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偽りの絆
第1話
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カイは十六になった。大人用の長剣も振りまわせるようになった。
初陣から半年が経った。冒険者たちとともにフラニアの領を巡っている。魔物がいれば撃退する。豚顔ばかりで退屈した。そのうち大きな鬼が混じりはじめた。灰色で力が強い。身の丈はコートほどもあった。カイは豚専門だった。もっと強くなりたい。
遠征に出る気配はない。ベアにたずねると、おまえが強くなってからだ、と答えた。
春、サクの伯イーフが城に戻ってきた。城門から四輪の荷車が次々と入ってくる。木板で高く囲ってあるので中身はわからない。檻つきの車がつづいた。雄鶏が暴れている。豚がぶうぶう鳴きながら身を寄せ合っている。これからみんなで荷を下ろす。
伯の冒険者が荷車の脇をがばりと外した。壁の一部を下ろす。蝶番がきしむ。端を地べたに据えると踏み段の代わりになった。都会の荷車は便利だ。
ベアが伯を出迎えている。緑の羅紗織りを着ている。黒髪は伸びて背の中ほどまで届いている。カイは羊毛の梱を受け取りながらこっそりとうかがった。イーフは蒼白な顔で目を見開いている。黄色の口髭を生やしていた。
「足りなければ言ってくれ。銀貨もたっぷり持ってきた。カサで市をひらいているそうだぞ」
「また山脈を越えられてきたのですか」
「船で来た。だが魔物はまたしても襲ってきた。いや、貴重な経験をした。もう少しで死ぬところだった」
伯の冒険者が荷車に乗り込んだ。樽を寝かせて踏み段に乗せる。手を離す。勢いよく転がり落ちる。カイは体当たりをするように受け止めた。なんでも鍛錬になる。縁をつかんで持ち上げる。さすがに無理か。左にいるガモに転がす。別の樽が落ちてくる。踏ん張って受け止める。転がす。西日が顔を照らす。汗がにじみ出る。
ガモは樽を後ろに流した。ぼさぼさ頭を掻きむしった。
「こっちは糞暑いな。夏の遠征になったらやばいぜ」
「なにがあるんですか」
「蚊だよ。沼にゃ絶対に近づかない。魔物より怖え」
樽を受け取る。焼印を見る。中身は塩のようだ。ラムリー商会の白くて細かい塩。王家御用達。
クロードが遠くのほうで叫んだ。
「カイ。荷下ろしが終わったら鍛冶場に行け」
振り返って返事をした。鞴を使うのも鍛錬になる。ともに戦うと名を呼んでくれる。まともに扱ってくれる。なによりもうれしかった。
向き直って樽を待ち受ける。美しいベアが目に入る。城館に手を差し伸べている。イーフは働く冒険者たちを見つめている。
目が合った。なぜか口をぽかんと開けた。何度か瞬きしたあと指をさして言った。
「あの若者を連れてきてくれ」
初陣から半年が経った。冒険者たちとともにフラニアの領を巡っている。魔物がいれば撃退する。豚顔ばかりで退屈した。そのうち大きな鬼が混じりはじめた。灰色で力が強い。身の丈はコートほどもあった。カイは豚専門だった。もっと強くなりたい。
遠征に出る気配はない。ベアにたずねると、おまえが強くなってからだ、と答えた。
春、サクの伯イーフが城に戻ってきた。城門から四輪の荷車が次々と入ってくる。木板で高く囲ってあるので中身はわからない。檻つきの車がつづいた。雄鶏が暴れている。豚がぶうぶう鳴きながら身を寄せ合っている。これからみんなで荷を下ろす。
伯の冒険者が荷車の脇をがばりと外した。壁の一部を下ろす。蝶番がきしむ。端を地べたに据えると踏み段の代わりになった。都会の荷車は便利だ。
ベアが伯を出迎えている。緑の羅紗織りを着ている。黒髪は伸びて背の中ほどまで届いている。カイは羊毛の梱を受け取りながらこっそりとうかがった。イーフは蒼白な顔で目を見開いている。黄色の口髭を生やしていた。
「足りなければ言ってくれ。銀貨もたっぷり持ってきた。カサで市をひらいているそうだぞ」
「また山脈を越えられてきたのですか」
「船で来た。だが魔物はまたしても襲ってきた。いや、貴重な経験をした。もう少しで死ぬところだった」
伯の冒険者が荷車に乗り込んだ。樽を寝かせて踏み段に乗せる。手を離す。勢いよく転がり落ちる。カイは体当たりをするように受け止めた。なんでも鍛錬になる。縁をつかんで持ち上げる。さすがに無理か。左にいるガモに転がす。別の樽が落ちてくる。踏ん張って受け止める。転がす。西日が顔を照らす。汗がにじみ出る。
ガモは樽を後ろに流した。ぼさぼさ頭を掻きむしった。
「こっちは糞暑いな。夏の遠征になったらやばいぜ」
「なにがあるんですか」
「蚊だよ。沼にゃ絶対に近づかない。魔物より怖え」
樽を受け取る。焼印を見る。中身は塩のようだ。ラムリー商会の白くて細かい塩。王家御用達。
クロードが遠くのほうで叫んだ。
「カイ。荷下ろしが終わったら鍛冶場に行け」
振り返って返事をした。鞴を使うのも鍛錬になる。ともに戦うと名を呼んでくれる。まともに扱ってくれる。なによりもうれしかった。
向き直って樽を待ち受ける。美しいベアが目に入る。城館に手を差し伸べている。イーフは働く冒険者たちを見つめている。
目が合った。なぜか口をぽかんと開けた。何度か瞬きしたあと指をさして言った。
「あの若者を連れてきてくれ」
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