異世界対応型婚活システムーあえ~るー 川西美和子の場合

七戸 光

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川西美和子の場合

川西美和子、異世界旅行で初のお宅訪問します

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 アーチを潜ると、そこは、ケイの家の玄関だった。
 玄関と言うのか、エントランスと言うべきなのか……とにかく広い。
 この玄関だけで、我が家のいつもケイと勉強していたリビングぐらいの広さだ。
 円形の広場で、中央にはピンクのマリーゴールドみたいなデジフラフが飾られている。防犯用らしい。
 私たちの後ろは出入り口らしきアーチ型のドアがある。
 私達の正面は左右に分かれた廊下があり、右側からケイの付き人であるセントさんが現れる。

「お帰りなさいませ」

「うん。ただいま。ミワコの部屋は?」

「整っております」

「ありがと。ミワコ案内するね」

「ありがとう。お邪魔します」

 ケイは右側の廊下を突き当りまで進むと、階段を上がっていく。
 2階の廊下を何回か曲がって、また階段を上って、廊下をちょっと行ったところに、ドアが間隔を空けて2つ並んでいるのが見えた。

「ここが、ミワコの部屋だよ」

 ケイが向かって右側の部屋を開けた。
 中に入ると、めちゃくちゃシンプルな白一色の部屋だった。
 カーテンにもベッドにも、どこにも柄は一切ない。

「ミワコこれ見て」

 ケイが示したのは、入り口の横の壁。日本なら電気のスイッチがありそうなところに、六角形のはめ込み口がある。もしかして……

「これって、もしかして端末を差し込むの?」

「そうだよ。エレクタラは、建物の内装も外装もシンプルに作って、端末の持ち主の好みを後で入力して、模様替えするんだ」

「そうなんだ! すっごいね、これ!!」

 端末を差し込んで、早速設定を弄り始める。
 アバター選びと同様にすごくたくさんの種類がある。
 洞窟柄湿気多めとか、藁の家匂い付きとか、崖の中腹鳥の巣あり、風強めとか、一体誰が選ぶのか。
 そういうところに住んでる種族がこの国にいるってことなんだろう。
 私は普通に自宅と似たような落ち着く空間にしたかったので、緑と茶色と白を基調としたナチュラルな趣の部屋にしてみた。
 ベッドだけは憧れの天蓋付きにしてみたが、天蓋もレースで、まるで南国リゾートのコテージみたいな内装だ。
 すっごく可愛い! めちゃくちゃ気に入った。
 部屋を選んで荷物を片付け、例の国民食をお昼ご飯に頂いてから、私とケイは街の散策に出ることにした。
 ちなみに例の国民食で今回食べたのは、多分フリーズドライの魚の蒸し焼きと何かの野菜の和え物みたいな固形のやつ、マンゴーみたいな味のフルーツのゼリーだった。
 全部味は美味しかった。

***************************************

 エレクタラは島国で、所謂豆電球のような形をしている。
 円形の中心が首都であるE地区。
 E地区は3地区に分かれていて、ケイの家は住居の集まる1地区と2地区が居住エリア、3地区が商業エリアだ。
 E地区の外はL地区と言って、農業エリア、工場エリアとなっているらしい。
 電球のソケット部分に当たるのが貿易の要となる、C地区。
 ここで輸出入が行われ、私が初回入国時に転移してきたのもここからだったらしい。
 移動は基本的に転移ゲートを通して行われるみたいだ。ケイの家に行くのにも使ったやつだ。
 公共の地域には誰でも行けるが、自宅や機密性の高い場所に行くにはパスワードが必要になるらしい。
 だからさっき、ケイも何か入力してたんだね。



 私たちがやってきたのはエレクタラE-3地区にある商店街。
 ショーウインドウには、数分ごとに体形の変化する不思議なマネキンが服を着ている。
 マネキンは大きくなったり縮んだりして、身長や体形に合わせた服を買うときの目安になりそうだ。
 横には今のマネキンの身長等サイズが表示されている。これ、すごく便利だ!

