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楽屋 【ミルクティー色の毛先】2
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コッペリアは寝返りを打ち仰向けになると、ジゼルの首へと手を伸ばし、撫でつつ言った。
「夜公演には二人とも来てよ。それでみんなで夜ご飯食べよ。ここじゃなくて、バシリオとジゼルの下宿先に行きたい。明日の朝は焼き立てのパリジャン買って、みんなで千切りながらコーヒー飲もう。ジゼルはココアでいいから」
「……」
バシリオが手にしていたペンチを置き、コッペリアを振り返った。
トラの毛に埋もれている少女の顔。その目には非難と寂しさの色がありありと浮かんでいた。
「みんなで、だよ。バズ。『みんなで』が約束なんだから」
「……」
コッペリアの唇には、春先に見つけた淡い色合いのリップが塗られている。なのにアイメイクは施されず、おそらく滑らかな肌も日焼け止め程度だろう。おなじ畑の出身だからこそわかる。昼公演終りに駆け付け、誰かに会った時の為にとりあえず施したメイク。
バシリオは優しく笑って言った。
「ごめんなペコ。俺らこれから、ちょっとトラ達を揶揄う予定だ。上手く騙せたらちゃんと話すから、いまは安全な客席でちょっと待っててくれ」
「……出遅れたら仲間外れですか、そうですか」
バシリオは立ち上がると、寝そべるトラの脇、コッペリアの側へと膝をついた。彼の掘り深い造形の中で、澄んだ茶色の目がただひたすらに優しさを見せてくる。その目を見つめるコッペリアは、彼の持つ色をいつも何か素敵なものに例えたいと思ってた。
バシリオが口を開いた。
「ソロルは最近、小麦に飽きたって言ってたぜ。夕飯は魚か塩漬け肉、夜は寒ぃからみんな魔獣の姿で、昔みたいに暖を取ろう。明日の朝は朝市の果物とコーヒー、ペコとジゼルはココアだな」
「……まぁ、いいんじゃない」
コッペリアは生意気な具合に鼻を鳴らして見せた。そしてそのまま山ヤギに転化し、トラの前足へと無理矢理に頭を潜らせ、胴まで滑り込んで見せた。
トラが億劫そうに片目を薄く開け、薄ピンク色の大きな舌で、山ヤギの顔と首元を丁寧になめあげると、舌を出したまま再び眠りについた。
山ヤギが一度人の形に戻った。
トラの前足と言う、世界一安全な場所で、少女が欠伸をする。
「バズ、十五分したら起こして。寝たら戻るよ」
「あいよ、おつかれ」
コッペリアはすぐに山ヤギに戻ると、寝る態勢に入った。
バシリオは、眠るトラと山ヤギを少し眺めたあと、ぐっと体を伸ばした。そして、出しっぱなしのトラの舌を二、三回軽く引っ張ってやる、すると、トラの口がモゴモゴと動き、舌が口の中へと納まった。
「夜公演には二人とも来てよ。それでみんなで夜ご飯食べよ。ここじゃなくて、バシリオとジゼルの下宿先に行きたい。明日の朝は焼き立てのパリジャン買って、みんなで千切りながらコーヒー飲もう。ジゼルはココアでいいから」
「……」
バシリオが手にしていたペンチを置き、コッペリアを振り返った。
トラの毛に埋もれている少女の顔。その目には非難と寂しさの色がありありと浮かんでいた。
「みんなで、だよ。バズ。『みんなで』が約束なんだから」
「……」
コッペリアの唇には、春先に見つけた淡い色合いのリップが塗られている。なのにアイメイクは施されず、おそらく滑らかな肌も日焼け止め程度だろう。おなじ畑の出身だからこそわかる。昼公演終りに駆け付け、誰かに会った時の為にとりあえず施したメイク。
バシリオは優しく笑って言った。
「ごめんなペコ。俺らこれから、ちょっとトラ達を揶揄う予定だ。上手く騙せたらちゃんと話すから、いまは安全な客席でちょっと待っててくれ」
「……出遅れたら仲間外れですか、そうですか」
バシリオは立ち上がると、寝そべるトラの脇、コッペリアの側へと膝をついた。彼の掘り深い造形の中で、澄んだ茶色の目がただひたすらに優しさを見せてくる。その目を見つめるコッペリアは、彼の持つ色をいつも何か素敵なものに例えたいと思ってた。
バシリオが口を開いた。
「ソロルは最近、小麦に飽きたって言ってたぜ。夕飯は魚か塩漬け肉、夜は寒ぃからみんな魔獣の姿で、昔みたいに暖を取ろう。明日の朝は朝市の果物とコーヒー、ペコとジゼルはココアだな」
「……まぁ、いいんじゃない」
コッペリアは生意気な具合に鼻を鳴らして見せた。そしてそのまま山ヤギに転化し、トラの前足へと無理矢理に頭を潜らせ、胴まで滑り込んで見せた。
トラが億劫そうに片目を薄く開け、薄ピンク色の大きな舌で、山ヤギの顔と首元を丁寧になめあげると、舌を出したまま再び眠りについた。
山ヤギが一度人の形に戻った。
トラの前足と言う、世界一安全な場所で、少女が欠伸をする。
「バズ、十五分したら起こして。寝たら戻るよ」
「あいよ、おつかれ」
コッペリアはすぐに山ヤギに戻ると、寝る態勢に入った。
バシリオは、眠るトラと山ヤギを少し眺めたあと、ぐっと体を伸ばした。そして、出しっぱなしのトラの舌を二、三回軽く引っ張ってやる、すると、トラの口がモゴモゴと動き、舌が口の中へと納まった。
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