119 / 147
荒れる境内1
しおりを挟む◇◇◇◇
「っだぁ、もうっ……疲れた! 主、叶結びにして差し上げるぞ!」
何度目かの大蛇の尾を避けくぐり、阿形が叫んだ。
いまだ阿形は人姿のままで、たなびく赤髪を引き、大きく振るわれる尾から逃げ回っている。
そこへと、四つ足を地に踏み締めた狛犬が叫び返した。
「叶結びか、縁起が良いな。わし好きだぞっ……阿形、もう少しの辛抱だ。主の手当てをする為に、荒れる気を削ぎ、できるだけ邪気を吐き出させたい、まだ主のお相手をされてくれ」
吽形はそう叫びながら、大蛇が境内へと撒き散らす邪気を祓っていく。
青海波のたてがみをなびかせ、四肢を機敏に切り返し、邪気に穢れた地と空気を、狛犬の体と角で祓い清めていく。
力強い舞を魅せる狛犬の祓い。
阿形がそれを見てまたも吠えた。
「いいなぁそれ! 何故もこう、担うものと気質が逆なんじゃ。わしが邪気祓いをして、これ以上、社が沈むのを防ぐ。吽形が気の荒い主のお相手をしろっ、わしと代われ!」
穢れを吸ったのか、阿形が我が儘を言う。
吽形はすまなそうにたてがみを振った。
「すまない阿形。何故か主は、あーさんばかり狙い定めるのでな……わしには目しかくれん。暴れて頂き、荒れる気を削ぐのは、狙われているあーさんが適任だと思う」
「傷付くっ」
顎を振るう鎌首をひらりとやり過ごし、逃げる場もなく、跳ねまわる阿形が嘆く。
そこへと吽形が、気が付いたように助言を告げた。
「あーさん、人姿だからじゃないのか。主は人を嫌っている。その姿だから、余計に気を苛立たせているのだろう、獅子姿にかえてはどうか」
その助言を、大蛇から逃げ回る赤髪の若者が、甘い声ではあるがきっぱりと断った。
「否、これでいい。獅子肉を全力で回避中なんだ」
狛犬は一寸考えを巡らしたが、すぐに深く頷いた。
「そうか、大変だな。互いに頑張ろう」
◇◇◇◇
カワセミは、腕中の白うさぎの涙を拭いながら、阿吽と、大蛇の様子をちらりと伺った。
赤髪の若者が、白い大蛇をその場に留めるように、ひらひらと赤い蝶のように舞っている。
そしてその周りを、青い波が絶え間なく寄せるように、狛犬が地を駆け、力で舞っている。
大蛇が尾で身を立たせ、白い鱗を白銀のように煌めかせ、力の限り暴れるさまも相まって、一つの錦絵が見えるようだった。
(きれいだな)
思わず、胸の内で感嘆を呟いてしまう。
だがそれは錦絵ではない現実、眺めていれば、いずれこちらにやって来る。
カワセミは白うさぎへと目を戻した。
「白うさぎ、今のうちにお前を旦那様の元へと届ける。私の首に腕をまわせ、落ちるなよ」
泣きはらし、さらに紅くなった目が、素直に瞬きをした。
細い両腕が首元へと縋った所で、カワセミは、白うさぎを横抱きにしたまま立ち上がった。ふと足元を見れば、割れ欠けた丸鏡が転がっている。
「……」
「鏡はもう置いていけ、いいね」
白うさぎが無言で頷く。
カワセミは一度、ちゃっと、少女を抱き直すと、小山を下る法面へと向おうとした。
「……」
「ん、なんだ」
白うさぎがそっとカワセミの頬を触り、視線を捕えると、百石階段の方へと指をさす。
(あっちがいい。旦那様がいる)
「向こうか、旦那様があっちにいるのか」
白うさぎは答えず、カワセミの胸へと顔を寄せた。
「……かったるそうだな、やはり打たれた身が気になる。少し我慢しろ、揺れるぞ」
カワセミは白うさぎを抱いたまま駆けだした。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる