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川西美和子の場合
川西美和子、アキラ・ハヤーサと会います
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そして週末、日曜日。
アキラと初めて会う、約束の日がやって来た。
必然的に化粧や服選びにも、並々ならぬ気合いが入る。
服は膝丈の白地に青の花が描かれたワンピースに、薄いクリーム色のカーディガン。
首もとは華奢なオープンハートのシルバーネックレス、足はいつもよりヒールが高めの白いパンプスだ。
一通りの準備が出来たので、渡瀬神社へ向かう。待ち合わせ場所まで案内してもらうのだ。
今日はやたちゃん先輩が鳥居に止まっていた。
「よぅ。お嬢ちゃん元気か?」
「やたちゃん先輩、おはようございます。この間はありがとうございました。話を聞いてもらったので元気です。あの後、後輩に連絡しました。まだ返事はないけど、自分の中では解決したので。今日は、金属の国の人と初めて会います」
「そうか。すっきりして良かったな。緊張するかもしれんが、相手はずっと話してきた人だ。大丈夫だから頑張れよ!」
「はい。頑張ってきます!」
やたちゃん先輩の励ましに、手を振ってから、渡瀬家へ歩く。
玄関前には紬さんがいた。
「あ、美和子さん。おはようございます。その服似合ってますよ! 前に言ってたように、今日は電車で政府の施設に行きます」
道中、紬さんと世間話に興じる。
紬さんの話は大抵食べ物の話だが。
「アキラさんとはどんな話をしてるんですか?」
唐突に尋ねられて困ってしまう。
「うーん、文化の違いや天気の話、仕事の話とかです。驚いたのは、アキラさんとケイさんの世界は、彼らが生まれる前から異世界と交流があることかな。地球も結構進歩したと思ってたけど、上には上があるんですね」
「異世界との交流時期には世界ごとに時間差がありますからね~」
「今日も実際に会ってちゃんと話せるのかも不安です。翻訳とかどうなってるんですか?」
「お渡ししている『キューピッドくん3号』は、音声データも翻訳できるんですよ! だから、今日もお話し中に『キューピッドくん』を起動させておくと、画面に訳が表示されますよ。あとあのネックレスは特殊な技術で作られているので、異世界の言葉が分かるようになるんです! ちなみにネックレスも『キューピッドくん』も各世界の『あえ~る』普及度と文化等によって機能が違うのです」
すごい技術に感心していると、あっという間に目的地に到着した。
大都会の某所にある世界政府の日本支部。
内装は素晴らしく豪華で、たくさんの美術品が飾られている。
私は初めて来たので田舎者感満載だが、紬さんはサッと受付の美女に声をかけてすぐに戻ってくる。
「美和子さん! 受付が終わりました。さ、行きましょ」
「ええっ、最上階っていったい何階……?」
促されるまま、大きなエレベーターで最上階へ。
品の良いオジサマバーテンダーの案内で奥のVIPルームへと向かう。
ノックして豪華な扉を開けると、期待を裏切らない豪華な内装の部屋が広がっていた。
備え付けのカウンターには沢山の瓶が並び、部屋の中央にはテーブルがある。
5つの椅子がドアの対面に1つ、左右に2つずつ置かれていた。
ドアの対面、所謂お誕生日席は渉さんが座っている。
左の2席に、アキラと知らない女性が座っている。
アキラと目が合って微笑まれる。
メッセージとさほど印象の変わらないアキラに、少し肩の力が抜けた。
私は、アキラの正面に着席する。
「翻訳システムの準備をして下さい」
「美和子さん。今日はネックレスを使いましょうか。ネックレス、握りこんでください。話がしたいって祈りながら」
「分かりました」
アキラと隣に座った女性は、私の知らない言葉で会話している。
ちらりと、私がもらったのと同じネックレスがアキラの首元で輝いているのが見えた。
