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川西美和子の場合
川西美和子、異世界婚活終わります
しおりを挟むどことなく香ばしく感じるような、甘い香りが鼻孔をくすぐる。
1mほどの背丈の棘のない茶色い薔薇が、艶やかに咲き誇った箱庭だった。
花壇の脇にはそれぞれ小さな川が流れており、中央で2m幅程の川に繋がっている。
入り口からは白い石が敷き詰められた通路が続き、箱庭を横断する川には白い橋が架かっている。
橋の向こう側に白い石の東屋が見えた。
ケイの姿は見えない。
私は通路を歩いて、橋を渡り、東屋の方へ向かう。
東屋の中には石造りのベンチがあって、柱と一体になっていた。
ケイは東屋の裏手にある日陰で茶色い薔薇を愛でていた。
今まで心配してきたことやご両親の前で啖呵を切ってきたことが馬鹿馬鹿しく思えて、ちょっと腹が立ってきた。
「ケイ」
ケイの体がビクッと震え、驚いた様子で振り向いた。
感情のままに、驚いた顔で固まっているケイに飛びついた。
座っていたケイは突然の衝撃を受け止めきれなかったようで、2人でそのまま倒れこむ。
「うわっ! ミワコ!? どうしてここに!?」
そんなことを言い出すものだから、もう頭に血が上ってしまって、そのままケイの頭の両側の地面に手を突き、所謂床ドンの姿勢のまま、目をそらさずに問い詰める。
「どうしてここに、じゃないよ!! 連絡とれないから、心配して探しに来たんでしょ! ケイの馬鹿! ハッキングって何! 追放って何! 何勝手に『あえ~る』辞めてるのよ!」
「ご、ごめ、実は」
「もう、全部、陛下やジンさん、仲人さんたちから聞いたよ!!」
「え、父さんに会ったの!?」
ケイはかなり焦っているようだ。
上から見ていると頬は赤いし、ワタワタしているのが良く分かる。
ちょっと可愛く思わないでもないが、今は許せないのでこのままだ。
「そうだよ! ご家族に会ってきた! 全然お話出来てないけど、認めてもらった」
「え? 何を?」
ケイはポカンとしてる。
何を? って……。
イラッとしたが、当初の目的を思い出すと、そんなことを言っている場合ではない。
ケイの長い前髪は私が押し倒したせいで、乱れて、いつもは隠れた紫の瞳が見えている。
ずっと見たかった紫の目を見て、私は話を続けた。
「――私、アキラに会ってきたよ」
ケイの顔が驚愕の色に染まった。
「そっか……おめでとう」
「は? おめでとう?」
私の顔にはきっと青筋が浮かんでいることだろう。
ケイが顔を真っ青にして口をパクパクさせて、「あ、えと、」とか「その、」とか言ってる。
「何がおめでとうなの? 私の気持ちも聞かずに逃げておめでとうですって? いい? 私はケイが好き!! 私があなたを幸せにしたいの! 一緒にケイの夢を叶えたいの!!!」
ケイの顔が真っ赤に染まる。
恥ずかしそうに私から視線を逸らすので、仕方なくケイの顎を固定する。
顔を近づけて、強制的に視線を合わせた。
「なっ! 僕の気持ちに答えてくれるの!? でも、ミワコ……僕何も持ってないよ? 王子の地位もないし、何もしてあげられない」
「はぁ……私が欲しいのはケイだよ!」
怒りの衝動で勝手に体が動く。
ケイの口を自分の口で強制的に塞いだ。
今までで一番間近で見るケイの綺麗な紫の目が大きく見開かれている。
ゆっくりと唇を離して、また視線を合わせた。
「ん……」
恥ずかし気に頬を染めたケイが吐息を漏らす。
「ケイ」
「ミワコ……」
「私のお婿さんになって?」
これ以上ない程、頬を染めたケイは、私の下で恥ずかしそうに視線をさまよわせた後、真っすぐ私を見て蚊の鳴くような声で言った。
「はい。ミワコのお婿さんになりたいです……」
私はケイと自分のアバターを脇へ置いて、女神モチーフのネックレスも手放した。
これで私が話せば、ケイには日本語で聞こえているはず。
『ケイ』
私はケイの目を見て、今心の中にある気持ちを全部伝えるつもりで精一杯笑う。
目や表情から言葉の意味が伝わればいい、そう思った。
『大好き』
私がそう言うとケイがぐっと体に力を込めたのが分かった。
ケイの上半身が起き上がって、私をギュッと抱きしめた。
『ありがとうミワコ。僕も愛してる』
ケイが私を見ている。
愛してるって言った? 私教えてないよ? まぁいいか。
近付くアメジスト色の中に、今のケイと同じような表情をした自分が見えた。
私達、同じ気持ちなんだね。
ケイの顔が近付く気配がして、私は目を閉じる。
ケイの吐息が唇に当たる。二度目の唇が触れ――
「はい、カァーット!!!!!」
***************************************
「お姉さま、かっこいい!!!!!」
「王子様みたい! すてきー!!!!」
「きゃー! 今のおねぇ様のお顔!! きゅんきゅんするわ!!!!!!」
「私もー!!!」
がやがやと賑わう王宮の大広間。
50mぐらいありそうな長いテーブルには、上座にハク陛下とテル様、ケイと私が座っていて、続いて、お妃さま方が座り、ケイの兄弟たちが座っている。
上座の対角には巨大スクリーンが掛けられており、先ほどの箱庭での一件が大画面でエンドレス投影されていた。
ご家族の皆さんは大歓声を上げながら、宴会を楽しんでいた。恥ずかしい……。
隣にいるケイも頬は染めているものの、ニコニコ嬉しそうだ。
結局あの後、時間を気にしたジンさんが割り込んできて、王宮へ戻ると、陛下やご家族が皆で事の一部始終を監視カメラで見ていたようだ。
あの時の私はなんてことをしてしまったのか……胃が痛い。
ケイは王族としての権利を失ったものの、エレクタラの一般人籍を残してもらうことになり流浪の民になることは免れた。
まだまだ問題は山積みだが、ケイと一緒なら乗り越えていけると思う。
ちらりとケイを見ると、目が合って甘やかに微笑まれる。
皆さんの目を盗みケイの耳元に顔を近付けてみた。
「ね……ケイ」
「どうしたの、ミワコ」
ケイの声から伝わる気持ちに胸の奥がじんわりと温まり、思わず笑みが零れる。慌てて隠すようにケイの肩口に顔を寄せ、照れをやり過ごすと、もう一度ケイの耳元に顔を近付けた。
「あのね……大好き!」
いたずらっぽくそう言ってすぐさま離れようとすると、ケイに肩を抱かれ引き寄せられる。
「僕も愛してる。……選んでくれてありがとう」
頬の赤らんだケイの顔が近づき、そのまま唇が重なった。
伝わる彼の体温に幸せを噛みしめる。そして、
「あー!!! ちゅうしてる!!!」
「カメラ班急ぎなさい!!」
周囲の喧騒に、どこか遠くで福音が聞こえたような気がした。
異世界対応型婚活システム―A YELL(あえ~る)―を使ってみたら
テストケース編 No.1 川西美和子の場合
― Fin ―
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