冷笑癖のある平凡メガネくんをドロドロに甘やかして依存させちゃうだけ

サコッシュ拓

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 …ふと、意識が浮上する。しばらくぼーっと天井を見つめていたが、目を凝らしてもぼやけてよく見えない。
 ぺた、と自分の顔に手を当てると、眼鏡をつけてないことに気付いた。
 やばい、あれがないと本当に何も見えない。ぼんやりと輪郭しか捉えられない世界に一気に不安になる。
 起き上がって必死に周りを見渡す。かろうじて自分は涼しい部屋の中にいて、誰かのベッドに寝かせられていることが分かった。
 自分のことをよく見ると、脇と首筋、それと膝裏にタオルで巻かれた保冷剤が挟み込まれていた。どれも少しぬるくなっていて、この状態のまましばらくここで寝てたっぽいことがわかる。今、何時だ…?
 ベッドから足を下ろすと、俺のリュックがすぐそばに置いてあった。慌てて中を探してメガネケースを探り当てたが、そこに眼鏡は入っていなかった。
 携帯は普通に入っていたから起動しようとしたが、バッテリー切れなのかいくら電源を押しても真っ暗なまま動かない。
 ここはどこなのか、今が何時なのかも分からなくて不安に押し潰されそうになった時、ガチャ、と玄関と思しき方向から音がした。

「ただいま~。…てあれ、玲生起きてる!良かった~、このまま起きなかったら病院連れてくとこだったよ。」
「っ…おま、おまえ、捏居か?」
「?どう見たってそうじゃん。どした?まだ熱さで頭おかしくなってる?」
「……」

 眼鏡がないから顔がぼやけて見えねぇんだよ。頭おかしくなるわけねぇだろ。
 そう罵りたかったが、本当に捏居が今どんな顔をしているのか分からない。手に提げた袋からがさごそと何かを取り出している背中に、おずおずと声をかけた。

「め…眼鏡…俺の眼鏡、どこやった…」
「ああ、メガネね!そっか、今何も見えてないのか。先にあっためたいものあるから、ちょっと待っててね~。」

 いやまず先に俺の眼鏡返せよ。それが第一優先でやるべき事だろうが。
 捏居に対して苛立ちが募るが、この視界の元じゃ迂闊に動けない。
 ベッドの端に座ってじっと待っていると、何かを手に持った捏居がこちらに迫ってきた。

「え…な、何。」
「これ体温計。もう大丈夫だとは思うけど、一応測ってね。」
「は…」
「あと、メガネ!はい、かけてあげるからじっとしててね~。」
「っおい、やめ…!」

 ずんずんと捏居がベッドに乗り込んできて、半ば押し倒されるような形で隅に追いやられる。
 反射的にぎゅっと目を瞑ると、耳の上にいつもの硬い感覚が戻ってきた。恐る恐る瞼を開くと、顔のいい男とバッチリ目が合った。

「どう?見える?」
「…み、見えるから、どいて…」
「あはは、玲生のメガネって本当分厚いんだな。俺こんなの付けてたら絶対酔っちゃうよ!」
「っ…」
「ほら、体温ちゃんと測ってね。あれから随分寝てたしもう平熱に戻ってると思うけど。」
「…え、寝てた…?」
「うん。玲生が自販機前で動けなくなったからタクシー呼んで俺ん家まで連れてきたでしょ。そこで最低限の塩と水取らせてからはずっと寝てたよ。」
「え…」

 ばっと窓の外を見ると、確かに外はもう真っ暗になっている。

「…い、今何時?」
「んー?えーと…20時38分。」
「えっ?!」
「割と長いこと寝てたね!お腹空いてない?ご飯買ってきたけど食べない?」
「えっ、ちょ、ちょっと待って、携帯…俺の携帯、充電切れてて…あの、充電器…」
「あ、そこに刺さってるやつ使って良いよ。」
「…あ…うん…」

 慌ててベッドから降りて、携帯にプラグを差し込む。
 まずい、そんなに寝たとは思ってなかった。母さんに全然連絡してないから、めちゃくちゃ鬼電されてるはずだ…

「あ、もしかしてお母さんのこと気にしてる?」
「えっ、えっ?!な、なんでわかっ、わかって」
「玲生が寝てた時にめっちゃ電話かかってきてたから、適当に俺が出て状況説明したんだ。話したらすぐ分かってくれたし、息子思いのいいお母さんだね!」
「…なっ……?!」

 ふ、普通他人の携帯にかかってる電話なんて取ろうと思わないだろ?!てか、母さんと話したの?!
 分かってくれたって、どう説明すればあのヒスりがちな母さんを説得できるんだ??
 というか、マジでなんなんだこいつ…そこまでして俺に何がしたいんだ…?

