異世界対応型婚活システムーあえ~るー 川西美和子の場合

七戸 光

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川西美和子の場合

川西美和子、自覚します

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 昨日は素敵な部屋で過ごせたのに、あまり眠れなかった。
 ケイもジンさんもセントさんも、よく分からない。
 ケイには、まだまだ知らない秘密がある。
 何故か、ちくり、と胸が痛んだ。
 今日はどんな所に行くのか、昨日のケイとのやり取りで、私は朝から随分身構えていたと思う。
 何とも言えない緊張感が漂う朝食になってしまった。



 気まずい朝食の時間を終えた私たちが、最初にやって来たのは、L地区、農場地帯だった。
 しかし、私の想像していた農場地帯と随分違う。草木は一切なく、同じ形の綺麗な建物が並んでいた。
 今日はたくさんある建物のうちの1つへ入らせてもらったのだが、中も同様に想像していたものとは大分違っていた。
 明るい大きな照明。白で統一された室内に、水槽の様なものが並んでおり、そこから沢山の植物が伸びている。
 日本で言うところの水耕栽培というものだろうか、土のない大型農場は、初めて見たので驚いた。
 収穫時期や個数管理もしやすく、一定の品質を維持できるシステムなんだとか。
 ここで出来た果実は加工され、例の宇宙食みたいな国民食になるらしい。
 次にやって来たのは、最初の入国ゲートのある建物、転移事務局だった。
 受付のロボットにケイが自分の端末を見せると、数分してから奥からお偉いさんらしき年配の方が出てきた。生真面目そうな紳士に端末を見せて、何か会話している。
 しばらくすると、受付の横にある扉から中に入らせてもらえた。
 受付の中からスタッフルームを通り、廊下をしばらく歩いていると、とてつもなく頑丈そうな扉の前に出る。日本で言う防火扉のような感じだ。
 扉には特大の南京錠が2つも付いていて、横には何かを入力する、パネルの様なものも付いている。厳重な管理だな。
 お偉いさんが鍵開けに取り掛かり、私は何となく隣にいるケイに目をやると、顔が強ばっているような気がした。
 開けるのが嫌なの? 私に見られるのが本当は嫌? それとも、受け入れられるか、緊張してる?
 何となくそう思ったら、手が勝手に動いた。私はケイの手に自分の手を重ねていた。
 ケイは驚き私を見てから、柔らかく笑って手を握り返してくれた。
 心なしか力が抜けたんじゃないかと思う。そう思うと、嬉しくなった。
 大丈夫だよ、そんな気持ちが、この手から貴方に伝わればいいと思う。


 最後の鍵が外され、お偉いさんが開けてくれて、ケイと一緒に入る。
 そこは、とても大きな窓のある部屋だった。
 窓の向こうは一面の海と空。
 見たことのないような緑色の海と紫色の空だ。
 地球でいう綺麗な海とは違う、何か気味悪さを感じる程の緑色だった。
 藻が生えているのかと思ったけれど違うようだ。
 そして、紫の霧状の何かが隙間なく空を覆っている。
 今まで見ていたエレクタラの空とは違う。エレクタラの空は日本のように青かったはず。

「ありがとう。少し二人にしてもらえる?」

 ケイがそう声をかけると、偉いさんは一礼して退出していった。
 ほんの数秒の沈黙。ケイは窓際に立ち遥かな果てのない海と空を眺めていた。
 そしてこちらを向いたケイは、今まで外に出るときは必ずしていた変装を解いて話し始めた。

「前にこの国は、島国だって言ったよね。――ここは、唯一、本当の地平線を見ることが出来る場所」

「……本当の地平線?」

「この国で領土の端まで行くと、そこには見えない壁があって、島国なのに海は見えない。この国で見えている空はドーム型の屋根に映った映像なんだ。この海と空が本当の外。この国の外は猛毒の濃霧と汚染された海で、人の住める環境じゃない。土壌も毒を含んでる」

