148 / 165
第四章 ざわめく水面~朴念仁と二人の少女~
第四十三話 水の精霊王5
しおりを挟む神殿の最奥、水神の姫君の祭壇で無事契約を成立し、ステフ達はルナフィス達と合流するため螺旋の階段を上っていた。
祭壇の近くでは、濃密な活力に満ちた水蒸気が邪魔をして転移が使えないらしい。
ここに来たときも、螺旋階段の降り口までしか転移でこられなかった。
そして、階段を上るだけの時間を無為に過ごせないらしく、彼女たちは雑談に興じている。
「やっぱり、《リンケージ》したときに何かしらの恩恵が得られるの?」
ステフの質問に、カレリアは微妙な反応をする。
「その……申し上げにくいのですけど、今回はそれほど劇的には変化ないかと……。実はお姉様にお渡しした《白き装飾銃》には、既に私の力を利用した改良が入っています。本当は、契約が済んだ後にこの場でお渡しするつもりでしたの」
しかしながら、ステフの衝撃銃が壊れてしまったために、急遽前倒しで、《白き装飾銃》を手渡すこととなってしまったらしい。
さらにカレリアは、ステフの持つ《白き装飾銃》についての改良点と自分の力との関連性を説明していった。
双子姉妹は、並んで螺旋階段を上り、その後ろに、ダーンが少し所在なさげについて行っている。
彼女らが「流体制御によるエネルギー収束」だの、「銃身や炉心に理力流体層被膜を形成」だのと言っているが、ダーンにはまるで意味がわからない。
要約すると、カレリアの水の精霊王としての知識により、《衝撃銃》を劇的に進化させていたらしいが、最終的な改良は、実は研究所にステフが到着した日、《リンケージ》してソルブライトによって調整された瞬間に行ったらしい。
あの時、ソルブライトは銃把の握りなどの簡単な調整をしたとか言っていたと思うが、ブラスターショットの機構などは、カレリアの知識を借りてソルブライトが実装したものである。
そうなると、ソルブライトはその時既にカレリアが水の精霊王と知っていたことになるが……。
『私からはそういった答えは教えません。貴女自身が精霊王を見つけることも、契約にかかる試練のひとつなのですから』
訝るステフに対し、ソルブライトはしれっと言う。
「むー。それじゃあ、最初っから知っていたんだ。でも、確かあなた、今精霊王がどんな姿をしているかわからないって言っていたわよね? 黙っていただけならともかく、嘘は酷いんじゃない?」
『私がそれを申し上げた時は、私もまだ知りませんでしたよ。あの時は確か、温泉であなた達が破廉恥な行いをした後でしたが……』
「ハレンチ言うなッ」
『ああ、失礼しました、つい。それで妹君が精霊王と知ったのは、彼女が我々のいた部屋の外にあらわれた瞬間です。そう……あなた達が初めて同じベッドの上で迎えた朝に……』
「きゃー!! なんですの? そのお話、私まだ聞いてません。教えてください、徹底的に! 詳しく! 赤裸々に!」
ステフがソルブライトを叱責するよりも早く、カレリアが喜々として黄色い悲鳴と共に騒ぎだす。
明らかに興味津々である。
『それが……信じがたいことに、手を繋いで寝ただけなのです。……いや、厳密には、目を覚ます寸前にステフの方から、彼のはだけた浴衣の中に手を突っ込んで、もそもそと……』
「ちょっとぉッ! いい加減なこと言わないでよッ」
『あら、そう思われます? 寝ていたのに? 目が覚めたとき、どんな体勢だったか覚えていらっしゃらないのですか? 私などは二人の胸に挟まれてスリスリされたものですから、とても暑苦しかったのですが。ダーンはもっと大変だったようですよ、いろいろと……そうですよね? ダーン』
「知らない。覚えてない」
いきなり話を振られて、ダーンは困惑しつつも視線をあらぬ方向に逸らし即答。
「スリスリって……こすって何していたのですか?」
興奮気味に両手を胸の前で組んで、ステフの胸元に詰め寄るカレリア。
一方、ステフは羞恥心で真っ赤になりながら、その時は実際に寝ていたし、よくよく思い返せば、とてもこの場で語って聞かせられない内容の夢を見ていた記憶が蘇る。
蘇った記憶は生々しい感触を伴って、ステフの下腹部に疼くような鈍い感覚を覚える。
そのため、なんらかの反論なり抗議がすぐに出なかった。
『その内容については秘密です。貴女にはまだ早いです……刺激が強すぎます』
「まあ……それほどまでに」
『そんな中、そこまでいきながら、何もしないヘタレがこの朴念仁となります』
「悪かったな……」
ぼそっと悪態をついてダーンは押しだまる。
自分の場合、こういうときは何か言い返しても無駄だし、余計に事態が悪化すると、ダーンはこれまでの経験で知っていた。
そんなダーンを置き去りにして、女性陣の遠慮のない会話はまだ続く。
「そうなりますとお姉様、やはりもっと直接的かつ大胆に、扇情的な方向へと」
「あのねぇ……」
妹の発言にゲンナリとした視線を向けるステフ、その視線に反応したわけではないが、カレリアは何か重大な問題に直面したかのような深刻な表情となる。
「ハッ……こんなことなら、あんな機能は要りませんでしたわ。……ソルブライト、どうしましょう? 私、お姉様のアピールチャンスを奪ってしまったかもしれません」
『流体スクリーンのことですか? ですから、私もそのようなモノは必要ないと……』
「なんのこと?」
妹と神器が何やら自分の知らないところで、恐らく自分に関わる事を勝手にやっていたらしく、ステフは怪訝な表情を露わにした。
「いえ……。《リンケージ》の際の防護服脱着の際に、一時的にお姉様の周囲を流体化した理力でカーテンのように包んで、無防備な瞬間を守ろうとする機構を追加したんです。このおかげで、万が一攻撃されても一定以上の防御が可能なんですが、重大な弊害が発生しました」
「なによ、弊害って」
確かに《リンケージ》の変身は、全裸になるというだけでなく、全くの無防備状態になる瞬間があった。
それが防護されることは、喜ぶべき事だが弊害と言われてしまうと、心中穏やかではない。
「可視光線も透過しないスクリーンなので、変身時に晒されてきたお姉様の美しい裸体が、今後周囲から見えなくなってしまうんです」
「でかしたカレリア」
カレリアの言葉に即座に賞賛を送るステフ。
「そんな……折角の悩殺アピールタイムがなくなってしまうんですよ。これはもう、この世界全体の損失となる重大な弊害ですわ」
姉の賞賛など全く心外という感じで、悲哀すら織り交ぜた声で訴えるカレリア、その言葉に神器も続く。
『まったくです! ここにきてこのような悪しき改変、美しき萌の精神への冒涜です』
「ごめん……ホントに何言ってるかわかんない」
『ああ、失礼、本音が出てしまいましたね。まあ、この先ダーン以外の男に裸を見られたくもないでしょうから、妹君の配慮に感謝することですね』
「ありが……って、ダーンだからいいわけじゃ……」
その後、しばらく妹と神器によるステフいじりが続く中、数歩遅れて階段を上るダーンは、もう《リンケージ》の度に彼女から離れたり背を向けたりする必要がなくなったことに何故か溜め息を漏らしてしまうのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる