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シャルル歌う

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カスナ国のお城は無血開城とは成らなかったが、
ま、犠牲者は今の処、ジュリアスの伝令兵だけなので、
その死体は早くもキサナ国の親族の元に運ばれ、
親には恩給が死ぬまで支給される。

と言うよりも、どうも、
今のキサナ国もカスナ国も10年前から絶対王政はザギアナ国によって廃止され、
当分の間、形として、慣れるまで貴族や王族の形ばかりの生活は保障されるが、
だが、今までの財産や土地は国民全てのモノであり、と言うことは、
ザギアナ国は異世界の中で最も成功した社会主義国家なのか共産主義なのかで、
実際、ザギアナ大国の女王は国民と変わらない生活、
例えば一緒に田畑を耕し、町の掃除を行ったりと、政治や祭りごとは、
空いた時間で行うと言う片手間であるらしい。

だからこそザギアナ大国は何処の国よりも発展し、巨大になっているらしい。

元居た世界のソ連(ロシア)やら中国やらその他の独裁国の最高指導者とは、えらい違いだ。

その違いはハッキリ言って、
国のトップ自らが財産放棄、
権力よりも信用と尊敬だけ民から頂くと言う恐ろしい武器があるから、
ある意味、あっさり海の向こうの異世界こっち側、
キサナ国とカスナ国、後一つ、名前は忘れてしまったが、
の3国を瞬殺的に支配と言うよりは統治したのだが。

だがしかし、カスナ国で謀反、
旧勢力が決起(けっき)し武力によって対抗しようとしていた。

ジュリアスと息子のマルクスとの御対面は、
ちょっと可哀そうと言うか、
完全に兄貴シリウスに洗脳されていて、

「お前は父上ではないわ」

と10歳の少年に啖呵(たんか)をきられた。

なんでも、今の処、ジュリアスがカスナ国に戻って来るまでは、
実質、マルクス少年がカスナ国の王子であり王様でもあると言う、
珍妙な、まあ、理由は旧王様シリウスが自分の権威である王様をもマルクス少年に返納し、
シリウスはあくまでもマルクス少年の監修、相談役と言う立場に謙(へりくだ)ったので、
マルクス少年は10歳にしてカスナ国の絶対権力と財力と武力と権力を握ったのだ。

この誘惑には純粋な少年の心をも貪欲(どんよく)な亡者に変えることだろう。

ま、本当はカスナ国もザギアナ国が統治しているんだけど、シリウスは

「そんなの関係ね~」

とばかりに幼いマルクス少年を、
生まれて直ぐから10年も一緒に居たのだから、
旨(うま)く丸めこまれるに決まっているし、
考えたらジュリアスの兄シリウスに対する監督の甘さが最大の原因ではあるのだが、
と言った話しを俺の監視兵と言うよりも、
今では二人の若い男子二人の付き人となっていて、
その二人とシャルルの4人で、一応、無血開城になったカスナ城を散策、
探検しながらつらつらとそんな話をしていた。

「ジュリアス当人に聞くのが、なんか憚(はばか)れるからな、
結局、何でジュリアスは家族も一緒にキサナ国に呼ばなかったのかな、
で、キサナ国から10年間、一度もカスナ国に戻らなかったのはなんでなのかな、
キサナ国で10年間彼は一体何をやっていたのかな」

俺の問いに対して監視兵たちは分かる範囲であり、教えられる範囲を語ってくれた。

これが今までの流れ

謀反に加担したシリウス側の騎士兵団達は全ての武器と甲冑を脱がされ、剥ぎ取られ、
殆(ほとん)ど下着姿状態で手枷(てかせ)、足枷(あしかせ)を付けられてカスナ国の馬車繋がれカスナ国の湾、
港を目指して送られていた。

行く先はザギアナ大国で間違いないでしょう。

奴隷のような格好になったシリウス側の兵たちは、
キサナ国の兵、ジュリアスの兵たちに、

「貴様たちは全員ジュリアスに騙されている」

とか

「恥を知れ、恥を」

と、恥の文化は日本だけのモノじゃないのね、
とオッサンは感心していたけど、出来れば、
謀反に加担した彼らの話も聞きたいところだった。

彼らにとっては、訳が解らずに城が開城し、
若き王とシリウスが彼らの考えでは鉄壁(てっぺき)の守りだった筈なのに、

「あ~らよっと」

って感じで、謎の見えないスーパーマンが見えないけど瞬殺で二人を奪還(だっかん)し、
剰(あまつさえ)、凌辱してジワジワと嬲り殺す予定だった一応マルクスの母親もしれっと助けられていたから、
ホント魔法にでもかかったような気分でいる兵士が大半だろう。

シリウスはジュリアスの側近兵達が管理し尋問中で、
その報告書もザギアナ国に報告されるだろう。

そんな状況をカスナ城内を散策しながら見たり聞いたりしながら、歩き回った。

1階集会所の上は高さ的に3階か4階の処に、
なんと小ホール的な空間、劇場と言った方が良いのか、
舞台があり観客席は円形に段々畑上になっていたのがあった。

まるでローマの屋外劇場のような室内版だ。

シャルルは早速、舞台の上に上がり、舞台中央で発声練習のような声を上げ始め、
この劇場小ホールの音の響きを確かめていた。

「止めてください、あの、その、声を、歌を歌うことは禁止されているので」

監視兵たちがうろたえ始めたが、
俺も自分の声の響きを、このホールで確かめたくて

「あ、あ、あ、あ、ぁ」

とか音痴だけど音階を発声したりして、その空間の響きを楽しんでいだ。

「いいじゃないか、
ま、何となく、この世界では音楽が、歌が駄目なのか、禁止されているのは気付いていたけど、
俺ら外人だし、ここなら、俺らだけだし、
な、少しだけ、ここだけならいいだろう。
君たちは注意したし、君らの職務は全うしているのは俺も報告するよ、
と言うよりも、誰もここまで来ないし、なんだったらそのドア付近で見張っていろよ、
誰か来たら、外人たちでエッチをおっぱじめたからとか適当なこと言ってさ」

シャルルは「バッカじゃない~」とリアルアスカみたいだったけど、顔はご機嫌だった。

渋々と監視兵たちはドアというか扉を出て閉めたので、
閉めたカチャって音が合図のようにシャルルは歌い出した。

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