先ほどまで全く分からなかった音が、意味のある言葉になって聞こえてきた。
「これでいいんだよな?」
「はい。ミワコさんもネックレスを握ってらっしゃるので、お互いの言語が通訳された状態になっています!」
「すごい、言葉が分かる……」
「おっ、ミワコの言葉も分かるぞ」
最新の技術力に感動して、思わず零れた一言がアキラに聞こえていたらしい。
写真で顔を知っていたからか、初めて会った気がしない。
緊張していたが、アキラの無邪気な笑顔を見ると、少し肩の力が抜けてきた。
お誕生日席の渉さんが説明を始めた。
「えーと準備は出来ましたね? それでは今から開始とさせていただきます。今日はこちらでランチを食べながら、のんびり話して頂ければと思います。メニューはこちらよりお選びください」
メニュー表が渉さんから配られた。中を見るといたって普通の日本食である。
天ぷら付きのそばセット、寿司セット、唐揚げ定食、鮭の塩焼き定食の4種類だ。
写真を見て、寿司の口になってしまったので、寿司とうどんのセットを頼む。
日本食は文化遺産でもあるし、寿司は妥当なはず。後で、1駅分歩こ。
「俺は…コッコ鳥の丸焼きセットで!」
アキラとはメニュー表が違うようで、自分の世界の料理を頼めるようになっているみたいだ。
「これで後はドリンクですね。こちらのメニューにある物は作れる材料がそろっていますので、こちらのマスターに頼んでください。それでは、僕と仲人は退室しますがいいですか?」
「いいぜ。後は適当に自分たちでやるから大丈夫だよ。制限時間は2時間だっけ?」
「はい。また迎えに来ますので」
出来立ての料理がテーブルに置かれる。
私の前には寿司8貫とミニうどん、赤だし、ほうれん草のお浸しが並び、アキラの前には七面鳥の様なサイズの鳥の丸焼きと汁物、サラダらしきものが並んだ。
「分かった。ミワコ! 熱いうちに食べようぜ!」
「うん。アキラが頼んだそれは何?」
「これはコッコ鳥って名前の鳥がいるんだけど、お腹に細かく刻んだ野菜と米を混ぜて味付けした奴を入れて、丸焼きにするんだ。だから中は味付きのご飯が入ってるんだぜ! 俺の国の伝統料理だ。ミワコの方は何を頼んだんだ? 板の上に載ってるのは何だ?」
ふむ。あの鳥はそのままローストチキンの様なものなのね。
異世界でも似たような調理方法が生まれるなんてすごい。
アキラが興味を示したのは、予想していた通り寿司だった。
「これはにぎり寿司っていうの。私の国の伝統料理だよ。生の魚を骨や鱗を取って薄く切り身にして、甘酸っぱく味付けしたご飯と一緒に握るの。好みでワサビって言う刺激のある薬味を載せて、醤油を付けて食べるんだよ」
「へぇー! なんか綺麗だな! 俺の国では魚は、絶対生では食べないな。生臭くないのか?」
「そうなんだね。地球でも魚の生食はしないところも多いよ。むしろ生食文化の方が珍しいから、アキラの国とあまり変わらないかもね。気になるなら食べてみる?」
臭みが少なくて、人気の高いサーモンを取り皿にとって醤油の入った小皿とワサビともに渡す。
興味深そうに顔を近づけて、くんくん臭いを嗅いでいるのが面白い。
「すげ、魚の変な臭いは全然しないな! なんか酸っぱい匂いがする!」
「はははっ、アキラ可愛い。ちょっと犬っぽい……。酸っぱいのは酢飯の匂いだよ。その茶色い液体が醤油って言う調味料で、緑の山になってるのがワサビね。ワサビは辛いから注意してね」
アキラはワサビがどれほど辛いのか気になったみたいで、箸の先に少しだけ付けてそのまま舐めた。
「うわっ! あっ! なんだこれ!? は、鼻がいたっ」
「大丈夫? 辛いって言ったでしょ。ワサビは鼻がツーンとするよね」
「辛い……のか? とにかく鼻が痛かった……でも、寿司うまいっ!! 全然臭くねーな!」
ぱっとキラキラした笑顔を浮かべるアキラに胸の奥がキュンとした。
アキラ、可愛い!
