黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう

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第五章 記 憶 《Memory-3》

85 ポチは伸縮自在

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 こんな状況で、眠れるわけがない。

 優花はごそごそと、自分を抱え込んでいる晃一郎の腕から逃げるように抜け出し、ベッドを降りようとした。

 が、行く手を阻む大きな羽根つきワンコが、ベッドわきにドンと鎮座していて降りられない。どうしたものかと困っていたら、これまたビッグサイズの毛並の豊かな長いシッポが、ワサワサと振られる。

「ええっと、ポチ……さん?」
『さんはイラナイ、ポチでイイ』
「え、あ、うん」

 口から発声される言葉でなく、ダイレクトに頭の中に響いてきた重低音の声に目を白黒させながらも、優花は言葉を続ける。

「あのね、ベッドから降りたいから、少ーしだけ隙間を空けてくれると嬉しいんだけど……」
『ワカッタ』

 ポチはそういうと、ポン! というひょうきんな音と共に、文字通り縮んだ。三メートルから三十センチ。見事な縮み具合に優花は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

「ええっ!?」

 小型の愛玩犬サイズになったポチは、どこをどう見ても小型の愛玩犬だった。毛の量は三割増しだが、まだ毛が生え切らない縮れっ毛のマルチーズの子犬に似ている。

『元のサイズに戻ったよー。だから大丈夫なのー』

 プルプルプルと小ぶりのシッポをちぎれんばかりにふって体を揺らすポチは、声までもバリトンボイスから子供のような可愛らしいハイトーンのソプラノボイスに変わっている。

――うわ。か、可愛いっ……。
 これはダメかもしれない。

 元が、あの大きな羽根つきワンコだと分かっていても、この可愛さには逆らえそうもない。

「ポチ、ありがとうね」
『うん。どういたしましてー』

 よしよしと頭をなでれば、フワフワの毛並と少し高めの体温が手のひらから伝わってきて、ほっこりと癒された。

 足元に纏わりつくようについてくるポチを踏まないように気をつけながら、コテージ風の、見覚えのない部屋の中をぐるりと見渡し、とてとてと寝起きのおぼつかない足取りで、トイレと洗面所を求めて歩き出す。

――ええっと。

 昨日、避難シェルターに付いて、黒田マリアもどきに会って。

 それから、どうしたんだっけ?

 のろのろと昨日の記憶を辿りながら、まずトイレを済ませ、次に顔を洗うべくトイレの隣に設置されている洗面所台の前に立った。

「ふわぁ……。それにしても、ここ、どこなんだろう?」

 遠くで波の音が聞こえるから、海の近くなのかな?

 などと考えながら、鏡の前でふと上げた視線が、釘付けになる。

 変だ。なんだか、ものすごく変だ。違和感、走りまくりだ。

 その原因は、言わずもがなの自分の髪の色。窓から差し込む朝日を浴びて、キラキラと輝く銀色の髪を美しいと思う余裕などありはしない。

「な、何、コレーーーー!?」



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