9 / 119
日常6
しおりを挟む
○○○○○
「母さん気づいているよ」
何回目かの糸紡ぎをした後、キイトは言った。
母に言われた通り、不採用となった糸は両手首に通された糸輪へと織り込だ。
糸輪とは、練習糸やあらかじめ紡いでおいた糸を携帯するために、集めた糸を腕輪状にしたものだ。キイトの糸輪はまだまだ細く、子猫の首を飾るリボン程度しかない。
糸輪とは別に、イトムシたちが紡いだ糸で織った生地を、『ラソワ』と言う。ラソワは、その独特な滑らかな手触りと、鈍く控え目な光沢、何より、イトムシが精製したものとして大変貴重とされていた。
糸輪はラソワとまではいかなくても、雪とも真珠とも言える不思議な白さを艶めかせ、所有するイトムシたちの手首を飾っていた。
キイトはリボンのような糸輪をいじりながら、黙ったままのナナフシを見た。
「母さん、気づいている。知っている目をしていた」
彼は、書き物の手を止めずに答えた。
「そりゃ、イトムシだもんな。あたりまえさ」
「僕たちがやったこと、ばれているのに平気なの?」
「別にかまわない」
「怒られるんだよ?」
「なぁに、いまじゃないさ」
「……」
ナナフシの余裕な態度とは反対に、キイトの心はざわついていた。
キイトは母親と目を見て話せなかった。悪戯がばれているとしたら……糸を使って悪い行いをしていると思われたら。ましてや、母が愛情深い眼差しで語る、『この国の人たち』に対し、糸を使ったとすでに知られていたら……。
そう考えると落ち着かなかった。
(遊んでいる時は、あんなに面白かったのに)
キイトは後悔で瞼を重くさせ、手を組み考えた。
母が言ったコウズミさん、ナナフシが言ったコウズミさん――。
(ってか、コウズミさんて誰?)
コウズミさんと認識せず、ただ悪戯の対象としてしか見ていなかった自分。今更ながらに、己の行動の軽薄さが身に染みる。
(ナナフシのように、懲らしめる目的もなく、母さんみたいに、そのあとを知って同情することも出来ない。あぁ、もう……。これじゃあいっそ、怒られたほうがマシだ)
そこまで考え、ふと思った。もしかしたら、母は後悔する時間、考える時間を自分に与えたのではないか。自分の謝罪を待っているのではないだろうか? だとしたら。
キイトはシャンと背筋を伸ばしナナフシを見た。
「ナナフシ。僕、コウズミさんに謝るよ!」
「ダメだ」
たどり着いた答えを、ナナフシは一言で止めた。
キイトはため息を吐き、椅子へと寄りかかる。ナナフシが「ダメ」だと言ったら、それはどうしようもなく絶対的に「ダメ」なのだ。子供の世界は厳しい。
「母さん気づいているよ」
何回目かの糸紡ぎをした後、キイトは言った。
母に言われた通り、不採用となった糸は両手首に通された糸輪へと織り込だ。
糸輪とは、練習糸やあらかじめ紡いでおいた糸を携帯するために、集めた糸を腕輪状にしたものだ。キイトの糸輪はまだまだ細く、子猫の首を飾るリボン程度しかない。
糸輪とは別に、イトムシたちが紡いだ糸で織った生地を、『ラソワ』と言う。ラソワは、その独特な滑らかな手触りと、鈍く控え目な光沢、何より、イトムシが精製したものとして大変貴重とされていた。
糸輪はラソワとまではいかなくても、雪とも真珠とも言える不思議な白さを艶めかせ、所有するイトムシたちの手首を飾っていた。
キイトはリボンのような糸輪をいじりながら、黙ったままのナナフシを見た。
「母さん、気づいている。知っている目をしていた」
彼は、書き物の手を止めずに答えた。
「そりゃ、イトムシだもんな。あたりまえさ」
「僕たちがやったこと、ばれているのに平気なの?」
「別にかまわない」
「怒られるんだよ?」
「なぁに、いまじゃないさ」
「……」
ナナフシの余裕な態度とは反対に、キイトの心はざわついていた。
キイトは母親と目を見て話せなかった。悪戯がばれているとしたら……糸を使って悪い行いをしていると思われたら。ましてや、母が愛情深い眼差しで語る、『この国の人たち』に対し、糸を使ったとすでに知られていたら……。
そう考えると落ち着かなかった。
(遊んでいる時は、あんなに面白かったのに)
キイトは後悔で瞼を重くさせ、手を組み考えた。
母が言ったコウズミさん、ナナフシが言ったコウズミさん――。
(ってか、コウズミさんて誰?)
