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第一章 幼少期

第六十話 戦闘準備

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 父さんと別れた後、僕は母さんの担当場所に向かった。そこには母さんが愛用の杖を持ち、魔物の方向を見据えながら一人立っていた。

 「母さん」
 「あら、ソーマちゃん。どうしたの~?」
 「フューを連れてきたんだよ。ほら、あの作戦にはフューと母さんが同じ場所にいる必要があるでしょ?」

 僕は頭の上のフューを指さす。するとフューは自分をアピールするようにくねくね動きだした。

 「そうだったわね~。あ、そういえばアレは終わったの~? フューちゃんのアレ、見てみたいと思ってたのよ~」
 「あぁ、アレね。まだだったから、今やろうか。フュー、お願いできる?」

 僕がそう言うと、フューは僕の頭から飛び降りた。地面に着地したフューは集会所を呑み込んだときのように、自分の体をぐんぐん大きくさせていく。
 学校の教室くらいのサイズになると、フューは口を大きく開けた。

 プップップップップッ!

 どこかマヌケな音と共に、フューの口から青い物が次々と吐き出された。
 どんどん量産されていく青い物体。その数に反比例するようにフューの体はどんどん小さくなっていく。そして青い物体の数が百を超え、フューが元の大きさになると、青い物体の生産はストップした。

 「これは……凄いね」
『圧巻だな……』
 「聞いてはいたけど、本当にフューちゃんは凄いのね~」

 僕達の前に広がるのは、大量の青い物体――スライムの大群だった。

 「スライムが分裂・・出来るのは知っていたけど、普通のスライムは出来て四、五体までなのよ~?」

 そう、フューが今やったのは分裂なのだ。分裂と言っても、フューが二匹になったと言うよりも、フューの分身が出来たと言う方が正しい。ちゃんとオリジナルが居るのだ。そのオリジナルが死ねば分裂した個体も死んでしまう。フューと同じように動くが、あくまでフューではないのだ。

『分裂した個体はオリジナルよりも弱くなるとは言え……この数は脅威だな』
 「しかも、このスライム全員、フューと同じように全属性の魔法が使えるんだもんね」

 僕はオリジナルのフューを腕に抱き、フューが分裂に使った魔力を補充すべく魔力を流し込む。

 僕はほとんど魔法が使えないんだし、魔法が使えるフューに渡しておいた方がいいからね。とは言っても、元の容量以上には渡せないんだけど。

 「よし、魔力はもう満タンだね。フュー、分裂したスライムを変身させて」

 フューがぷるぷると震えると、分裂スライム達の形がぐにゃりと潰れ、さっきフューが森で捕食した鷲型の魔物に姿を変えた。

 「じゃあ皆には空から村を襲う魔物の相手を任せる。頼んだよ」

 僕が分裂スライム達にそう指示すると、鷲型のスライム達はピィィィ、と高い笛の音のような声で勇ましく返事をし、羽をまい散らせながら一斉に飛び立った。
 大空に舞い上がったスライム達は村の上空を優雅に旋回している。

 全属性の魔法が使え、鷲の魔物の身体能力まで有する彼らに任せれば空は安全だろう。

 「これで大丈夫だね。フューも作戦通り頼むよ? 母さんも怪我しないでね。……それじゃあ僕ももう行くね。」
 「ソーマちゃんもソルちゃんも、無理しちゃダメよ~? 終わったら凄いご馳走用意するからね~」
 「うん、楽しみにしてるよ」
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