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大公令嬢は状況を知る
声をかけられてしまった
しおりを挟む舞踏会形式のデビュタントでは、まず舞踏会の主役である新入生の中で最も位の高い者が踊り、開会を告げる。
今回の場合はオーゲン大陸の勢力図で頂点に立つイルドマーズ帝国皇太子のユージーンと、その婚約者の私だ。
その後、2曲目でほかの王族出身の新入生が、3曲目でどの参加者でも踊ることができるようなる。
「つっっかれた……」
「3曲目連続はさすがにきつかったな~」
形式上1曲で良いものを3曲連続で踊ったのはヒロイン対策のひとつだ。
私たちが転生者である以上、相手もそうである可能性は否定できない。
だから、物語と違う行動をとることで牽制することにした。
もし転生者じゃなくても、何曲も踊るという意味……二人の仲は相思相愛であると見せつけることで、たとえユージーンが声をかけざるおえない状況になっても変な期待を抱かせることは少ないだろう。
ついでに、大陸5ヶ国への将来安泰ですよアピール。
ユージーンが送ったドレスと互いの瞳の色をした装飾品も、より相思相愛であると思わせるための演出だ。
「実に優雅なダンスであったぞ。二人とも6年ぶりに会ったというに、誠に息があっておったわ」
給仕の者からドリンクを受け取り休憩している私たちにこんなにも気安く声をかけられるのは、参加者の中できっと4人だけだろう。そのうちの一人……
「父上!」
ユージーンの父君、皇帝陛下だ。
私は慌ててドリンクをおき、カーテシーをとる。
「皇帝陛下……! 挨拶が遅れまして申し訳ございません!」
「良い良い。余もマキシマス達とそなたらの踊りに見とれておったからな」
マキシマスとは、私の父の名だ。
「ところで、少し愚息を借りても構わんかね?」
「げっ」
「え? ええ……それは構いませんが……」
「すまぬな。そなたも両親と語らってくるが良い。なにせ学園に入れば長期休暇まで会えぬからな」
「父上、ちょっと待……」
ズルズル引きずられてゆくユージーンの助けろやという視線を感じたが、無理。皇帝の願いを無視できる令嬢がどこにいるって言うんだ。
私は、そばにいたチェリーとシューに声をかける。
「お父様とお母様に会いに行きましょう。陛下のおっしゃる通り、入学したらなかなか会えないものね」
「はい、お嬢様」
両親に挨拶に行こうと踏み出したその時……
「おやおや、そこにいらっしゃるのはアンジェリナ嬢ではありませんか」
分不相応な声に呼び止められた。
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