「え?」

「この国は一種のテントの中にあるんだよ。島と同じ大きさのテント。海と空だけじゃなくて、土も触れない物なんだ。さっきの農場地帯、土はなかったでしょう?」

「――確かに、なかった。この国に来てから、花壇や植木はデジフラフで機械ばかりだった」

「そう。生きているのは、人間と国が保護した動物や植物だけ」

「国が保護した動物……あの動物園の子たちってこと?」

「うん。……この閉鎖的な国が生き残るために、考えられたのが他国の情報を集め、情報の要になる事だった。大昔にそれをやって、この国を治めたのが僕の一族。僕はこの国の国王の息子なんだ」

「――っ」

 覚悟していた。だけど、息が止まった。
 それでも、ケイの話は続いていく。

「この国は常に外界の危険と戦ってきた。……沢山の人が毒の犠牲になって、その結果、合理的に人口を減らさないための政策として一夫多妻制が導入された」

「……一夫多妻制」

「うん。長い時が経って、情報を司るようになっても、合理的に考える国民性は残った。人口管理が必要になったから、一般人は違うけど、王族は今も一夫多妻制のまま」

「……それは、ケイも沢山の奥さんを娶るってこと?」

 もし私がケイを選んだら、この人の沢山の奥さんのうちの1人になる?
 そう考えたら何だか悲しくて、胸が詰まる。
 やだ、何でかな……泣きそう。

「……本来なら、そう。だから、昔から沢山の婚約者がいた。女性の扱いも学んできた。だけどね、僕は物心ついたときから、この国の普通とは違っていた。便利な機械よりも温かい動物や生きてる植物が好きで。母たちは全員この国の出身で、王族の一夫多妻以外を知らないから、現状を当然に思っているし、仲もいいのに、僕は父のようになりたくなかった。僕には、1人だけでよかった。誰か1人を、僕の生涯かけて愛したかったんだ」

「……」

 この人の目はいつも正直で、とても暖かい。
 目が合うとなぜか胸がいっぱいになって泣きたくなる。
 ケイが蓮の花が綻ぶ様に笑うのが綺麗だと思っていたけれど、彼のここまでの覚悟を思うと、悲しくて、思わず、涙がこぼれた。

「……ミワコ、どうして泣いてるの?」

「……分からない」

 ぎゅっと手を引かれて引き寄せられる。
 ケイの胸に、惹かれるように収まった。
 きっと、一杯苦労したはずだ。一杯悲しかったはずだ。
 自分の生まれた世界が、自分の価値観とずれてることは、とても苦痛だったと思う。
 その上、ケイは王子で、国民からの信頼もあって。
 『あえ~る』にあった【婿入り希望】の言葉をケイが書くことが、どんなに重いことなのか私は全然分かってなかった。
 そんな中で私達が出会ったんだと思ったら、とてつもなく胸が苦しくなった。
 セントさんやジンさんの言葉の重みがこのケイの覚悟から来ているのなら、あれだけ深刻な声だったのも頷ける。
 ケイやアキラに申請を送った時の私は、ケイとアキラを天秤にかけたかったわけではない。
 ただ、あの時は自分の幸せを掴みたくて、必死だった。
 2人と連絡が取れるようになるとも限らなかったし、本当に深く考えることなく2人と連絡を取っていたと思う。
 ケイにはアキラの事も話していたし、セントさんが真剣じゃないと思ってもしょうがない状況だったと思う。
 今までの自分の考えなしな所に情けなくなって腹立たしくなって、涙は溢れて止まらない。
 


 泣き顔を隠すように、ぎゅっとケイに抱き付いた。
 ケイの腕の中は、華奢に見えるが、温かくて、優しくて、安心できる。
 あぁ私、この人が好きなんだ。
 ずっと心の中にあった想いは、理解と同時に胸の中に溶けて、私の心を満たしていった。
 あの時の不快感の理由が分かった。
 私、嫉妬してたんだ。話してくれなくて、悲しかったんだ。
 普通に幸せになることが私の目標だったけれど、王子様なケイを好きになれば、これから待ち受けているのは、大なり小なり困難もあるはずだ。
 だけどケイの傍に居られるなら、どんな困難だって受け入れられると思える。
 私の涙が止まるまで、私達は抱き合ったままでいた。
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