「わ、何処も看板が映像として映し出されてて面白い! あのマネキンすごいね!」

「今はいろんなサイズになっているけど、店内では鏡にサイズや好きな色とかの情報を入力できて、取り扱っている服から自分に似合う服や好みの服を探してくれるんだよ」

「へぇー!」

「でもまあこの国の国民は買い物であまり出歩かないし、通信販売で済ますことも多いよ。こういう商業地区は、ほとんど異世界人のためにあるんだ」

「そうなんだね」

 片っ端から、あれは何、これは何と、ケイに尋ねまくっていた私。
 ケイは嫌な顔一つせず、笑いながら説明してくれた。

「 ――なんだか、嬉しいな」

「ん? 何が?」

「ミワコが僕の生まれた国に興味を持ってくれることが、かな……」

 街を歩き回って疲れた私たちは、街中にいくつかある、テーブルと椅子の備え付けられた休憩スペースへとやってきていた。

「……ちょっと、休憩しようか。飲み物買ってくるね」

「あ! ケイ、あそこに屋台がある! ね! 私が買ってきてもいい? お金の払い方はさっき見て覚えたから!」

「……ふふ、じゃあお願いするね」

「任された! お使い行ってくる!」

 ケイにから離れ、広場の入り口の方にある屋台へと足を向けた。

 店員さんは人のよさそうな顔のふくよかなおばさん1人。
 端末で何か動画を見ていたようだ。
 おばさんに話しかけ、飲み物とクレープみたいに具が包まれたようなファストフードを2つ購入する。

「分かったよ。今から焼くから、ちょっと待ってな」

「ここでは、屋台は珍しいんですね」

「エレクタラじゃ珍しいね。大体この国じゃ固形食やらゼリーやらが一般的な食事だからね。お嬢さん異世界の人だろ?」

「そうなんです」

「旅行かい?」

「そうですね。そんな感じです」

 生地が焼けるのを待っている間、屋台の中を覗き込むと、ふと、おばさんが見ていた動画が目に入った。
 男性が大衆に向けて話しているような動画だ。演説だろうか?
 話している男性を見て、一瞬呼吸が止まった。
 明るい紫色の短髪にアメジスト色の綺麗な目、憂いのある美しい顔立ち。
 高貴で圧倒的な存在感。
 大きな冠を被り、華やかなマントを身にまとって、こちらを見据える男性は年配の方だが、色彩、顔立ちが私の知っている人と良く似ていた。

「あっあの、聞いてもいいですか?」

「ん? どうしたんだい? 待たせたね! はいよ!」

「ありがとう。あの、この動画の男性は誰ですか?」

 おばさんは画面を一瞥すると、笑って答えた。

「ああ。その方はこの国の王、ハク・キュー国王様だよ!」

 その一言で今までの出来事が、走馬灯のように流れた。嫌な予感がした。
 思わず、震える声で聞いてみた。

「……あ、あの紫の髪の男性はこの国に多いんですか?」

 おばさんは、突然顔色の変わった私を不審に思ったのか、怪訝そうな顔をしていたが、答えてくれた。

「いんや。この国の男性で紫の髪は国王陛下と10番目の王子のケイ・ヨ・ルー殿下だけだよ25人の子どもの中で、王女様たちは紫の髪の方もいらっしゃるが、男の子はなんでかケイ様だけでねぇ。あたしらはケイ様がハク国王の後をお継ぎなさると思ってるんだ! ケイ様はとっても優秀なお人だから、いい王様になるに違いないからね!」

「……そうなんですね。ありがとう」

 頭を鈍器で殴られたような衝撃だ。
 いろんなことが頭の中を駆け巡る。
 そう言えば、最初のエレクタラの説明部分。国王について情報が書いてあった。
 メッセージの中でも、敬語でセントさんが送ってきた中に紫は高貴な色って書いてあった。
 ヒント、くれてたんだ。
 そんなの全然分かんないよ!!
 まさか、ケイの隠し事ってこれのこと?
 ケイが、エレクタラの王子様だってこと――!?

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