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芒種【partⅦ】
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「おいっ。海斗。何ぼーっとしてんだよ」
真司の声が海斗の頭に響く。真司は海斗の肩を叩きながら大声を出していた。
「おおっ。悪い。昔のこと思い出してよ。ちょっとぼーっとしてたよ」
海斗が虚な表情で答えた。
真司が笑いながら「お前がそんな考え事するなんていよいよ末期だな」と海斗に言った。
「かもしれないな。なんか学校でもいろいろ考えること多くてさ。普通に高校通うってのも難儀なもんだな。本当俺らしくねぇよな」と海斗も照れ笑いを浮かべながら真司に言った。
「何弱音吐き腐ってるんだよ。お前は真っ直ぐでとにかく頭じゃなくて行動だろ。そうやって高校入試も乗り越えてここまできたんじゃねえか」
全くその通りだった。真司は海斗の家庭事情や高校に入学するまでのきっかけも全部聞いていたし、その度に若さと勢いで前に進んできたことも知っていた。だから、真司にとっては悩み込んでいる海斗の姿を見るのが新鮮でもあり、違和感でもあった。
「前を向いて生きてる人間ほど壁にぶつかるもんじゃねぇか。海斗だってそんなこと百も承知だろ。悩むより動く方がお前らしいんじゃねえのか」
海斗を励まそうと真司が言った。ずっと川を眺めていた海斗がようやく真司の顔を覗き込んだ。
「その通りだな。くよくよすんのは俺のタチじゃねえな」
海斗は笑顔だった。
「ありがとな。まだ頑張れそうだわ」
それから海斗は真司と昔話に花を咲かせた。沈みゆく夕日とは裏腹に過去の思い出がたくさん湧いてくる。そんな楽しい時間を二人は過ごした。
気がつくと午後七時を回っていた。
「いけね。弟たちが待ってるからもう帰るわ」
海斗は自転車にまたがる。
「おう。じゃあな。頑張れよ」
右手を軽く上げて真司も自転車にまたがり、互いに逆方向に自転車を走らせた。
海斗は久しぶりの友との再会に高揚していた。河川敷に着いた頃の曇りはなく、今は何をすればいいかわからないが自分らしく帆を進めるための風を真司からもらった。若い勢いのまま猛スピードで自転車を走らせ、家へと帆を進めた。
海斗が家に帰ると、二人の弟がすぐに海斗に駆け寄る。弟は年子で四男は小学五年生、五男は小学四年生。
「お兄ちゃんおかえり」
二人の弟はいつもの通り笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。母さん入るか?」
海斗が聞くと五男が勢いよく首を横に振った。
「お母さん今日は朝からいないよ。出かけたみたい」
「そうか。飯は食ったのか?」
「お昼にコンビニ弁当食べた」
四男が答えた。
「そうか。お兄ちゃんがすぐご飯作るから待ってな」
海斗がジャージの袖を捲った。海斗は手際よく、夕食を作る。昨日スーパーで買ったセールのキャベツと消費期限が迫った豚肉で回鍋肉を作った。弟たちと食事を済ませると海斗は風呂に入ろうと洗面所へ向かった。
海斗は脱衣所でジャージを脱ぐとポケットの中に髪留めが入っていることに気づいた。取り出すとまだ黒い汚れはついていた。このまま由依に返すわけにもいかない。海斗は入念に洗った。すると金色の真鍮に丸い真珠がいくつもあしらわれたヘアピンだった。真珠は濃いクリーム色でうっすらと虹色の光を放ちながら海斗の目を奪った。
海斗は明日の学校で由依に渡そうとヘアピンを洗面台に起きシャワーを浴びた。海斗は身体を洗いながらまた、今日目の当たりにした光景を思い出す。
どうすべきなのだろうか。海斗の心は揺れる。正直、自分が何をしたいのかわからない。ただ顧問や由依に疑念を持ったまま生活を続けることに嫌悪感を感じるのは確かだった。
海斗はシャワーを浴び終えて流れ作業のように身体を拭き、ドライヤーをかけ自分の部屋の布団に潜り込む。ただ押し寄せる不安と疑念に苛まれながら答えを見つけられずに漂う冴えない自分にも嫌気が差していた。
