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第一章 幼少期
第十六話 魔族
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「どうかした……?」
俯いて動かなくなった僕に、セリアが不審そうに聞いてくる。
「な、なんでもないよ。ちょっとびっくりしただけだから」
そう、少し驚いただけだよ。急に恋人みたいな事をされたから驚いただけで、セリアに、五歳の子供相手にドキドキなんかしてないんだ。そんなことはありえない、あってはいけない。
そんな事を考えているうちに、少し落ち着いてきた。僕は顔を上げ、セリアに平然と言う。
「そ、そうだ! フューに実戦経験を積ませたいから今日は解散にしにゃい?」
……全然平然となんか言えなかった。声は上ずるし、思いっきり噛んじゃった。
「実戦……経験……?」
幸いセリアは僕の変な態度をスルーしてくれたようで、首を傾げて質問をしてくる。
「そう、森の中の魔物と戦わせて経験を積ませたいんだ。だから今日はもう終わりでいいかな?」
「…………わかった……」
セリアは俯いて絞り出すように言う。きっと、もっと一緒に居てほしいのに、迷惑をかけないよう我慢しているんだろう。いや、そうであって欲しいという僕の願望かもしれないが。
「ごめんね。それじゃあ家まで送っていってあげるよ」
「ん……」
僕はいつも通りセリアの手を取り、村の少し外れにあるセリアの家まで送っていった。ちなみにその間、フューは僕の頭の上に乗っていた。
セリアと分かれた後、僕は父さんから魔物が出ると聞いていた森に向かって歩き出した。
「そうだ、ソル。セリアの魔法の制御は順調?」
『まぁまぁってところだな。少なくともお前よりは才能があるからな』
セリアがいないからソルは魔法を使わずに話す。
「そっか、順調なんだね。あとどのくらいでセリアの両親に見せられるかな?」
セリアの方が才能があると言われて少し落ち込むが、それを表に出さずに会話を続ける。
『あぁ? 属性眼を使わずに魔法を使えるかってことか? それならもう出来てたじゃねぇか。属性眼が発覚した時、あのガキは小規模の土魔法を使ったが属性眼は発動していなかっただろうが。まぁ強い魔法だとどうしても出ちまうみてぇだが』
「あ、そういえばそうだったね。じゃあなんで両親に見せる許可を出さないの?」
あれだけ両親に見せるのを楽しみにしてたんだ。早く許可を出してあげればいいのに。
『ちったぁ考えろよ。魔法を教えてすらいない五歳のガキが急に魔法を使ってみろ。気持ち悪がられるに決まってるだろ』
「あ、そっか、そこは考えてなかったよ。どのくらいの年齢なら見せても大丈夫かな?」
『そうだな……早くても七歳ってところだろ。その年齢なら魔法を使えるやつはいるし、誰から教わったのかってのもお前の母親に教えて貰ったことにすればなんとかなる』
「そっかぁ。じゃあそれまでは一緒に練習しなくちゃいけないね」
『なんだか嬉しそうじゃねぇか』
「え、そう? 別にそんな事ないと思うけどな。おっ、そろそろ森だね」
目の前には鬱蒼うっそうと木が生い茂る森が広がっていた。森は木が密集しているため陽の光が射さずに薄暗い。
そこからは少し慎重に森を進む。十数分歩いた頃、生き物の気配がした。気配のある方を見てみると緑色の肌をした子供のような生き物が一匹いた。
『ゴブリンだな。百害あって一利なしの害獣扱いの魔物だ。だが変だな、アイツらは群れて生活してるはずなのに……群れからはぐれたか?』
ゴブリンか。ファンタジーなんかじゃ定番の魔物だね。ゲームじゃ雑魚キャラだったけど――
「ゴブリンってどのくらい強いの?」
『訓練してない大人でも武器がありゃ倒せる程に弱ぇ』
どうやらこの世界でも弱い魔物らしい。
「そっか。じゃあ少し戦ってみるよ」
『あぁ? そのスライムに経験を積ませんじゃなかったのか?』
「そのつもりだったんだけど、最近まともに戦っていなかったなって思ってさ。ちょっとカンを取り戻したいんだよ」
やる気満々だったのか、フューからガッカリだという感情が伝わってくる。
「ごめんね、フュー。次の敵はフューに任せるからさ」
僕は手の中に、土魔法でナイフを生み出す。切れ味はそこまで良くないが喉元をかき切るくらいは容易だ。
ナイフを右手で逆手に握り、気配を殺しながらゴブリンに近づく。
