よもやま話 短編集

ティムん

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「永遠」

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「ねぇ、君にとっての悪夢って何かな?」

 いつもの意地の悪い笑みを浮かべながら、彼女は僕に語り掛ける。あまりに急な問いにまごつく僕を、彼女は楽しそうに見ていた。机に腰かけ、足をブラつかせながら僕の顔をのぞき込む。

「今かな。僕にとっては今が悪夢だ」

 僕は彼女が好みそうな回答をする。ありきたりを望まない彼女が、こういった突飛な答えを期待しているのは良く理解している。

 案の定、彼女は嬉しそうに笑うと机から飛び降り、僕に顔をちかづける。

「今? 今が悪夢なの? こーんなに可愛い僕がそばに居るのに?」
「だからだよ。君がそばに居てくれるから。だからこそ僕にとって今が悪夢なんだ」

 僕の言葉に、彼女は笑顔を曇らせる。

「僕のせい? 僕、何か君の気分を害することをしてしまったかな?」

 本当に不安そうな彼女の顔に、漏れ出そうになる笑顔を堪える。そうだ、こんな風に純真で可愛い君だから好きなんだ。

「そういう訳じゃないよ。僕はただ、君を失うことが怖いんだ。君を失う可能性がある今は、常に悪夢と言って差し支えないだろう」
「なーんだ、そういうことか! じゃあ君にとっての幸福は、僕とずっと一緒に居られる、永遠ってことかな?」

 彼女はいつもの笑顔を取り戻すと、また楽しそうに話し始めた。この切り替えも彼女の魅力だ。

「そうだね。そういうことになる」
「なるほどね、悪夢が今で、幸福は永遠か……それはね、ブッブーだよ!」

 人差し指を重ねて、彼女は可愛らしくバツを作った。こんな哲学チックな話に正解も不正解も無いとは思うが、そんな理屈は彼女には通じない

「逆だよ、逆。悪夢は永遠のことで、幸福は今なんだよ」

 彼女はゆっくりと歩き出し、僕の後ろに回ると、僕の肩に手を置き耳元に口を寄せた。

「永遠はね、停滞なんだ。僕たちの関係も仲のいい友人から進むことは無いんだよ? 何よりの悪夢だろう?」

 彼女はイタズラっぽく囁いた。僕は平静を取り繕いながら後ろを振り返る。至近距離で彼女と目が合う。

「裏を返せば、「今」は関係を進めるチャンスって言いたいのかな?」
「捉え方は君の自由だよ」

 いつも通りの軽口で返す彼女だが、その耳はほんのり赤く染まっていた。恐らく僕の耳も赤く染っていることだろう。

 あぁ、たしかに「今」は悪夢では無いな。こんな幸せな悪夢があるはずがない。



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