ひまわり~好きだと、言って。~【完結】

水樹ゆう

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第八話 【計略】心の楔。

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 二十五年間。
 病気らしい病気をしたことない私は、初めて『熱射病』なるものを体験した。

 熱射病とは、高温多湿な場所に長時間いたりするとかかる病気で、なんでも身体に熱がこもって体温が上がりすぎてしまうのだそう。

 症状としては、頻脈や頭痛。果ては、意識障害などが現れ、最悪、死に至ることもある、意外に侮れない恐い病気なんだとか。

 私の場合。一番の原因は、寝不足による体力低下。プラス。誰かさんが、虐めてくれたおかげの精神的疲労。その上、前日の八月らしからぬ冷え込みのせいで、若干風邪気味だったことも加わって、熱射病初体験と相成ったわけ。

 まあ、そんな健康状態で、真夏の砂浜でウロウロしていたんだから、自業自得といえば自業自得――、ではあるんだけれど。

 大事にならなかったのは、熱射病の知識があった伊藤君の適切な手当のおかげだ。

 応急処置の後、すぐに到着した救急車で病院に連れて行ってもらった私は、点滴と点滴をしている間の爆睡ですっかり元気になった。

 私自身は、死ぬかと思うほど苦しかったあの状態は、比較的軽い症状だったそうだ。こんな騒動に巻き込んで、せっかくのお休みを台無しにしてしまった伊藤君には、本当、申し訳ないって思う。

 夕方。

 伊藤君に実家まで送り届けて貰った私は夕飯を食べた後、頃合いを見計らって浩二の家に向かった。

 目的は、もちろんただ一つ。

――ったく、浩二のやつ。

 とっ捕まえて、どんな魂胆なのか、白状させてやるっ!

 ムカムカと、絶好調にむかっ腹を立てつつ。私は、浩二の部屋の襖を、力いっぱい開け放った。

 バチン! と。

 まるで今の私の心の中を表すような、派手な音を上げて襖が全開する。

 勝手知りたるこの従弟の部屋に、最後に来たのは、いつだったか。たぶん高校の時だと思うけど、その辺は定かじゃない。久しぶりに足を踏み入れた十二畳の和室は、記憶の中にある部屋の様子と、ほとんど変わりがなかった。

 シンプル・イズ・ベストの、味気なさ漂うモノトーンの室内。壁際に置かれた、セミダブルのベッド。その脇に置かれた片袖机は、中学の入学祝いに家の父が送ったものだ。机の上には、父方の祖父から送られた古いカメラがきれいに手入れをされた状態で置かれている。

 壁際の本棚には、相変わらずの漫画とサッカー関連の雑誌が乱雑に突っ込まれている。目新しいものと言えば、カメラ関連の指南書とか、写真集の類の本が増えていることくらい。

「ったく、成長がないやつだ」

 ボソリと低い呟きを漏らして、鋭い視線で部屋の中を見渡すも、肝心の本人の姿が見えない。

「浩二、いるんでしょっ!?」

 大きな声で呼んでみるけど、返事はこない。

 ……気配を察して、逃げたんじゃないでしょうね?

 見つけたら、向こうずねに二・三発、蹴りでも入れてやらなきゃ気が収まらない。

「浩二!?」

 ツカツカと押入れに歩み寄り、襖を勢いよく開ける。が、さすがにここには隠れていない。

 この部屋の中に、他に大人の男が隠れられるスペースなどないのは、分かっている。おばちゃんは、『部屋にいるよー』って言ってたし、浩二の車は車庫にあったから、少なくとも家の中にはいるはず。

「トイレにでも、行ってるの?」

 ジロリ。

 もう一度、座った目つきで部屋の中をぐるりと見渡す。と、その視線が、ある一点で釘付けになった。

 天井だ。

 ちょうど、ベッドの真上。

 木目調の天井板に、等身大ほどの、大きな人物写真が貼り付けられている。

 澄み渡る青空の下。 一面に咲き誇る向日葵畑。

 その真ん中に、白いワンピースを身に纏った少女が、はにかむような笑顔を浮かべて佇んでいた。

 黄色い麦わら帽子の下。色素の薄い、サラサラのストレートヘアが、風に吹かれて舞っている。

 長いまつげに縁取られた、ライト・ブラウンの大きな瞳。

 丸みを帯びた白皙の頬。

 微笑を形作るのは、可憐なピンクの唇――。

陽花はるか……」

 間違いない。

 この写真の人物は、陽花だ。

 独身男が、女の子の写真を部屋に貼る。それも、自分のベッドの天井に等身大の写真を貼る――。

 なんで? 
 なんて、聞くまでもなく明らかだ。

「――やっぱり」

 私の推理が、当たってたってこと?

「何が、やっぱり?」

 不意に背後であがった声に思わずビクリと、体が強ばる。

 すうっと、一つ大きく息を吸って止めて。

 私は、ゆっくりと後ろを振り返った。




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