ゴブリンは一切気づいた様子も見せずにのんびりと歩いている。僕は残りの距離を一気に詰め、左手でゴブリンの口を押さえ右手のナイフで喉元をかききる。ゴブリンは断末魔さえあげることを許されずに地面に倒れ込む。
「うん、やっぱり腕が鈍ってるね」
『どこがだ? 問題があったようには見えなかったが
』
「距離を一気に詰めた時に微かに音が鳴っちゃったんだよ。前世だとありえない失態だ」
『音が鳴ったって別にいいだろ……あぁそうか。お前の前世ってアサシンなんだったな』
「そうそう。だから相手に気づかれる要素はなるべく少なくないといけないんだ」
僕はソルにそう答えると、ゴブリンの死体を見る。
「魔物には魔石があるんだよね? なにかに使えるかもしれないしとっておこうか」
『そうだな。ゴブリンなら魔石は心臓の辺りにあるぞ。そのナイフでえぐるようにすればすぐ見つかるはずだ』
僕はソルの助言通りにゴブリンの心臓付近にナイフを突き立てようとすると、頭の上にいたフューがゴブリンの死体めがけて跳んできた。そしてゴブリンの死体をそのボールのような体に取り込む。するとゴブリンはドンドン溶けていき、最後には小指の爪ほどの大きさの小石のような物が残った。
フューはそれを僕の手のひらに置いてくれる。それは濁った紫色で、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。
「ありがとね、フュー。これが魔石なんだね……」
僕は魔石を光に透かしたり、いろんな方向から見たりして観察する。
『ちっ、面倒なことになってやがるな』
ソルが苦々しげに言う。
「え、どうしたの?」
『このゴブリン、魔族の支配を受けてやがった』
「ま、魔族? どうしてそんなことがわかるの?」
『触ふれればどんな魔法がかかっているのかは大体わかるんだよ。で、お前が触ったから、このゴブリンには魔族の魔物を従える魔法がかかっているのがわかったんだ。それもかなり強力な魔法だ。使い手は魔族の中でも実力者だろうな』
「そうなんだ。でもなんで実力のある魔族がゴブリンなんかを支配したんだろ」
ソルが認めるほどの魔法の使い手なら、もっと強力な魔物を従えているはずだ。わざわざゴブリンなんて小物を支配する必要はないんじゃないかな?
『さぁな。だが支配しているのがこのゴブリンだけだと考えるのは楽観的すぎるだろうな』
「そうだね。その魔族が何をしようとしているのか探ってみようか」
とりあえず森の奥に向かうのがいいだろう。他にも従えている魔物がいるならそれを隠すために森の中にいるはずだし、森の浅い部分は父さんたち村の男衆が定期的に魔物を間引く為に巡回しているから、何者かが潜んでいるなら森の奥だ。
「ソル、念のために魔法で僕の臭いとか隠してくれない?」
『わかった』
ソルが魔法を使ってくれる。恐らく風魔法で臭いが広がらないようにしてくれたんだろう。肌に風がまとわりついている。フューにもその魔法はかかっているようで、魔法の感覚が不思議なのか自分の形をぐにゅぐにゅと変えて遊んでいる。
魔法が使われたのを確認すると僕は気配を完全に殺し、慎重に森の奥へと歩みを進める。
一時間ほど森の中を歩き続けた。道中何体かゴブリンや他の魔物がいたが、気づかれないようにして通り過ぎた。次の敵を任せると言ったフューには悪いが、今はそんな事より何が起こってるのかを調べる方が先だ。
森の奥に進むにつれて、魔物の数が多くなり、出てくる魔物も徐々に強い魔物になってくる。しかもその魔物の様子が少しおかしかった。まるでこの先へは通さないと言わんばかりに周囲を警戒し続けているのだ。
(この先に魔族がいるのかもね)
僕は周りの魔物に気づかれない為に心の中でソルと話す。
『かもな。コイツら明らかに命令されてやがる。おおかたここを通すなとでも言われてるんだろうよ』
しばらく魔物達の警戒かいくぐりながら進むと、そこには湖があった。だが僕の目がその湖に向くことは無かった。湖の近くに大きな狼が座っており、そのそばに美しい女性がいたからだ。
その女性は燃えるような赤の髪を風になびかせ、しなやかな指で狼の頭を撫でていた。
別に僕は彼女の美貌に目を奪われた訳では無い。彼女の放つ強者のオーラとでも言うべき物に圧倒されていたのだ。頭の上のフューも怯えているのが伝わってくる。
『ちっ、よりによってアイツかよ』
(知ってるの?)
