Grey Area3.(−)死の翼

夜束牡牛

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ムースーとジゼル 【赤毛の一房から】5

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 ムースーはそのまま倒れた。
 自身の生真面目な魔力たちが自己回復の為、少しでも器の小さい人型で行おうと判断し、大カンガルーの体が溶けるように人型へと転化するのを感じる。

 空が青い。一時影っていた雲が逃げるように流れていく。

 ムースーは空を眺めたままぼんやりと呟いた。

「は? ジゼルに勝った。……なんでだ?」

 どこかで「んなわけねぇだろクソボケ跳び蹴りウサギが」と、ジゼルが悪態を吐く事をなんとなく期待したが、何も聞えなかった。
 ただ、ジゼルの血の匂いと、防護魔法ごと崩された魔力の放出が、ぴりぴりと空気中に満ちていた。
 


 つい先ほどまで、正直なんで勝てたのかわかっていなかったが、思い出し紐解くうちに理解した。

『妹さんが悲しむ』の後に出来た隙と、その直後のジゼルのが原因だ。
 しかし勝敗理由がわかると、その勝負そのものがあやしくなってきた。

 G・Aのマウンティング優位性の争奪の大前提に、『戦意が無い者とはマウンティングが成り立たない』がある。
 これは至極真っ当な事だ。戦う気が無い者に戦いを仕掛けても意味がない。ただの迷惑行為だ。G・Aの世界では多くの非難と反感の的になる。

 弱者でも強者に正式に戦いを挑める。
 強者は弱者が戦う意思を持つことを否定できない。
 だが、強者がマウンティングという特殊な方法で一方的に弱者を制圧し、力でねじ伏せる事を防ぐために「戦う意思が無い者に対してマウンティングは成り立たない」が存在する。

 力が全てのG・Aだからこそ、コミュニティーマジックが支配するマウンティングは絶対なのだ。そして絶対的すぎるこれに習い、勝負事も同様に扱われる慣習かんしゅうがあり、みなそれを重視していた。

「まいったな、あれは『隙』だったのか? 戦意が無くなったのか? いやでもあいつトラだから俺より強者なわけだし、うーん……誰かオーディエンス連れて行けばよかったな」

 ムースーは悩みながらも、となった言葉に目を閉じた。

(せっかくアーモを助けられる道が出来たと思ったのにな)

 ムースーには、アーモと言う名の幼い妹がいる。

 G・Aとしては魔獣の血が薄い彼女は、推定年齢十二歳に到達しても魔獣体に転化することができなかった。ただし、血液検査の結果も、第三者認定の結果も、魔獣であることが確認されている。
 そのうち魔獣体に転化するかもしれない、もし転化しなくてもそれはそれで、アーモの人生をおとしめる材料にはならない。
 親族そして同じ始祖モデルを持つ同種も、そう理解していた。そして分け隔てなく、アーモを同種の加護に置き、愛をもって接し見守っていた。
 
 だが、中央座のトラ達が基準を作った。

 G・A自治区及び各分布・生息地のG・Aは、推定年齢最若満十五歳になっても魔獣(体)に転化しない者を『人間』として扱うものとする。なお、その後転化したとしても、それは魔獣の血ではなく魔法の力による『変身』とみなす。

 端的に、転化しない者をG・Aと認めない。そのうえ他種族として扱う。と、G・Aの最高権力種が独断で決めたのだ。
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