回し始めたから、アルノーは慌てて取り上げた。
陽色は残念そうに、アルノーの手のスカーフを見た。
「小型犬にはおしゃれな服があるのに、大型犬にはあまりないでしょう? 首も太くてバンダナも巻けないし、僕、これならいいかと思ったんですけど」
「ははっ、ティフォンに飾りは不要ですよ。ありのままの魅力で勝負できる男ですからね」
その通りだというように、ティフォンが力強く吠える。
「ちぇ。わかりました、僕が自分で使いますよーだ」
陽色はそう言ってアルノーの手からスカーフを取ると、首に巻いた。
アルノーはティフォンにソーセージを放ってやり、
「ティフォンにはあれが一番のプレゼントでしょう」
自分たちの分も皿に取ってテーブルに置くと、陽色に向き直った。
「じゃあ、乾杯」
「クリスマスおめでとう」
空いた方の手でお互いの肩を引き寄せ、軽くハグをする。クスクスと笑い合い、カップを鳴らした。
グリューワインは、甘く飲みやすかった。
「これはいい。スパイスが効いて、ぽかぽかしてきますね」
「ふふ……じゃあ、スパイスの当てっこしましょ?」
「え?」
「僕、何種類か足してきたんです。さっきキッチンで」
最初に出会った時からアルノーと陽色が繰り返してきたゲームは、普段アルノーが出題者で、陽色が回答者なのだが……。
少し酔ってきた陽色は、甘えるようにアルノーにもたれて上目づかいで挑発してくる。
「さぁ!」
「いいですよ。……まずはシナモン、オレンジピール、そしてクローブ……」
陽色は、スカーフの端をもてあそびながら、うんうんと頷く。
「それだけ?」
「……アニス。ちょっとだけジンジャー。……以上」
「ほんとに?」
「本当に」
「負けたら、僕に何をしてくれますか?」
「負ける前提で話さないでください」
「いいから」
アルノーは突発的に、この可愛らしい恋人を今すぐどうにかしたいような衝動に駆られたけれど、それをおくびにも出さずに答えた。
「負けたら、陽色さんに、素敵なクリスマスプレゼントをあげましょう」
「ふふ……アルノーさんの負けです」
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