イトムシ    〜 幼少期〜

夜束牡牛

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水館3

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 頬に寄せた目が瞬きをしている、長いまつげがくすぐったい。

(だけど……あの糸、キイトの糸でも私の糸でもない、あの糸。なぜ、どうして?)

 ヒノデの頭の中で、先の見えない糸が絡まっていく。
 何かの気配を感じたのか、キイトの頭が動き、玄関を不安そうに見つめた。首が痛むのか、包帯へと手を当てている。
 ヒノデもまた気配を探ると、瞬きをした。
 岩のように硬く、滑らかな気配。イトムシの長・小石丸こいしまるの気配だった。
 ヒノデはほっと息を吐いた。優しく強い小石丸。イトムシの長。自分を育ててくれた恩人。信頼する祖父。

(勘ぐった所で仕方がない。もしもそうであっても、師には考えがある。四原則は絶対だ、イトムシ同士は、争わない)

 ヒノデはもう一度、キイトの頬へと顔を寄せた。息子は自分より先に師の存在に気付いていた。それがまた、誇らしい。

「偉いわキイト、お前は強くなる」
「……」

 素直な子は、それだけで励まされたように不安げな顔を隠し、きゅっと口元を結んだ。
 ヒノデが立ち上がると同時に、小石丸が部屋へと入ってきた。師は後ろ手に手を組んでいる。

「ようこそ、おじい様。この後キイトを連れ、伺うつもりでした」

 老体とは思えぬ、黒く強い目がキイトを射抜く。

「なに、散歩がてらに寄ったまで。そろそろひ孫の顔も見なくてはと思ってな」

 キイトがヒノデの手を、ぎゅっと握って来た。

「キイト。あなたのひいおじい様に当たる方、イトムシの長、小石丸様」

 キイトは母の手をますます強く握り、前へ出ようとしない。

「キイト」

 もう一度促され、ようやく前へと出る。

「イトムシの、キイト……です」

 キイトが小さく告げる。
 小石丸の手が伸び、キイトの顎を掴んだ。キイトの肩がびくりと跳ね、後ろ手に指を硬く組んだ。小石丸はキイトの目を覗き調べると、ヒノデへと向き直った。

「成長が早いな。明日から稽古をつける、朝、こちらによこしなさい」
「はい。よろしくお願いします」

 簡潔な小石丸の言葉に、ヒノデは指を組み礼をした。しかしキイトは黙ったままだ。ヒノデに促され、ようやく頭を下げる。キイトは最後まで、小石丸の前で指を組もうとはしなかった。
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