にやける口元を抑えながら口を開く。
「口に合ってよかった。ワサビには臭み消しの効果もあるからね」
その後もうどんの打ち方や、アキラのサラダに入っている野菜が異世界から輸入した『亀の鱗』という苔だという話で、あっという間に時間は過ぎていった。
帰り道、話題はやっぱりアキラのことだ。
「アキラさんと実際に話してみて、どうでした?」
「裏表がない人だなと思ったかな。ホントに、メッセージで話してる中で、想像してた性格のそのままな人だったから、全然初めて会った気がしなかったです」
「そうなんですね! お互い好感触みたいで、私嬉しいです! 帰り際にアキラさん、次回の約束も話してましたよね! 楽しみですね!」
そうなのだ。アキラは帰り際、次の話をしていた。
『今度は俺が、ミワコの世界に行くな! 他にも美味いもの教えてくれ! ミワコの住んでる世界が見たい!』
今度は日本に来てくれるらしい。
いつか私がアキラの住んでいる世界に行きたい。
「そうですね。今から楽しみです」
「とりあえず、来週はケイさんと会う予定ですからね! そっちも楽しみですね」
自分の生まれ育った環境や料理、文化を気に入ってもらえるのはすごく嬉しい。
今回、アキラはとても話がうまく、すごく楽しかった。
次はケイさんと会う。
ケイさんは無口そうなイメージだが、さて、どうなることやら……。
アキラと初めて会う、約束の日がやって来た。
必然的に化粧や服選びにも、並々ならぬ気合いが入る。
服は膝丈の白地に青の花が描かれたワンピースに、薄いクリーム色のカーディガン。
首もとは華奢なオープンハートのシルバーネックレス、足はいつもよりヒールが高めの白いパンプスだ。
一通りの準備が出来たので、渡瀬神社へ向かう。待ち合わせ場所まで案内してもらうのだ。
今日はやたちゃん先輩が鳥居に止まっていた。
「よぅ。お嬢ちゃん元気か?」
「やたちゃん先輩、おはようございます。この間はありがとうございました。話を聞いてもらったので元気です。あの後、後輩に連絡しました。まだ返事はないけど、自分の中では解決したので。今日は、金属の国の人と初めて会います」
「そうか。すっきりして良かったな。緊張するかもしれんが、相手はずっと話してきた人だ。大丈夫だから頑張れよ!」
「はい。頑張ってきます!」
やたちゃん先輩の励ましに、手を振ってから、渡瀬家へ歩く。
玄関前には紬さんがいた。
「あ、美和子さん。おはようございます。その服似合ってますよ! 前に言ってたように、今日は電車で政府の施設に行きます」
道中、紬さんと世間話に興じる。
紬さんの話は大抵食べ物の話だが。
「アキラさんとはどんな話をしてるんですか?」
唐突に尋ねられて困ってしまう。
「うーん、文化の違いや天気の話、仕事の話とかです。驚いたのは、アキラさんとケイさんの世界は、彼らが生まれる前から異世界と交流があることかな。地球も結構進歩したと思ってたけど、上には上があるんですね」
「異世界との交流時期には世界ごとに時間差がありますからね~」
「今日も実際に会ってちゃんと話せるのかも不安です。翻訳とかどうなってるんですか?」
「お渡ししている『キューピッドくん3号』は、音声データも翻訳できるんですよ! だから、今日もお話し中に『キューピッドくん』を起動させておくと、画面に訳が表示されますよ。あとあのネックレスは特殊な技術で作られているので、異世界の言葉が分かるようになるんです! ちなみにネックレスも『キューピッドくん』も各世界の『あえ~る』普及度と文化等によって機能が違うのです」
すごい技術に感心していると、あっという間に目的地に到着した。
大都会の某所にある世界政府の日本支部。
内装は素晴らしく豪華で、たくさんの美術品が飾られている。
私は初めて来たので田舎者感満載だが、紬さんはサッと受付の美女に声をかけてすぐに戻ってくる。
「美和子さん! 受付が終わりました。さ、行きましょ」
「ええっ、最上階っていったい何階……?」
促されるまま、大きなエレベーターで最上階へ。
品の良いオジサマバーテンダーの案内で奥のVIPルームへと向かう。
ノックして豪華な扉を開けると、期待を裏切らない豪華な内装の部屋が広がっていた。
備え付けのカウンターには沢山の瓶が並び、部屋の中央にはテーブルがある。
5つの椅子がドアの対面に1つ、左右に2つずつ置かれていた。
ドアの対面、所謂お誕生日席は渉さんが座っている。
左の2席に、アキラと知らない女性が座っている。
アキラと目が合って微笑まれる。
メッセージとさほど印象の変わらないアキラに、少し肩の力が抜けた。
私は、アキラの正面に着席する。
「翻訳システムの準備をして下さい」
「美和子さん。今日はネックレスを使いましょうか。ネックレス、握りこんでください。話がしたいって祈りながら」
「分かりました」
アキラと隣に座った女性は、私の知らない言葉で会話している。
ちらりと、私がもらったのと同じネックレスがアキラの首元で輝いているのが見えた。
先ほどまで全く分からなかった音が、意味のある言葉になって聞こえてきた。
「これでいいんだよな?」
