呪われた騎士に惚れられた夢魔は呑気にその腕の中で微睡んじゃう

おげんや豆腐

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静かな森でのんびりと

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僕の生活リズムは実にシンプルだ。

洞窟の中朝日と共に熊がのそりと眠りから覚め同時に僕も目を開ける。

親熊が餌を取りに行く後ろ姿を見送りその間すやすやと眠る小熊から眠気を頂く。
自分の朝御飯を済ませた後、小熊を起きるのをのんびりと待つ。

小熊が起きれば親熊が帰ってくるまでの間洞窟からでないよう見張り親熊が帰ってくればのそのそと外へ出る。

霧に包まれた森はとても静かで少し肌寒い、けど昼間に活動する動物たちの眠気で溢れあくびと共に息を吸えば色んな生き物の眠気が味わえるからプラマイゼロ。

草食動物ならさっぱりと、肉食はこってりとしたものが多い気がする。

魚は……眠るの? 人間……しばらく食べてないから忘れたけど聞くところ雑食だから味が安定しないそうな……。

それに悪夢なり変な夢なりの眠気は当たり外れが大きいから進んで食べたくはない……。


その点、野生に暮らす動物たちは生活が一定で味が安定していてとてもよろしい。
何も命を取る訳ではないのだ、その日の気分で食べたい動物の場所にお邪魔するだけ。
それに加え動物達は気持ちよく眠らせてくれる自分を快く受け入れてくれる。

朝は起き始める動物達、昼は夜行性の眠っている子達、そして夜は熊の親子の寝床にお邪魔する、実に充実した暮らしだ。




道とは言えない獣道を進んで行けば小さな川に行きつく。
そこは喉の潤いを得るために小動物達が集まるちょっとした休憩場。
近くの岩に座りうさぎや鳥たちが集まり水を飲み毛繕いする様子をぼうっと眺める。

昔はそこそこの旅をして国や人、地理の知識は気持ち知っているつもりだけど、今森から出る気は全く無い、居心地が良いのもある主な理由は魔王様が封印された事で魔族の扱いが最悪だから。

魔族はほぼいなくなり、残った者もほか種族からの風当たりがとても酷い。

良くて石を投げられ、最悪は殺され見せしめに吊るされる。
生憎ほいほいと人里に下りて殺される願望は持ち合わせていないし無鉄砲な事をする活力もない。

嗜好品も豪華な装飾品も心惹かれるが心の底から欲しいと聞かれれば否。

静かな森を散歩し様々な動物と戯れ日の光を浴びて昼寝ができれば十分自分は満たされる。

吸血鬼や色欲魔とは違い近くに寝ている動物さえいれば生きていく事ができるから特別餌の確保に困らない点は実にラッキー。

…………。


語ることも話すことも、復讐や野望も願望も思いつく限り、無い。


ただ静かに、魔族の迫害が収まるまで数年、数十年、いつになるかは分からないが穏やかに過ごす。

三年前にぼんやりと決めたままに暮らしそしていつかこの森で朽ちていく、実に素晴らしい終わり方だ。





木々の隙間から入る朝の光が顔を照らし、眩しさに目を瞑る。




今日も、だらけようか……。













「んん~ 」
「……グゥ」

子熊のお腹はごわごわと、しかし少しふわふわと手触りがよく毛を手櫛で撫でぎゅっと頭から抱きつけば土臭さと子供特有の乳の匂いが微かに鼻を掠める。

初めの頃は実に嫌そうな目を僕に向けていた熊も今はもうすっかりすやすやと寝ている。


耳の裏、顎、肉球に背中と思う存分堪能し気が済めば小熊の頭を数度撫でると、ぱっちりと自分を写していた黒い目はすぐにうとうとと微睡みあっという間に穏やかな寝息をたてる。

これが夢魔の力、触れた生き物を眠りに導く。

どういった原理かは分からないし興味もない、ただ眠くなる気を出すイメージのまま相手に触れれば目を覚ました相手だろうとすぐに眠る。

今撫でている熊は半年前まで随分寝付きが悪かったらしく居候をした最初の一週間は母熊から狩ってきたお肉の一部を渡されるほど感謝された。

この子熊がもう少し大きくなるまではこの洞窟にお邪魔する予定。
雨風を凌げてご飯も食べれる、これ以上良い物件は早々ない。

もし、この熊が独り立ちして、そこから、そこから……?

子熊の新鮮な眠気を頂き、自分も眠ろうとみじろいだ所でふと、その考えが頭をよぎる。

「いや……いいか別に」
撫でる手を止め少し考えようとするが、すぐに首をふってその場に横になる。


まぁ、その時がくればその時に考えればいい。





※※※


そう思って過ごしていても、時に騒動は勝手に起きる物。

朝子熊がすやすやと眠る中餌を探しにいく筈の親熊が警戒した顔で洞窟からでない事に首を傾げる。

そっと洞窟から出てみれば朝とはいえ鳥や動物の鳴き声に賑わっていた森が痛いほど静寂に満ちていた。

山火事地震大雨にその上をいく嵐、年に何回か、もしくは数年に一度起こる世に言う災害は正直どうでもいい、洞窟の奥か開けた場所に行けば事足りる。

土砂崩れや嵐の倒木等は一応味わってきた、だがさして驚くことでも恐怖するものでもない、何故なら、適切な対処方法を知っていれば自ずと冷静になる。

それを踏まえても、今回の騒動は……少しおかしい。

洞窟から出てしばらくはなんの匂いもしない筈が、歩くうちに香る、この……熟成された眠気は一体……?

食材で例えると数十年物のワインのような、極上の干し肉のような……。

とにかく、絶対に美味しいと言わしめる抗う事が難しい美味しそうな匂いに動かされふらふらと歩く。




どれほど歩いたか、最も香りが強い場所で立ち止まればそこは森の中ぽっかりと開いた草原。


立ち止まったことで我に帰った僕はあわてて踵を返そうと息を吐けば今度は強い突風が顔に当たり目をつむる。

「……っ!」
風にのって鼻をくすぐる濃密な眠気……どんな味かと想像して涎が溢れる。

肉の焼ける音、新鮮な果実、視覚、嗅覚で人間が食欲が沸くように夢魔にもそれと同等の生理現象が出る。

それに森の中で不自由せず暮らしていたとはいえたまには高級なものが欲しい。

とびきり美味しいものが食べたいという欲が働いてしまった事に今更ながら少しだけ後悔する。

風が収まり、改めて草原に目を向け絶句する。

「……いる」
遠く、草原の中央そこには、見知らぬ男。


出会う筈のない人間が、そこにいた。





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