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幼い祟り神2
しおりを挟む少年の両足が白い大蛇の腹へと伸び変わり、大人の腕でも届かない丸太の胴に膨れる。
神獣を四頭ほど伸ばした尺に、隙間ない白い鱗が夜に光る。
瞬きの内に、白い少年の姿は、白い大蛇へと取って代わった。
外れるほどに開いた顎から、酒に沈み殺され時の、溶け消された怨みの息が、今こそはと、鳴り響くほどに吐き出された。
熱い空気がぎりぎりと擦れ、響くような音。
白い大蛇が咆える。喉を反らし、天へと轟かせる祟り神の声。
「奪われるくらいなら奪ってやる、命を喰われるぐらいなら命を喰らってやる。憎い、憎い、皆憎い。この地に縛ってくれるな、醜い器に落し込めてくれるな! わたしを返せ、あの姿もこの魂も、全て返せ! 疎ましい、忌まわしい、すべてが怨めしい。人が嫌いだ、人が憎い、人の為なんぞには、この身が滅んでもなってやらん」
ぶんっと重い空気音をさせ、大蛇の鎌首が白うさぎへと振られる。暗い神社に紅い目が燈る。
「白い子供、お前を殺す」
白うさぎがひび割れた鏡を掲げ返す。
「穢れ落ちろ。偽の祟り神」
睨み合う両者に、その言葉が合図となった。
大蛇が身を弓に引き、素早く白うさぎへと飛び掛かる。それと同時にカワセミが地を蹴り飛び込んだ。
「やめろ! ヘビっ」
カワセミは重い鎌首より先に、白うさぎを抱えさらうとそのまま横へと飛んだ。
歪な双子が睨み合う中で、守り符を頼りに、じりじりと白うさぎへと間を詰めていたのだ。
(人に殺された蛇、祟り神につくか。祟り神に殺されそうになっている、人につくか……わかっているよ、みつ。ちゃんと考える)
カワセミは、白うさぎを腕へと抱いたまま、翡翠の目で大蛇を牽制し叫んだ。
「両者の言い分、よく分かった!」
大蛇がちらちらと先割れの舌を出す。
「ならば渡せ、その白い子供」
白うさぎがカワセミの手首に噛みつく。
「それなら離してっ、その祟り神を美味しく食べなきゃっ」
「……っち」
カワセミは噛みつく白うさぎの首根っこを掴み、手首から引きはがすと、乱暴に肩へと担いで立ち上がった。
「渡さない、離さない。私はどちらにも付かない。ヘビに人殺しも、子供に神殺しもさせない」
そう言うが早いか、白うさぎを担いだまま百石階段に背を向け、小山を下る斜面へと走った。
馴染みない境内を逃げ回るには無理があり、暴れる少女を担いだまま石階段を駆け下りる自信もない。しかし、小山を形成する柔らかな土の坂ならば、駆け下り損ねた所でたかが知れているだろうと、見切りをつけていた。
何より、祟り神は神域の外まで追って来ない、かもしれない……。『この地に縛るな』と咆えた白い大蛇、それに一つ望みを賭けてみる。
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