コウズミさんと認識せず、ただ悪戯の対象としてしか見ていなかった自分。今更ながらに、己の行動の軽薄さが身に染みる。
(ナナフシのように、懲らしめる目的もなく、母さんみたいに、そのあとを知って同情することも出来ない。あぁ、もう……。これじゃあいっそ、怒られたほうがマシだ)
そこまで考え、ふと思った。もしかしたら、母は後悔する時間、考える時間を自分に与えたのではないか。自分の謝罪を待っているのではないだろうか? だとしたら。
キイトはシャンと背筋を伸ばしナナフシを見た。
「ナナフシ。僕、コウズミさんに謝るよ!」
「ダメだ」
たどり着いた答えを、ナナフシは一言で止めた。
キイトはため息を吐き、椅子へと寄りかかる。ナナフシが「ダメ」だと言ったら、それはどうしようもなく絶対的に「ダメ」なのだ。子供の世界は厳しい。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
金色(こんじき)の龍は、黄昏に鎮魂曲(レクイエム)をうたう
藤原 秋
ファンタジー
高校生活最後の夏休み、友人達と地元で有名な心霊スポットに出掛けた氷上彪(ひかみひょう)は、思いがけぬ事故に遭い山中に独り取り残されてしまう。
人生初の気絶から目覚めた彼を待ち受けていたのは、とても現実とは思えない、悪い夢のような出来事の連続で……!?
ほとほと運の悪い男子高校生と、ひょんなことから彼に固執する(見た目は可愛らしい)蒼い物の怪、謎の白装束姿の少女、古くから地域で語り継がれる伝承とが絡み合う、現代?和風ファンタジー。
※2018年1月9日にタイトルを「キモダメシに行って迷い人になったオレと、蒼き物の怪と、白装束の少女」から改題しました。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ化企画進行中「妹に全てを奪われた元最高聖女は隣国の皇太子に溺愛される」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
部屋にこもって絵ばかり描いていた私は、聖女の仕事を果たさない役立たずとして、王太子殿下に婚約破棄を言い渡されました。
絵を描くことは国王陛下の許可を得ていましたし、国中に結界を張る仕事はきちんとこなしていたのですが……。
王太子殿下は私の話に聞く耳を持たず、腹違い妹のミラに最高聖女の地位を与え、自身の婚約者になさいました。
最高聖女の地位を追われ無一文で追い出された私は、幼なじみを頼り海を越えて隣国へ。
私の描いた絵には神や精霊の加護が宿るようで、ハルシュタイン国は私の描いた絵の力で発展したようなのです。
えっ? 私がいなくなって精霊の加護がなくなった? 妹のミラでは魔力量が足りなくて国中に結界を張れない?
私は隣国の皇太子様に溺愛されているので今更そんなこと言われても困ります。
というより海が荒れて祖国との国交が途絶えたので、祖国が危機的状況にあることすら知りません。
小説家になろう、アルファポリス、pixivに投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
小説家になろうランキング、異世界恋愛/日間2位、日間総合2位。週間総合3位。
pixivオリジナル小説ウィークリーランキング5位に入った小説です。
【改稿版について】
コミカライズ化にあたり、作中の矛盾点などを修正しようと思い全文改稿しました。
ですが……改稿する必要はなかったようです。
おそらくコミカライズの「原作」は、改稿前のものになるんじゃないのかなぁ………多分。その辺良くわかりません。
なので、改稿版と差し替えではなく、改稿前のデータと、改稿後のデータを分けて投稿します。
小説家になろうさんに問い合わせたところ、改稿版をアップすることは問題ないようです。
よろしければこちらも読んでいただければ幸いです。
※改稿版は以下の3人の名前を変更しています。
・一人目(ヒロイン)
✕リーゼロッテ・ニクラス(変更前)
◯リアーナ・ニクラス(変更後)
・二人目(鍛冶屋)
✕デリー(変更前)
◯ドミニク(変更後)
・三人目(お針子)
✕ゲレ(変更前)
◯ゲルダ(変更後)
※下記二人の一人称を変更
へーウィットの一人称→✕僕◯俺
アルドリックの一人称→✕私◯僕
※コミカライズ化がスタートする前に規約に従いこちらの先品は削除します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる