お命ちょうだいいたします

夜束牡牛

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手負い、のけもの4

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 まなじりを跳ねたはずのカワセミが、すぐに心配そうに眉を寄せると、獅子の体に手を置いた。柔らかな巻き毛の先、先程よりも、一回り小さくなっている獅子の体。

(また小さくなっている。このまま小さくなり続けると、阿形が消えてしまう……)

 這わせた指先が触れた、頼りない体にさっと血の気が引き、慌てて吽形へと叫んだ。

「吽形っ」
「わかった。男として責任を取らせてもらう」
「この阿呆! 後にしろっ、阿形がまた小さくなった……どうしたらいいんだ」

 その言葉に吽形はぱっと跳ね起き、阿形あぎょうへと駆けよると、その体に両の手をあてた。

「おかしい、なぜだ。穢れは祓った、身に残るのも多少、気を荒くさせる程度。阿形、どこかおかしくないか?」

 阿形は笑いを収めると、伏せたままの前足にあごを置き、二人を上目遣いに見た。

「どこもおかしくない。この胸の内も晴れている。しいていえば……神罰とは、こう言うものかと。ちと、拍子抜け」

 吽形とカワセミは互いに顔を見た。その下で阿形が、くわっと欠伸をして続ける。

「体が動かないんだ。石像に戻りたいのに、戻れない。この場に縫い付けられてしまった」
 
 痩せた尾がぱさりと振られ、カワセミの膝へと乗る。カワセミはその尾を優しく握ると、吽形を見上げた。眼差しが揺らいでいる。

「なぁ、このまま縮んで……消えてしまったり、しないよな?」

「わからない」

「考えろよ! 吽形。神罰って事は、ここの神さんに許して貰えれば何とかなるんじゃないか? なぁ」

 すがるカワセミの目を、吽形が辛そうに逸らす。

「わしらのあるじの神罰ではない。主はきっとそれをしない。もっと違う、上の方々の取決とりきめが働いたんだ……どうしたものか」

 仕える神へと爪を払い、穢れを負わせた神獣。どんなに心根が良かろうと、どんな事情を背負おうと、その一つ一つを救ってくれるほど、上の方々は目を凝らして見てはいない。全てを救ってくれることがないのは、人の世も神の世も同じこと。

 カワセミは、込み上げてくるもので揺らいでしまいそうになる目を瞬かせ、強気な眼差しで阿形を覗いた。

「ねこ。何か欲しいものはあるか? 何かして欲しい事はあるか?」

「ないよ、カワセミ。何もない。わし、二人がいれば満たされる」

「嬉しい事を言ってくれる。食べたいものは? 好きなものを言え、なんでも我が儘を言え、うんと可愛がってやる、ねこ」

 カワセミがへたれそうな目線をきりりと上げ、努めて明るく言った。
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