『あぁ、妖炎のフラムだ』
(よ、妖炎? それ二つ名ってやつ?)
『その通りだ。たしか、フラムが得意とする火魔法とその美貌から付けられた二つ名、だったか』
なるほど、妖艶の艶を得意な火魔法にちなんで炎にしたんだね。
僕とソルがそんな話をしてると、引き締まった体をした大人ほどの大きさのゴブリンが木々の中から出てきて、フラムの方に歩いていく。
『あれはゴブリンジェネラルだな。Bランクの魔物だ』
ゴブリンジェネラルがフラムの前で止まり、跪いた。するとフラムが何か指示を出しているようだった。
(なんて言ってるんだろう。流石に遠すぎて聞こえないな)
『身体強化の魔法を耳に集中してみろ』
言われた通りにすると、かろうじてフラムの声が聞き取れた。
「……れで戦力は整ったわね。明日にはあの村を潰しに行くわよ。準備をさせておきなさい。あの村にいるはずの魔法使いを確実に始末するのよ」
その言葉は僕に衝撃を与えるのには十分だった。
(今、村を潰すって言った!? 僕達の村の事だよね!)
『そうだろうな。とりあえず今は戻るぞ。フラムは何の準備もなしに戦って勝てる相手じゃねぇ』
(わかったよ……)
心境的には今すぐ攻撃を仕掛けたいが、それが無謀なのはわかっている。ここは一度退いて準備を万端にして戦うべきだろう。今の僕にはろくな武器もないのだから。
帰りも、行きと同じように気配を殺しながらこっそりと森を出た。前世では山篭りをさせられたりするのは日常茶飯事だったので、森で迷ったりはしない。
森を抜けた頃には日が傾き始めていた。僕は全速力で家に帰る。家の扉の前で息を整え、いざ家の中に入ろうとして頭の上のフューに気づく。窓からこっそりとフューを自室に入れたあと、何事も無かったかのように家の扉を開け、迎えてくれた母さんとの会話もそこそこに自分の部屋にこもる。
「それじゃあソル、対策を始めよう。まずはフラムの情報を教えてよ」
『了解だ。まずはフラムは――』
ソルからフラムの得意とする魔法や性格、癖などを細かく教えてもらう。しっかりと聞いてフラムとの戦闘に備えなくちゃ……!
俯いて動かなくなった僕に、セリアが不審そうに聞いてくる。
「な、なんでもないよ。ちょっとびっくりしただけだから」
そう、少し驚いただけだよ。急に恋人みたいな事をされたから驚いただけで、セリアに、五歳の子供相手にドキドキなんかしてないんだ。そんなことはありえない、あってはいけない。
そんな事を考えているうちに、少し落ち着いてきた。僕は顔を上げ、セリアに平然と言う。
「そ、そうだ! フューに実戦経験を積ませたいから今日は解散にしにゃい?」
……全然平然となんか言えなかった。声は上ずるし、思いっきり噛んじゃった。
「実戦……経験……?」
幸いセリアは僕の変な態度をスルーしてくれたようで、首を傾げて質問をしてくる。
「そう、森の中の魔物と戦わせて経験を積ませたいんだ。だから今日はもう終わりでいいかな?」
「…………わかった……」
セリアは俯いて絞り出すように言う。きっと、もっと一緒に居てほしいのに、迷惑をかけないよう我慢しているんだろう。いや、そうであって欲しいという僕の願望かもしれないが。
「ごめんね。それじゃあ家まで送っていってあげるよ」
「ん……」
僕はいつも通りセリアの手を取り、村の少し外れにあるセリアの家まで送っていった。ちなみにその間、フューは僕の頭の上に乗っていた。
セリアと分かれた後、僕は父さんから魔物が出ると聞いていた森に向かって歩き出した。
「そうだ、ソル。セリアの魔法の制御は順調?」
『まぁまぁってところだな。少なくともお前よりは才能があるからな』
セリアがいないからソルは魔法を使わずに話す。
「そっか、順調なんだね。あとどのくらいでセリアの両親に見せられるかな?」
セリアの方が才能があると言われて少し落ち込むが、それを表に出さずに会話を続ける。
『あぁ? 属性眼を使わずに魔法を使えるかってことか? それならもう出来てたじゃねぇか。属性眼が発覚した時、あのガキは小規模の土魔法を使ったが属性眼は発動していなかっただろうが。まぁ強い魔法だとどうしても出ちまうみてぇだが』
「あ、そういえばそうだったね。じゃあなんで両親に見せる許可を出さないの?」
