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大公令嬢は状況を知る
ときめいてしまった
しおりを挟むデビュタントとは、この世界において16歳の子女のお披露目会を意味する。
中でも魔力を持った者は貴賎関係なく、次代を担うものとして社交界に参加しなければならない。そのためのお披露目会こそが、ラヴェール学園入学夜会セレモニーだ。
デビュタント当日、私の部屋は上を下への大騒ぎとなっていた。
理由はあのバカ皇太子のせいである。
「まさか、ほんとに当日になってドレス一式送り付けてくるなんて……一体いくらしたのよコレ……」
それは、昨日のこと。
不本意はいえ運命共同体とやらになった私に、ユージーンはこう言ってきたのだ。
『明日、ドレス贈るから。用意してたんだろうがデビュタントはそっちを着てくれ』
それも作戦のひとつらしく、了承して届いたのがこれ。
上等なシルクを使った深い青の生地に、黄金色の刺繍が施してある。靴や装飾品も同様に深い青をメインに、黄金色が添えられたデザインだ。そして極めつけは、
「タンザナイトのピアス……」
この一式全てが、ユージーンの色と、私の色で揃えられていた。
この一式を見た、デビュタントの支度のため手伝いに来てくれたローズアリア本邸の侍女長は感涙だった。
「冷酷で誰にも心を向けないと噂のユージーン殿下に、お嬢様はこんなにも愛されていらっしゃるのですね……!」
いや、これは戦争回避の為にやっているだけであってそこに愛はないです。勘違いです。
……なんて、お嬢様が幸せな結婚になりそうで良かった! この衣装に負けないくらいお嬢様を素敵にしなくては殿下に申し訳がない! とむせび泣き燃え上がる侍女長たちに言えるわけがなかった。
ようやく侍女たちが満足のいく髪型に仕上がり、装飾を全て身に付け終わった時、扉を叩く音がした。
「お嬢様、殿下がお迎えにいらしております」
「ええ、今行くわ」
「私とシューティーもお傍におりますゆえ、ご安心を」
「ありがとう、チェリー」
扉を開けると、皇家の衣装に身を包んだユージーンが立っていた。タイピンに飾られた宝石に目を見開く。
「……ソレ……」
黄色味の強いインペリアルトパーズ。私の瞳と同じ色だ。
「似合うだろ」
そう言って笑った笑顔に、一瞬キュンと胸が高鳴……
いや、ない。
ないない。
ないないない。
こいつに恋するのは前世で懲り懲りだ。
だって私には……
私、には。
「あれ?」
「どうした?」
「……ううん、なんでもない」
頭の中に違和感を感じたが、今は後回しだ。
「準備は?」
「私を誰だと思ってるの?」
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