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聖女のつくりかた
第10話
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兵舎の裏手の訓練場で兵士が対決している。ヨアニスはムーラーとともに見守っていた。どちらも片手剣を構えたまま動かない。兵士には大量生産の安物を支給している。形は不ぞろいで刃もなまくら。安い兵士には安い武器だ。
片方が振り下ろした。もう片方が受け止める。斬撃は弱い。互いに振り上げる。再び打ち合う。互いに振り上げる。ヨアニスはいらいらと坊主頭をなでた。どれだけ傷ついても癒やすと言っているのに。陽光がじりじりと地を焦がしていく。つと額から汗が垂れた。
恐怖だ。恐怖が負け犬をつくり出す。
「もういい。やめろ」
ヨアニスは片手剣を抜いた。二人に歩み寄る。一人を押しやってもう一人と対峙する。
右半身で構える。切っ先をまっすぐ顔に向ける。兵士も及び腰で構えた。すでに負けている。聖都の男子は腰抜けだらけだ。だからこそ出世できるのだが。
ヨアニスは切っ先を下げて隙をつくった。かかってこない。刀身を右に流す。兵士はようやく剣を振り上げた。
義務感のみで振り下ろす。右肩に迫る。ヨアニスは右足を大きく踏み出した。同時に片手剣を突き上げる。
下から根元にぶち当てた。鋼鉄が一瞬こすれる。兵士の剣が勢いよく背中側に流れる。防御は外側に当てるのが鉄則。こちらはすでに剣を振り上げている。あとはどう料理するかだ。
ヨアニスは手首を返した。表刃を喉に添える。
思い切り引いた。血がどばりとあふれ出た。兵士はうめいて剣を落とした。骨まで傷つけた。うずくまる。押さえた手から血が滴る。命がこぼれていく。もう助からない。
ムーラーがしずしずと兵士に歩み寄る。右の袖をたくす。なにかをつまんでいる。
しゃがんで首に触れた。〈黒き心〉のかけらを押しつける。奇跡は魔法のように光ったりはしない。ただ一瞬、どこにいるのかわからなくなる。一瞬で思い出す。兵舎の裏手の訓練場。兵士の首を斬った。ムーラーがかけらで癒やそうとしている。
傷が消えた。血の跡すら残っていない。兵士は面を上げた。首に手を当てて手のひらを見た。
呆然と立ち上がった。兵士たちが歓声を上げた。何度見ても信じられない。先の対決は夢だったのではないか。だがしっかり記憶に残っている。
ヨアニスは呼びかけた。
「恐れるな。われわれは奇跡を味方につけている。帝国の兵士は恐れない。死を恐れない。魔物を恐れない。勇気をもって進軍し、魔物の巣を探索する。出立は一週後だ。支度し、家族に別れを告げろ」
兵士は解散した。都の持ち場に戻る者、兵舎に入って休む者。これでしばらくは皇帝ににらまれずに済む。巣は見つからなくても構わない。激闘のすえ帰還すればいい。勇気に対する褒美は、皇帝の末の娘アンナ。
ムーラーとともに兵舎に入った。奴隷女が部屋の隅で飲み物を用意している。
うれしそうに言った。
「わたしは癒やし手として歴史に名を残すな」
「自ら年代記を書くつもりだろう。わたしとしては若い生娘のほうがいいな」
「頻繁に使わないようにするよ。魔物を増やしたら意味がないからね」
〈黒き心〉は奇跡を起こす。奇跡のたびに魔物が生まれる。平和は決して訪れない。〈黒き心〉を封印しないかぎりは。だが人の欲が許さない。絶対に。
ではわれわれはなんのために戦うのか。勝つためだ。世は強い者が得る。
片方が振り下ろした。もう片方が受け止める。斬撃は弱い。互いに振り上げる。再び打ち合う。互いに振り上げる。ヨアニスはいらいらと坊主頭をなでた。どれだけ傷ついても癒やすと言っているのに。陽光がじりじりと地を焦がしていく。つと額から汗が垂れた。
恐怖だ。恐怖が負け犬をつくり出す。
「もういい。やめろ」
ヨアニスは片手剣を抜いた。二人に歩み寄る。一人を押しやってもう一人と対峙する。
右半身で構える。切っ先をまっすぐ顔に向ける。兵士も及び腰で構えた。すでに負けている。聖都の男子は腰抜けだらけだ。だからこそ出世できるのだが。
ヨアニスは切っ先を下げて隙をつくった。かかってこない。刀身を右に流す。兵士はようやく剣を振り上げた。
義務感のみで振り下ろす。右肩に迫る。ヨアニスは右足を大きく踏み出した。同時に片手剣を突き上げる。
下から根元にぶち当てた。鋼鉄が一瞬こすれる。兵士の剣が勢いよく背中側に流れる。防御は外側に当てるのが鉄則。こちらはすでに剣を振り上げている。あとはどう料理するかだ。
ヨアニスは手首を返した。表刃を喉に添える。
思い切り引いた。血がどばりとあふれ出た。兵士はうめいて剣を落とした。骨まで傷つけた。うずくまる。押さえた手から血が滴る。命がこぼれていく。もう助からない。
ムーラーがしずしずと兵士に歩み寄る。右の袖をたくす。なにかをつまんでいる。
しゃがんで首に触れた。〈黒き心〉のかけらを押しつける。奇跡は魔法のように光ったりはしない。ただ一瞬、どこにいるのかわからなくなる。一瞬で思い出す。兵舎の裏手の訓練場。兵士の首を斬った。ムーラーがかけらで癒やそうとしている。
傷が消えた。血の跡すら残っていない。兵士は面を上げた。首に手を当てて手のひらを見た。
呆然と立ち上がった。兵士たちが歓声を上げた。何度見ても信じられない。先の対決は夢だったのではないか。だがしっかり記憶に残っている。
ヨアニスは呼びかけた。
「恐れるな。われわれは奇跡を味方につけている。帝国の兵士は恐れない。死を恐れない。魔物を恐れない。勇気をもって進軍し、魔物の巣を探索する。出立は一週後だ。支度し、家族に別れを告げろ」
兵士は解散した。都の持ち場に戻る者、兵舎に入って休む者。これでしばらくは皇帝ににらまれずに済む。巣は見つからなくても構わない。激闘のすえ帰還すればいい。勇気に対する褒美は、皇帝の末の娘アンナ。
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うれしそうに言った。
「わたしは癒やし手として歴史に名を残すな」
「自ら年代記を書くつもりだろう。わたしとしては若い生娘のほうがいいな」
「頻繁に使わないようにするよ。魔物を増やしたら意味がないからね」
〈黒き心〉は奇跡を起こす。奇跡のたびに魔物が生まれる。平和は決して訪れない。〈黒き心〉を封印しないかぎりは。だが人の欲が許さない。絶対に。
ではわれわれはなんのために戦うのか。勝つためだ。世は強い者が得る。
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