「はい。ミワコさんもネックレスを握ってらっしゃるので、お互いの言語が通訳された状態になっています!」
「すごい、言葉が分かる……」
「おっ、ミワコの言葉も分かるぞ」
最新の技術力に感動して、思わず零れた一言がアキラに聞こえていたらしい。
写真で顔を知っていたからか、初めて会った気がしない。
緊張していたが、アキラの無邪気な笑顔を見ると、少し肩の力が抜けてきた。
お誕生日席の渉さんが説明を始めた。
「えーと準備は出来ましたね? それでは今から開始とさせていただきます。今日はこちらでランチを食べながら、のんびり話して頂ければと思います。メニューはこちらよりお選びください」
メニュー表が渉さんから配られた。中を見るといたって普通の日本食である。
天ぷら付きのそばセット、寿司セット、唐揚げ定食、鮭の塩焼き定食の4種類だ。
写真を見て、寿司の口になってしまったので、寿司とうどんのセットを頼む。
日本食は文化遺産でもあるし、寿司は妥当なはず。後で、1駅分歩こ。
「俺は…コッコ鳥の丸焼きセットで!」
アキラとはメニュー表が違うようで、自分の世界の料理を頼めるようになっているみたいだ。
「これで後はドリンクですね。こちらのメニューにある物は作れる材料がそろっていますので、こちらのマスターに頼んでください。それでは、僕と仲人は退室しますがいいですか?」
「いいぜ。後は適当に自分たちでやるから大丈夫だよ。制限時間は2時間だっけ?」
「はい。また迎えに来ますので」
出来立ての料理がテーブルに置かれる。
私の前には寿司8貫とミニうどん、赤だし、ほうれん草のお浸しが並び、アキラの前には七面鳥の様なサイズの鳥の丸焼きと汁物、サラダらしきものが並んだ。
「分かった。ミワコ! 熱いうちに食べようぜ!」
「うん。アキラが頼んだそれは何?」
「これはコッコ鳥って名前の鳥がいるんだけど、お腹に細かく刻んだ野菜と米を混ぜて味付けした奴を入れて、丸焼きにするんだ。だから中は味付きのご飯が入ってるんだぜ! 俺の国の伝統料理だ。ミワコの方は何を頼んだんだ? 板の上に載ってるのは何だ?」
ふむ。あの鳥はそのままローストチキンの様なものなのね。
異世界でも似たような調理方法が生まれるなんてすごい。
アキラが興味を示したのは、予想していた通り寿司だった。
「これはにぎり寿司っていうの。私の国の伝統料理だよ。生の魚を骨や鱗を取って薄く切り身にして、甘酸っぱく味付けしたご飯と一緒に握るの。好みでワサビって言う刺激のある薬味を載せて、醤油を付けて食べるんだよ」
「へぇー! なんか綺麗だな! 俺の国では魚は、絶対生では食べないな。生臭くないのか?」
「そうなんだね。地球でも魚の生食はしないところも多いよ。むしろ生食文化の方が珍しいから、アキラの国とあまり変わらないかもね。気になるなら食べてみる?」
臭みが少なくて、人気の高いサーモンを取り皿にとって醤油の入った小皿とワサビともに渡す。
興味深そうに顔を近づけて、くんくん臭いを嗅いでいるのが面白い。
「すげ、魚の変な臭いは全然しないな! なんか酸っぱい匂いがする!」
「はははっ、アキラ可愛い。ちょっと犬っぽい……。酸っぱいのは酢飯の匂いだよ。その茶色い液体が醤油って言う調味料で、緑の山になってるのがワサビね。ワサビは辛いから注意してね」
アキラはワサビがどれほど辛いのか気になったみたいで、箸の先に少しだけ付けてそのまま舐めた。
「うわっ! あっ! なんだこれ!? は、鼻がいたっ」
「大丈夫? 辛いって言ったでしょ。ワサビは鼻がツーンとするよね」
「辛い……のか? とにかく鼻が痛かった……でも、寿司うまいっ!! 全然臭くねーな!」
ぱっとキラキラした笑顔を浮かべるアキラに胸の奥がキュンとした。
アキラ、可愛い!
にやける口元を抑えながら口を開く。
「口に合ってよかった。ワサビには臭み消しの効果もあるからね」
その後もうどんの打ち方や、アキラのサラダに入っている野菜が異世界から輸入した『亀の鱗』という苔だという話で、あっという間に時間は過ぎていった。
帰り道、話題はやっぱりアキラのことだ。
「アキラさんと実際に話してみて、どうでした?」
「裏表がない人だなと思ったかな。ホントに、メッセージで話してる中で、想像してた性格のそのままな人だったから、全然初めて会った気がしなかったです」
「そうなんですね! お互い好感触みたいで、私嬉しいです! 帰り際にアキラさん、次回の約束も話してましたよね! 楽しみですね!」
そうなのだ。アキラは帰り際、次の話をしていた。
『今度は俺が、ミワコの世界に行くな! 他にも美味いもの教えてくれ! ミワコの住んでる世界が見たい!』
今度は日本に来てくれるらしい。
いつか私がアキラの住んでいる世界に行きたい。
「そうですね。今から楽しみです」
「とりあえず、来週はケイさんと会う予定ですからね! そっちも楽しみですね」
自分の生まれ育った環境や料理、文化を気に入ってもらえるのはすごく嬉しい。
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