「それよりさ、なんか食べない?俺お腹空いちゃって。さっきコンビニで適当に買ってきたから、好きなもの取っていいよ。」

 平然と俺がここに居続けることを前提に話を進めてくるのもなんなんだ。お前と飯なんか食べるわけないだろ!
 その時、ピピピピ、と体温計の音が鳴った。

「お、何度だった?」
「………36.5。平熱…」
「良かった!昼間は本当に熱くなってたけど、あれから無事に体温が下がったんだな。すぐ首周りとか冷やしたのが効いたのかも。」
「……」

 別に、俺は看病して欲しいとか一言も頼んでないし。自分がやったことで人から感謝されたいみたいな本性スケスケでキツいわ。てか、この状況なら俺が感謝するのが当たり前ってこと?なにそれ。涼しい顔して、俺が頭下げるのを今か今かと待ってるんだろ。気持ちわる。
 …いや、別に、俺がこいつに恩を感じる必要とかも一切ないからな。元はと言えばこいつが追いかけてきたのが悪いんだし。てか倒れた人間助けるくらい普通のことじゃね?なんで俺がお前に感謝なんかしないといけないの?それだけならまだしも、一緒に飯まで食わなきゃならんのは意味わからんわ。

「…おっ、おれ、もう帰…」
「あ、玲生が好きな甘くてシュワシュワの飲み物も買ってきてるよ!最近ずっと一人飯だったし、久々に友達と食えるのマジで嬉しいかも!!俺焼き鳥丼にしよっかな!怜生は?」
「……」

 は?友達ってなに。いつお前と友達になった?ちょっと話しただけで友達判定するの、ライン低すぎてキツいわ。すれ違っただけでも友達認定されそう。
 …てか、俺は食べないからな。いや確かに今お腹すいてるかそうじゃないかで言ったら割と空いてる方だけど、でもコンビニ飯なんて塩分と油分の塊みたいなもん食べたくなるほどじゃないし。
 そう思いつつも、目線が袋の中に集中してしまう。その中に入っている、極太豚骨ラーメンという文字から目を離せなくなった。

「…」
「あ、もしかしてラーメン気になる?」
「えっ。いや、あの……別に。」
「遠慮しなくていいって!病み上がりなら、好きなもん食べた方がいいからね。チンしてくる!」
「…ぁ…」

 いや、別に俺食べるとか一言も言ってないからね。勝手に了解して勝手に行動するとか無理すぎ。仕事できなさそう。…てか、お前はすでに焼き鳥丼暖めちゃってるじゃん。捏居が焼き鳥もラーメンも食べられるような大食漢にも見えないし、ここで俺がラーメン食べずに帰ったら一品まるまる無駄になるってこと?
 頭の中で色々考えていると、捏居が急に俺の手を引いて椅子の前まで連れて行った。

「ちょ、やめ、おわっ…!」
「あったまるの待つ間に先飲んじゃお!完全に俺チョイスで選んだけど、怜生に合うかな?」
「…」

 目の前のコップに、しゅわしゅわと音を立てる薄いピンク色の液体が入っている。
 何味なんだ、これ?エナジードリンクじみた色合いをしていて、見た目から味を想像できない。ちょっとだけ好奇心をそそられる。

「じゃ、久々の再開にかんぱーい!」
「…え、かんぱっ?!こ、これ、お酒…?」
「…あは、そんなわけないじゃん!かんぱいってのはただの挨拶だよ、ほら、かんぱーい!」
「…か、かんぱい…」

 勢いに流されるままに、コップをかちゃんと合わせられる。捏居はそのままごくごくと飲み始めた。
 …本当にアルコールじゃないよな?俺まだ18だし、捏居だって少なくとも20歳ではないはずだ。だから出てくるわけないけど、なんか不安になってきた…捏居にバレないように嗅いでみても、なんの匂いもしない。
 …ちょっと飲んで、変な感じがしたらすぐにやめればいいか。起きてから何も飲んでないし、ほんの少し飲むだけ。
 そう思って口をつけると、柑橘類かグレープフルーツっぽい爽やかな甘みが舌に広がった。別に変な味はしないし、微炭酸ってやつなのかそこまで強い刺激が喉に来なくて、よく冷えていてごくごく飲めてしまう。なんだこれ。どこのメーカーのなんだろう、普通に美味しい…

「どう?気に入った?」
「……あ、まぁ。」
「よかった!これ美味くてめっちゃ好きなんだよね!怜生も気に入ってくれて嬉しいよ!」
「…ふーん。」

 やっぱりお前も甘い飲み物好きなんじゃん。じゃあなんでさっき馬鹿にしてきたんだよ。
 ちょっとイライラしつつも大人しく飲み物を飲んでいると、だんだん体がぽかぽかしてきた。…体動かしたから、熱上がってきたのか?

