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大公令嬢は状況を知る
笑われてしまった
しおりを挟む昨日のことがあって寝不足の私は、チェリーに入れてもらった紅茶入りのカップをじっと見つめていた。
ほっぺにちゅー
からかうみたいに笑った顔
私が昔好きだったやつ
「……さま」
ほっぺにちゅー
ユージーンが、わたしに
「お嬢様」
ほっぺに……
「お嬢様!!」
「ひゃい!!」
ビックリして落としそうになったカップをサッとシューがうけとめる。うん、流石は私の侍従だ。
「ありがとう、シュー」
「いえいえ、てかお嬢、昨日から変だぜ? 大丈夫か?」
対するチェリーは呆れ半分心配半分というような表情をしている。
「もう、先程から何度もお呼びしたんですよ? 」
「あ、あら…そうだったのね」
やっぱりもう一度診てもらった方が良いのではとつぶやくチェリーの話を慌ててそらす。
「その、それでなにかあったの?」
「え? ああ、そうでした! お嬢様、ユージーン殿下が入学式のデビュタントの件ですぐお会いしたいそうです」
「ユッ!?」
すっかり忘れていた。
今日また会うと(一方的に)決められたけど、だめだ、まだ昨日のことが頭にチラついて絶対顔を合わせられない!
「……後でお伺いしますと、伝えてくれるかしら?」
「いえ、それが、その…」
「残念だったな、もう来ている」
その声に驚き振り向くと、ユージーンがさっきからずっと見てましたとばかりに口元を手で隠して震えていた。
「い、いつからいらしてたのですか…?」
「お前が紅茶を見つめながらぽけーっとしているところ辺りからだ…くっ…ふふ…」
つまり最初から見てたってことね!
昨日のことと今のことで顔から火が出るほど恥ずかしい。
なおも笑い続けるユージーンをたしなめる声が聞こえた。
「親しき仲にも礼儀ありですよ、殿下」
「ヴィンセント様!」
「お久しぶりです、アンジェリナ様」
眼鏡をかけた赤髪の彼は、ヴィンセント・アンデスク。ユージーンの側近で、次期宰相と名高い聡明さを持つ人だ。そしてこの綺麗で知的な顔立ち…確信はないけど、多分攻略対象なのだろう。
「婚約者とはいえ、殿下が部屋へ押し入るのを止められずすみません」
「いえっそんな」
「ただ殿下は、この6年ずっとアンジェリナ様にお会いしたくて堪らなかったものですから…大目に見て差しあげてください」
「は……はぁ……」
昨日も帰ってきてからすごく上機嫌だったんですよ、と耳打ちされても、曖昧に返事をするしかなかった。
ごめんなさいヴィンセント様。多分、そこに恋愛感情的なものは入ってなかったと思います。
あるとして、戦争回避の協力者が出来た!くらいに思ってるんでしょうよ。
後はお2人で仲良くと、ヴィンセント様は爽やかな笑みを浮かべながらチェリーとシューを連れて行ってしまった。
バタンと扉が閉まり、本当に2人だけになってしまう。
気まずくなる、と思いきや……
「……いつまで笑ってるのよ」
「い、いや……く……お前が、昨日のこと気にしてるのが面白くてだな……ふふっ……」
「今すぐこの紅茶をかけて差し上げましょうか?」
「ごめんごめん」
いつまで私のテンパリぶりをみてツボにはまっている皇太子サマに熱々の紅茶入りカップを向けたらすぐさま謝ってきた。
「昨日の続きよ。私達の婚約破棄は戦争の引き金ってことは分かったけど、それでどうするつもり?」
「簡単だ。2人で俺のルートになるフラグを叩き折ればいい。そのために先ず乗り越えなきゃならないのがデビュタントだ」
デビュタント。
「入学式の夜会セレモニーね」
「おう。そのセレモニーが、俺とヒロインが出会うイベントになってる」
大まかにいえば、1人で泣いてるヒロインをユージーンが慰め、ダンスを踊るという乙ゲーやロマンス小説のあるあるイベントだ。
「俺がヒロインに声をかけなきゃ済むんだろうが、運命の強制力が働かないとも限らない。だからここから先は協力してもらうぞ」
「協力?」
「そうさ、俺たちは戦争回避の為に運命共同体になる訳だ!」
そう言ってニヤリと笑ったその顔に、ものすごく嫌な予感がした。
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