呪われた騎士に惚れられた夢魔は呑気にその腕の中で微睡んじゃう

おげんや豆腐

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先程の殺気は何だったのか……。


「……ふが、すぅ」

【五分経っても俺が眠らなかったらその瞬間にお前の首を跳ねるぞ。】等と野蛮な事を血走った目で言っていた男は横になり僕が撫で始めてから一分と掛からず、膝元で穏やかな寝息を立て眠りについた。

余程眠れない生活を送っていたのだろう、ただ夢魔が本気を出せばどんな動物も秒で眠る、それをこの男は知らないのだろうか。


謎だ……。


「……」
指で男の目元に浮かぶ隈をなぞる。

……染みついてるな。

一日二日徹夜しただけでついたものとは思えないけど寝れない用事でもあったのか許せない。

夢魔の敵だ。日光が顔に当たっても寝息を立てる男の毛質の悪い髪の毛をそっと撫で顔色を窺う。


「んん……」
あ、唸った、……起きない。

形の良い高い鼻、太い眉につりあがった目元……美術館の石造のように均等の取れた容姿……まあこの際良いか。

時折苦し気に唸る男の顔を眺め終え、ゆっくりと僕は目を閉じ口を開けた。


眠気はなにか、眠いだけなのでは、と聞かれれば具体的な答えを出すことは難しい。
ただ夢魔にしか見えない色のついた湯気のようなものが寝ている物から沸き上がる。
僕らはそれを鼻と口で吸いこみ嗅覚と味覚で味わうのだ……多分。


この男から湯水のように溢れ、周辺を様々な色で染めるこの眠気、流石に全部吸い込むなんて食い意地の張る事はしないが、腹が満たされる位は許されるだろう。


「……いただきます」
目の前に広がる眠気にそっと感謝し思い切り息を吸い込んだ。









***

朝の肌寒さは消え失せ、少し汗ばむ今日この頃……、天国のお母様元気で……うっぷ。




「おえ……」
僕は今、気持ち悪くて一歩も動けません。


「食べなきゃ……良かった」
草原の中央、傍らで男がぐーすか眠る中、絶賛全力で現実逃避をしている僕。

遠くからでもおいしそうな匂いを放ってた? 上品で濃密な眠気? 数キロ離れたあの場所からでこれならって! 期待した僕が馬鹿だった……。
思い切り、口の中一杯にほおばった眠気を景色にたとえるなら……海と山が喧嘩して嵐が吹き荒れているお味。
塩辛くて甘ったるくて渋くて独特すぎて…。

要するに、濃い。

べらぼうに濃い、これはかなり薄めないと味覚が死ぬ劇物、そう原液だ。



「これは酷い……、」

名も知らぬ男、改め命名しよう、こいつは眠気の原液だ、うんもう気が変わった正直さっさと帰ってほしい。

僕は気持ち悪くて立てず味覚は麻痺、味は最悪だけど恐らく栄養だけならば一番、胃がもたれるなこれは……。



「むう……」
時折原液の男はしかめっ面で呻き寝返りを打つ、吐き気に耐えている自分としては実に目ざわりだ。

「起きて欲しいけど、はぁ……しかたない」
寝苦しそうに唸る男に溜息をつき、男の頭にそっと痛む左手を置いた。




夢魔は安眠を届ける無害な魔族……これは仕方のない事……はぁ。






そよ風響く草原に僕の溜息が虚しく響いた。











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