あれだけ両親に見せるのを楽しみにしてたんだ。早く許可を出してあげればいいのに。
『ちったぁ考えろよ。魔法を教えてすらいない五歳のガキが急に魔法を使ってみろ。気持ち悪がられるに決まってるだろ』
「あ、そっか、そこは考えてなかったよ。どのくらいの年齢なら見せても大丈夫かな?」
『そうだな……早くても七歳ってところだろ。その年齢なら魔法を使えるやつはいるし、誰から教わったのかってのもお前の母親に教えて貰ったことにすればなんとかなる』
「そっかぁ。じゃあそれまでは一緒に練習しなくちゃいけないね」
『なんだか嬉しそうじゃねぇか』
「え、そう? 別にそんな事ないと思うけどな。おっ、そろそろ森だね」
目の前には鬱蒼うっそうと木が生い茂る森が広がっていた。森は木が密集しているため陽の光が射さずに薄暗い。
そこからは少し慎重に森を進む。十数分歩いた頃、生き物の気配がした。気配のある方を見てみると緑色の肌をした子供のような生き物が一匹いた。
『ゴブリンだな。百害あって一利なしの害獣扱いの魔物だ。だが変だな、アイツらは群れて生活してるはずなのに……群れからはぐれたか?』
ゴブリンか。ファンタジーなんかじゃ定番の魔物だね。ゲームじゃ雑魚キャラだったけど――
「ゴブリンってどのくらい強いの?」
『訓練してない大人でも武器がありゃ倒せる程に弱ぇ』
どうやらこの世界でも弱い魔物らしい。
「そっか。じゃあ少し戦ってみるよ」
『あぁ? そのスライムに経験を積ませんじゃなかったのか?』
「そのつもりだったんだけど、最近まともに戦っていなかったなって思ってさ。ちょっとカンを取り戻したいんだよ」
やる気満々だったのか、フューからガッカリだという感情が伝わってくる。
「ごめんね、フュー。次の敵はフューに任せるからさ」
僕は手の中に、土魔法でナイフを生み出す。切れ味はそこまで良くないが喉元をかき切るくらいは容易だ。
ナイフを右手で逆手に握り、気配を殺しながらゴブリンに近づく。
ゴブリンは一切気づいた様子も見せずにのんびりと歩いている。僕は残りの距離を一気に詰め、左手でゴブリンの口を押さえ右手のナイフで喉元をかききる。ゴブリンは断末魔さえあげることを許されずに地面に倒れ込む。
「うん、やっぱり腕が鈍ってるね」
『どこがだ? 問題があったようには見えなかったが
』
「距離を一気に詰めた時に微かに音が鳴っちゃったんだよ。前世だとありえない失態だ」
『音が鳴ったって別にいいだろ……あぁそうか。お前の前世ってアサシンなんだったな』
「そうそう。だから相手に気づかれる要素はなるべく少なくないといけないんだ」
僕はソルにそう答えると、ゴブリンの死体を見る。
「魔物には魔石があるんだよね? なにかに使えるかもしれないしとっておこうか」
『そうだな。ゴブリンなら魔石は心臓の辺りにあるぞ。そのナイフでえぐるようにすればすぐ見つかるはずだ』
僕はソルの助言通りにゴブリンの心臓付近にナイフを突き立てようとすると、頭の上にいたフューがゴブリンの死体めがけて跳んできた。そしてゴブリンの死体をそのボールのような体に取り込む。するとゴブリンはドンドン溶けていき、最後には小指の爪ほどの大きさの小石のような物が残った。
フューはそれを僕の手のひらに置いてくれる。それは濁った紫色で、お世辞にも綺麗とは言えないものだった。
「ありがとね、フュー。これが魔石なんだね……」
僕は魔石を光に透かしたり、いろんな方向から見たりして観察する。
『ちっ、面倒なことになってやがるな』
ソルが苦々しげに言う。
「え、どうしたの?」
『このゴブリン、魔族の支配を受けてやがった』
「ま、魔族? どうしてそんなことがわかるの?」
『触ふれればどんな魔法がかかっているのかは大体わかるんだよ。で、お前が触ったから、このゴブリンには魔族の魔物を従える魔法がかかっているのがわかったんだ。それもかなり強力な魔法だ。使い手は魔族の中でも実力者だろうな』
「そうなんだ。でもなんで実力のある魔族がゴブリンなんかを支配したんだろ」
ソルが認めるほどの魔法の使い手なら、もっと強力な魔物を従えているはずだ。わざわざゴブリンなんて小物を支配する必要はないんじゃないかな?