そんなパッとしない感情を胸に眠りにつく。
真司の声が海斗の頭に響く。真司は海斗の肩を叩きながら大声を出していた。
「おおっ。悪い。昔のこと思い出してよ。ちょっとぼーっとしてたよ」
海斗が虚な表情で答えた。
真司が笑いながら「お前がそんな考え事するなんていよいよ末期だな」と海斗に言った。
「かもしれないな。なんか学校でもいろいろ考えること多くてさ。普通に高校通うってのも難儀なもんだな。本当俺らしくねぇよな」と海斗も照れ笑いを浮かべながら真司に言った。
「何弱音吐き腐ってるんだよ。お前は真っ直ぐでとにかく頭じゃなくて行動だろ。そうやって高校入試も乗り越えてここまできたんじゃねえか」
全くその通りだった。真司は海斗の家庭事情や高校に入学するまでのきっかけも全部聞いていたし、その度に若さと勢いで前に進んできたことも知っていた。だから、真司にとっては悩み込んでいる海斗の姿を見るのが新鮮でもあり、違和感でもあった。
「前を向いて生きてる人間ほど壁にぶつかるもんじゃねぇか。海斗だってそんなこと百も承知だろ。悩むより動く方がお前らしいんじゃねえのか」
海斗を励まそうと真司が言った。ずっと川を眺めていた海斗がようやく真司の顔を覗き込んだ。
「その通りだな。くよくよすんのは俺のタチじゃねえな」
海斗は笑顔だった。
「ありがとな。まだ頑張れそうだわ」
それから海斗は真司と昔話に花を咲かせた。沈みゆく夕日とは裏腹に過去の思い出がたくさん湧いてくる。そんな楽しい時間を二人は過ごした。
気がつくと午後七時を回っていた。
「いけね。弟たちが待ってるからもう帰るわ」
海斗は自転車にまたがる。
「おう。じゃあな。頑張れよ」
右手を軽く上げて真司も自転車にまたがり、互いに逆方向に自転車を走らせた。
海斗は久しぶりの友との再会に高揚していた。河川敷に着いた頃の曇りはなく、今は何をすればいいかわからないが自分らしく帆を進めるための風を真司からもらった。若い勢いのまま猛スピードで自転車を走らせ、家へと帆を進めた。
海斗が家に帰ると、二人の弟がすぐに海斗に駆け寄る。弟は年子で四男は小学五年生、五男は小学四年生。
「お兄ちゃんおかえり」
二人の弟はいつもの通り笑顔で迎えてくれた。
「ただいま。母さん入るか?」
海斗が聞くと五男が勢いよく首を横に振った。
「お母さん今日は朝からいないよ。出かけたみたい」
「そうか。飯は食ったのか?」
「お昼にコンビニ弁当食べた」
四男が答えた。
「そうか。お兄ちゃんがすぐご飯作るから待ってな」
海斗がジャージの袖を捲った。海斗は手際よく、夕食を作る。昨日スーパーで買ったセールのキャベツと消費期限が迫った豚肉で回鍋肉を作った。弟たちと食事を済ませると海斗は風呂に入ろうと洗面所へ向かった。
海斗は脱衣所でジャージを脱ぐとポケットの中に髪留めが入っていることに気づいた。取り出すとまだ黒い汚れはついていた。このまま由依に返すわけにもいかない。海斗は入念に洗った。すると金色の真鍮に丸い真珠がいくつもあしらわれたヘアピンだった。真珠は濃いクリーム色でうっすらと虹色の光を放ちながら海斗の目を奪った。
海斗は明日の学校で由依に渡そうとヘアピンを洗面台に起きシャワーを浴びた。海斗は身体を洗いながらまた、今日目の当たりにした光景を思い出す。
どうすべきなのだろうか。海斗の心は揺れる。正直、自分が何をしたいのかわからない。ただ顧問や由依に疑念を持ったまま生活を続けることに嫌悪感を感じるのは確かだった。
海斗はシャワーを浴び終えて流れ作業のように身体を拭き、ドライヤーをかけ自分の部屋の布団に潜り込む。ただ押し寄せる不安と疑念に苛まれながら答えを見つけられずに漂う冴えない自分にも嫌気が差していた。
そんなパッとしない感情を胸に眠りにつく。
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