黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第一章 変 化《Change》

03 なっ、なに、その髪の毛っ!?

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 優花がこの夢の話をした時に玲子は、絶好の小説ネタを見つけたとばかりに、眼鏡の奥の瞳をキラリと輝かせて、言ったものだ。

『夢は願望の現れだっていうよ。それは、優花が好きな男の子と手に手を取って逃げたい、つまり、『駆け落ちしたい』って心の何処かで思っているからじゃない? ついでに言えば、何かに追われたいM願望の発露! 優花って、絶対Mっ気あるよねー』と。

――まあ、なんとか願望は無視しておくとして。だとすれば、私は『晃ちゃんと駆け落ちしたい願望』があるってこと?

 そんなバカな。
 確かに好きだけど、それは、例えば『お兄ちゃん』が居たらこんな感じだろうって言う、言わば肉親への情に近い。

 そう、家族よ家族っ。

 だって、いつまでオネショしてたとかまで知ってる仲なのよ?

 けっして、手を繋ぎたいとか、まして、キ、キ、キスしたいとか思っているわけじゃなくっ!――

 ぴぴぴぴ――。

 ベッドの上で一人、脳内妄想を膨らませながら百面相をしていた優花は、目覚まし代わりのスマートファンのアラームに、ハッと現実に引き戻された。

「寒っ……」

 背中の汗が冷えて、ヒンヤリする。

――このままじゃ風邪をひいちゃう。シャワーでも浴びて、気持ちを切り替えよう。

 そう思った優花は、重い体をズルズルと引きずるように二階の自室から階下のバスルームへと向った。そして、洗面所兼脱衣所の外開きのドアを無造作に開け、視線を上げたその瞬間。

――えっ!?

 ドアノブを掴んだまま、優花の全身はものの見事にピキッ! と、固まった。

 如月家は三年前に両親が交通事故で亡くなってから、優花と祖父母の三人家族。だから、朝にシャワーを使うとしたら優花しかいない。なのに、目の前には、今まさにシャワーを浴び終えて『お着換え中』の先客がいた。

 目が覚めるような金色の頭髪を、タオルでガシガシ拭き取っているその人物の均整の取れたしなやかな肢体からは、ホカホカと湯気が上がっていて、右耳につけられた、幅一センチ程の銀色のクリップ式イヤリング、イヤーカーフが、水を弾いてキラリと鋭い光を放っている。

「ん? ああ、おはよう。シャワー使うのか?」

「……」

 ダルマさんが転んだ状態のまま硬直している優花に、ニコやかに声をかけた人物こそ、何を隠そう噂の幼なじみ、『御堂晃一郎』、その人だった。

――な、な、なんで、晃ちゃんが、ここにいるの!?

 脳内を、クエスチョン・マークが、団体さんで駆け抜けていく。

 晃一郎は、尚も硬直している優花の様子など微塵も気にとめる様子もなく、『ふんふんふん』と、実にご機嫌さんで鼻歌を口ずさみながら、高校の制服であるグレーのスラックスに長い足を突っ込みベルトを締めた。

 さらに、白Tシャツの上にワイシャツを着込んで首にエンジのネクタイをひっかけ、濃紺のブレザーに袖を通し、まだ乾ききらない髪を右手のタオルで拭き取りつつ、利き腕の左手だけで器用にブレザーのボタンをとめながら『お先ーっ』と入口に、つまりが、優花が突っ立っているドアの方に歩み寄ってくる。

 優花は、ごくりと喉を鳴らしてから、すっとんきょうな声を上げた。

「なっ――、なに、その髪の毛っ!?」


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