超常の神剣 タキオン・ソード! ~闘神王列伝Ⅰ~

駿河防人

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第四章  ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~

第十五話  孤高の銀閃

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 金属が打ち合うごうおんが岩場を反響する。

 少し湿った空気が肌にまとわりつく、日の光も届かない暗い洞窟内。

 照明魔法で僅かに照らされた景色は、こけむした岩と湿った土で構成されていた。

 洞窟は広く、岩の天井は随分と高い。

 おそらくは、氷河期に氷が通ってできた空洞だろう。

 その洞窟の中、少女の目の前に無骨な鋼鉄製の人形が巨体をさらしていた。

 その巨体は象を数倍した大きさを誇り、まるで甲冑で完全武装した巨人だ。

 その右手に巨大な剣を持ち、兜の奥、暗闇に緋色の目が暗く光ってこちらをめている。

 一方、対峙している少女は、十代後半の面立ちで、少々小柄な身体をしているが、巨人を相手に全くひるんでいる様子がない。

 右手には細い刀身のレイピアを持って、鋭い視線を鋼鉄の巨人に向けている。

 その眉目は秀麗で、赤みかかった銀髪はゆるやかな波をうって背中まで伸びていた。

 その少女、ルナフィス・デルマイーユに鋼鉄の巨人――――鋼のゴーレムがその巨体からは想像しがたい素早い動きで手にした剛剣を打ちつける。

 鋼鉄の関節と甲冑が擦れあって耳障りな金切り音をあげ、超重量の剛剣が大気を裂いて唸った。

 まともに受け止めようものなら、レイピアは小枝を折るよりも容易く砕かれ、少女の身体は血煙となりそうなものだ。

 ルナフィスは、迫る死の塊を冷静に見定めて難なくかわすと、そのまま一気に前に駆けてレイピアを高速で突き出す。

 連続で突き出された銀閃は、鋼鉄の左足首を陶器でも砕くかのように破壊した。

 左足を失った巨人は、もんどりうって倒れ、瞬間無防備となった頭部にルナフィスの強烈な一撃が叩き込まれる。

 洞窟の湿った空気を、硬質のガラス細工を破壊するような音が震わせる。

 頭部にあった魔核を破壊され、鋼のゴーレムは力を失うと、その巨体は一変し灰となって消えていく。

「これで八体目……」

 呟きルナフィスはレイピアを軽く振り払うと、視線を巨人が向かってきた方向に向けた。

 その視線の先、濃緑色の異形がのそりと暗闇から染み出すようにその巨体をさらし始めていた。




     ☆




 高速の銀閃を無数に放つ銀髪の少女、その戦いぶりをぼんやりと見つめながら、その女はえつに口元を歪めた。

 異界の神とも、魔神とも呼ばれる悪魔の女――――リンザー・グレモリーは、血の色をほう彿ふつとさせる赤い髪を片手で払いつつ、口を開く。

「まーったく、随分とお熱なことね……」

 一人呆れたようにぼやくが、言葉とは裏腹に上機嫌だ。

 今朝、この場に訪ねてきたのはほんの気まぐれだった。

 アーク王国の蒼い髪の少女を捕らえるため、アーク王国に転移魔法でやってきたルナフィスは、セイレン湖ほとりのこの洞窟に一時的な居をかまえていた。

 そこへ、暇つぶしの嫌がらせにおとずれたリンザーだったが――――

 始めは、いつもの通り毛嫌いを露骨に露わにしていたルナフィスだったが、気まぐれに何か必要なものはないかと訊ねれば、「稽古相手を用意しろ」と答えたのだ。

 いずれ対戦し雌雄を決する相手、蒼髪の剣士ダーン・エリンは、時間を追うことに強さを増していくという。

 対戦予定は四日後。

 今ならばそのままでも勝てるだろうが、五日たてばわからないと、あのごうまんれいな小娘が言うのだから、あのダーンとかいう剣士の評価も改めねばならないか。

 いや、あの男は都合二回ほど闘う姿を見たが、確かに侮れない不気味な相手だ。

 高度に編み上げた魔核を一撃で破壊する剣の技。
 きゆうに追い込まれた際の爆発的な戦闘力。

 さらに、明らかに短期間で急成長している。

 初めは大した興味も湧かない相手ではあったが、意外とおもむきのある相手ではないか。

 そして、ルナフィスには魔力合成した強力なゴーレムやら、例の魔法の矢で魔物化した植物を百体ほど用意してやったのだ。

 対戦相手は一体ずつ現れ、一日につき二十体ほど倒すと十時間ほど合間が空き休憩ができると、なかなかに面倒見のいいことをしてやったが。


――まあ、段々強くなっていくから、短期間により強くなるか途中で死ぬかのどちらかだけどね……。


 死んだなら死んだで、それもいいと思う悪魔の女は、ゼニゴケが極端に肥大化した魔物と闘う銀髪の少女を眺め、のどを鳴らして細く笑んでいた。




     ☆




 無限増殖していく緑の異形は、湿気を好んで生えるゼニゴケが魔物化したものだ。

 直接的な攻撃は、白い仮根を伸ばしてくるくらいだが、もしもこの仮根にとりつかれれば、おそらくは生命力を抜き取らてしまうだろう。

 エナジードレインを魔力体質とする自分には、嫌みにしか感じない相手だが、増殖のスピードが速いためやつかいな相手だ。

 一株一株の戦力はたいしたことないのに、魔核を持つ親の株を破壊しなければ永遠に闘い続けねばならない。

 今も、高速の連撃を浴びせかけ、次々と子の株を大量に撃破しているが、なかなか増殖していく緑の異形は、数が減らなかった。

 魔核を持つ親のかぶは、その気配から大量増殖した子の株に取り囲まれて守られている。

「よくもまあ、これほど悪趣味なものばかり用意できるわね……」

 舌打ちしつつ、ルナフィスはこのままではジリ貧と判断し、奥の手の《固有時間加速クロック・アクセル》で攻撃速度を一気に上げる。

 その速度は、以前ダーン・エリンとやりあった時とは比べものにならないほどの超加速だ。

 本気の超高速刺突連撃。

 一気に魔核のもとにけんげきが迫り、そのまま魔物にとどめを刺す。

 魔核を破壊した瞬間、未だに残っていた子の株もすぐに灰と化した。


――これで九体。


 そう思ったのも束の間、次は大地を割って八本の節足を持つ黒い巨体が現れた。

 正直、そのおぞましい姿を見て嫌悪感に目を背けたくなる。

 現れたのは蜘蛛くもの魔物だ。

 巨大化したあぎとを左右に開き、よだれを吐き出している。

 さらに、尻から白い糸を吐き出して辺りに網目を形成してこちらの動きを封じようとしていた。

 まるで、巣を作ってそこに引っかかる獲物を待つかのようだ。

「ちょっと、しんどくなるかも……」 

 口の中で弱音を呟くも、闘う気持ちによどみはない。

 あの男に勝つためには、これでも足りないかもしれないのだ。

 右手に握ったレイピアに力がこもる。

 わずかに輝く刀身が、再び数多の銀閃となって魔物に迫るのだった。


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