「あ、チンできたよ。どうぞ!」
「…あ、…うん。」
「ん?食べないの?」
「…あ、えと、や…俺は…」

 食べない、とはっきり言いたいのに、目の前のラーメンから強いニンニク臭がしてきて、ごくりと喉が鳴る。
 だ、だめだありえないっ、こいつとメシ食べるとか意味わかんないし。おかしい、おかしいのに…

「じゃ俺も焼き鳥丼食べるね!いただきまーす。」
「…う、う…」

 捏居はマイペースに飯を食べ始めた。うまそうに米を食べる姿を見せつけられて、ぐぅ、とお腹がなった。…クソっ!ちょっと食べたらすぐ帰る!どうせ人の金だしこいつが全部始めたことだし残しても文句言わないだろうし。ちょっと食べてすぐ帰れば別に大丈夫だし、別に!
 自分でも半ば無理やり自分を納得させて、麺に口を付けた。相変わらず伸びているが、塩と豚の旨味が空腹にビリビリくる。うまい…

 気付いたらいつの間にかコップの中身を飲み干していて、ラーメンも半分まで食べ進めていた。さっきからなんかふわふわ?するけど、とにかくまだ食べたい。

「怜生、おいしい?」
「…まあ、別においしいとかおいしくないとかじゃないからねコンビニめしは…結局こんなの塩と…あぶら…だし…」
「あはは、確かにそうかも!でもこういうのが食べたくなっちゃう時もたまにはあるよね~。」
「…ああ、まぁ…たまにはね…」

 …あれ、おれ、思ったこと口にでてた?
 捏居から返事が返ってきてびっくりした。こころの中だけで思ったつもりだったのに、間違えて声に出しちまった。気をつけないと…

「はい、コップの中無くなってたからおかわりね。」
「あー…うん…」
「今日だけはいつも思ってること口に出してみても良いんじゃない?ばーっと思いっきり吐き出しちゃうってことで。」
「うー…いやぁ、そーしたいけど…でも俺が喋ったらみんな変な顔すんじゃん…」
「あはは、ここには俺と玲生しかいないよ。それに、玲生は地頭良くてスパッと本質を突く癖があるから、それが周りの奴らにとって都合が悪いんじゃない?」
「お、おお…まぁ、そう。そう、地頭良いからね、おれは…学歴とかじゃなくてぇ、考える力があるからね?おれには…」
「ふふ、そうだよね。玲生っていつも面白い視点から物事見てるし、おれそういうの苦手だからほんと尊敬するよ。」
「…あ~…まぁ…まぁべ、別に…練習すれば誰にでもっ、できることだし…」
「いやいや、それでも玲生はすごいよ。いつも俯瞰的に物事を見てるっていうか、どんな時も冷静だし。それってそう簡単にできることじゃないよ。」
「…ま、まぁ…うん…まぁねぇ…?」

 なんだこいつ、けっこー分かってんじゃん?
 そーなんだよな、おれは結局間違ったこと言ってないっつーか、ものごとの本質をね?結局の事実をね?言ってるだけだし。それに、いつも第三者的目線で物事を判断できるしね。やー、一見誰でもできそうだけど案外難しいってのがミソなのに、それを見抜くとは…最初は見た目で警戒してたけど、案外捏居も”分かってる”側なのかも。
 …なんかさっきから結構飲み物飲んでるのに、喉が渇いて仕方ない。視界がぐにゃぐにゃしてるけど、気持ち悪いってよりかは、気持ちいい、感じの…

「ねぇ、もっと玲生のこと聞かせてよ。高校の時あんまり話せなかったし、最近のことも知りたい!」
「ぁあ~?おまえって、あんがいもの好きなんだな。そんなに聞きたいってんなら話してやるけどさぁ、おまえみたいな勝ち組やろうからしたらマジでハードすぎるから、覚悟しろよまじで。」
「あはは、分かった、真剣に聞くよ!…あ、もう全部飲んだんだ。また注いであげるね。」

 さっきまで机の反対側にいた捏居が隣に座ってきて、俺の手に持ってるコップに、とぽとぽとまた飲み物を注いでくれる。
 なんか、かなり距離近い気がするけど、まぁ…良いか。他人と交流するのも、たまには悪くない。捏居は高学歴だし…めっちゃ馬鹿にしたりとかはしてこないし、周りのアホとは、なんか違う気がする…
 そう思いながら、ぽつぽつと大学に入るまでのことを話しているうちに、夜は更けていった。
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