『さぁな。だが支配しているのがこのゴブリンだけだと考えるのは楽観的すぎるだろうな』
「そうだね。その魔族が何をしようとしているのか探ってみようか」
とりあえず森の奥に向かうのがいいだろう。他にも従えている魔物がいるならそれを隠すために森の中にいるはずだし、森の浅い部分は父さんたち村の男衆が定期的に魔物を間引く為に巡回しているから、何者かが潜んでいるなら森の奥だ。
「ソル、念のために魔法で僕の臭いとか隠してくれない?」
『わかった』
ソルが魔法を使ってくれる。恐らく風魔法で臭いが広がらないようにしてくれたんだろう。肌に風がまとわりついている。フューにもその魔法はかかっているようで、魔法の感覚が不思議なのか自分の形をぐにゅぐにゅと変えて遊んでいる。
魔法が使われたのを確認すると僕は気配を完全に殺し、慎重に森の奥へと歩みを進める。
一時間ほど森の中を歩き続けた。道中何体かゴブリンや他の魔物がいたが、気づかれないようにして通り過ぎた。次の敵を任せると言ったフューには悪いが、今はそんな事より何が起こってるのかを調べる方が先だ。
森の奥に進むにつれて、魔物の数が多くなり、出てくる魔物も徐々に強い魔物になってくる。しかもその魔物の様子が少しおかしかった。まるでこの先へは通さないと言わんばかりに周囲を警戒し続けているのだ。
(この先に魔族がいるのかもね)
僕は周りの魔物に気づかれない為に心の中でソルと話す。
『かもな。コイツら明らかに命令されてやがる。おおかたここを通すなとでも言われてるんだろうよ』
しばらく魔物達の警戒かいくぐりながら進むと、そこには湖があった。だが僕の目がその湖に向くことは無かった。湖の近くに大きな狼が座っており、そのそばに美しい女性がいたからだ。
その女性は燃えるような赤の髪を風になびかせ、しなやかな指で狼の頭を撫でていた。
別に僕は彼女の美貌に目を奪われた訳では無い。彼女の放つ強者のオーラとでも言うべき物に圧倒されていたのだ。頭の上のフューも怯えているのが伝わってくる。
『ちっ、よりによってアイツかよ』
(知ってるの?)
『あぁ、妖炎のフラムだ』
(よ、妖炎? それ二つ名ってやつ?)
『その通りだ。たしか、フラムが得意とする火魔法とその美貌から付けられた二つ名、だったか』
なるほど、妖艶の艶を得意な火魔法にちなんで炎にしたんだね。
僕とソルがそんな話をしてると、引き締まった体をした大人ほどの大きさのゴブリンが木々の中から出てきて、フラムの方に歩いていく。
『あれはゴブリンジェネラルだな。Bランクの魔物だ』
ゴブリンジェネラルがフラムの前で止まり、跪いた。するとフラムが何か指示を出しているようだった。
(なんて言ってるんだろう。流石に遠すぎて聞こえないな)
『身体強化の魔法を耳に集中してみろ』
言われた通りにすると、かろうじてフラムの声が聞き取れた。
「……れで戦力は整ったわね。明日にはあの村を潰しに行くわよ。準備をさせておきなさい。あの村にいるはずの魔法使いを確実に始末するのよ」
その言葉は僕に衝撃を与えるのには十分だった。
(今、村を潰すって言った!? 僕達の村の事だよね!)
『そうだろうな。とりあえず今は戻るぞ。フラムは何の準備もなしに戦って勝てる相手じゃねぇ』
(わかったよ……)
心境的には今すぐ攻撃を仕掛けたいが、それが無謀なのはわかっている。ここは一度退いて準備を万端にして戦うべきだろう。今の僕にはろくな武器もないのだから。
帰りも、行きと同じように気配を殺しながらこっそりと森を出た。前世では山篭りをさせられたりするのは日常茶飯事だったので、森で迷ったりはしない。
森を抜けた頃には日が傾き始めていた。僕は全速力で家に帰る。家の扉の前で息を整え、いざ家の中に入ろうとして頭の上のフューに気づく。窓からこっそりとフューを自室に入れたあと、何事も無かったかのように家の扉を開け、迎えてくれた母さんとの会話もそこそこに自分の部屋にこもる。
「それじゃあソル、対策を始めよう。まずはフラムの情報を教えてよ」
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