悪堕ち先輩を手厚く”保護”して”矯正”します!

サコッシュ拓

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 ヘリコプターから照射された強い光がバイザー越しに目に焼き付く。
 背筋を伸ばし、腕を曲げてポーズを取り、深く息を吸う。
 マンションの屋上や路地裏、はたまた電信柱にくくりつけられた看板の隙間にまで、ありとあらゆる場所に設置してあるカメラを気に掛けつつ眼前の敵に向けて声を出す。ここまでは完璧。

「お前達、そこまでだ!これ以上の乱暴は俺たちヤオチョウジャーが許さない!!」
「出たなヤオチョウジャー…今日こそ決着を付けてやる!お前ら、かかれ!」
「「「ギーッ!」」」

 異形の見た目をした怪人が大きな声を出すと、背後に控えていた大量の雑魚敵が襲い掛かってきた。


 正義のヒーローは、確かに存在する。別に概念的な話じゃなくて、普通に一般的な職業としてこの現代社会に存在している。
 バカバカしく聞こえるが、その仕事内容はひどく現実的だ。週に一回必ず公共の場所で暴れ回る反社会的勢力をカメラの前でタコ殴りにするのが主な仕事で、政府広報の一環として公演に出たり、パトロールという名目で全国行脚したり、その他アイドル紛いのクソみたいな業務が諸々。
 でも完全週休二日制だし、定時で帰れるし、福利厚生も充実していて給料も悪くない。ヒーローが正式な職業として制定されてからここ数十年の間、ヒーローは人気の職業第一位に君臨し続けていた。
 しかし、ヒーローになれるのは本当に一握りの人間だけだ。メンバーは毎回5人までだったし、代替わりするのも基本年に1回しかない。まだ航空パイロットを目指す方が可能性があるくらいだ。
 それでも、狭い門を通るためにヒーロー養成専門大学がいくつも新設されたし、ヒーローになることを夢見てわざわざ地方から上京してくる学生も、後を絶たなかった。


「人に仇なす怪人め、正義の鉄剣の前に散れ!ヤオ・チョウ・斬!」
「グワァァァァ!!!」
「正義は必ず、勝つ!」

 バゴォォン!と派手な爆発音と共に、斬り捨てた怪人が背後で爆散した。
 炎と大量の煙が辺り一帯を包む。役目を終えた報道ヘリが、煙から逃げるように空に帰って行く。
 爆発に紛れて、元のサイズに戻った怪人が雑魚敵を連れてさっさと帰っていく様子をぼんやり見つめていると、地下エリアに避難していた街の人々がぽつぽつと地上に戻ってきた。

「ようやく外出られた…て、あ、あれ…あれって、ヤオチョウジャー…?」
「本物…?マジだ、本物だ、あれ本物だ!本物のヤオチョウジャーがいる!」
「わー!こっち見てー!!ヤオチョウジャー大好き!これからも応援してます!!」

 俺たちの姿を確認してすぐに大きな声を出し、こちらに近づこうとしたり勝手に写真を撮ってくる一般人に穏やかに手を振りながら、いかにもヒーローレッドらしい声を上げる。

「皆さん、瓦礫などがまだ残っていますから落ち着いて移動をお願いします!あと、応援ありがとう!今日怪人に打ち勝てたのも皆さんのおかげです!」
「キャアア!!ファンサやばすぎ!」
「お前らどけ!こんな距離で撮影できる機会滅多にねぇんだから!」
「アンタこそどきなさいよ!」

 更に沸き立った一般人がいよいよ暴徒と化しそうになる所で、バラバラと大きな音を立てながらヒーロー送迎用のヘリが降下してきた。人波に軽く挨拶してから、さっさと5人全員ヘリに乗り込んだ。

 …さて、今日も俺は立派なヒーローだった。先輩が願っていたような、人を助けて笑顔にして、その身で正義を体現する、そんな理想像を守ることができたはずだ。
 安堵と満足感を噛み締めながらヘリの安全ベルトを締める。手慣れた運転手がすぐに離陸して、ようやく一息つくことができた。

 ヒーロー協会が所有している高層ビル屋上に着陸したヘリから降りて、それぞれ専用の更衣室に向かっていく。
 控室で待っていれば、ラフな格好に戻ったメンバーが次々と集まってきた。
 今日は先輩の所に行ける日だし内心早く帰りたくてソワソワしてるが、俺は常にヒーローレッドとしてふさわしく振る舞わなくちゃならない。
 全員集まったところで自分から声をかけた。

「みんなお疲れ。今日も大変だったね。」
「本当にな。戦闘中はずっとカメラに撮られるし、戦い終わった後は人波に揉まれるし…はぁ。まだ半年はこれをやらなくちゃならないんだから、気が滅入る。…お前らこの後暇か?少し飲みに行かないか。」
「え?!行きたい行きたい!!こないだピンクと美味しい焼き鳥のお店見つけたんだ!そこもっかい行きたい!」
「…確かにあの店雰囲気も悪くなかったし、焼き鳥美味しかった。みんなが良いなら行きたいかも。」
「へぇ、ピンクが言うなら本当に美味しいんだろうね。僕は特に希望ないしそこで良いよ。ブルーは?何かある?」
「いや、俺も店にこだわりはない。…一応聞くが、レッドは…」

 ブルーがこちらに顔を向け、つられて他のメンバーの視線も集中したところで、申し訳なさそうな笑顔を見せて声を出した。

「あー…ごめん。俺はこれから科研に行かなきゃいけないから…」
「だろうな。最近のお前はいつもそれだ。」
「こないだもそう言って断ってなかったか?!レッドは忙しいんだな!」

 ブルーからはため息を吐かれ、イエローからは大袈裟に驚かれる。
 他の皆も最初から俺が来ることに期待はしていなかったようで、各々好きな行動を取り始めた。

「よくもまぁ、あんな薄気味悪い連中と業務時間外で付き合えるよね。お人好しも大概にしたら?」
「グリーン、やめなよ。…確か、この間保護・・してあげた人の所にお見舞いに行ってるんだっけ。」
「うん。彼の調子があまり良くならなくて…学生時代お世話になった人だし、せめて日常生活を送れるようになるまでは付き添いたいんだ。」
「本当にレッドは良い奴だな!人のために頑張るのもいいけど、たまには自分を労われよ!」
「イエローの言う通りだ。別に俺達の飲みの誘いを断ったって良いが、空いた時間は他人の為じゃなく、自分の為に使うべきだと俺は思うぞ。」
「あはは、ありがとうイエロー、ブルー。でも、あの人の体調が良くなって前みたいに気軽に話せる関係に戻れたら、きっと…すごく俺の支えになってくれると思うから。だから今回は少しだけ、自分の為でもあるんだ。」
「ふーん…普段は博愛主義者ムーブしかしないお前に、そんなに熱心なお相手がいたとはな。女?」
「グリーン、やめなって。レッドがその人とどんな関係でも、大切だと思う人のために頑張れるのは素敵なことだと思う。グリーンも本当はそう思ってるんでしょ?」
「あ~ハイハイ。」
「俺もそう思うぞ!レッドはすげ~良いヤツだって!」
「…たまには自分自身を労ってやれよ、リーダー。」
「えへへ、みんなありがとう…!ちゃんと自分の時間も大事にするよ!また来週も頑張ろうね!」
「おう!また来週な~!」

 わいわいと仲良さげに話しながら、4人の背中が人混みに消えていく。
 完全に見えなくなるまで見送った後、俺は踵を返して科研に足を運んだ。
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