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第1話 劇中劇(収集)
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待ち合わせ場所に着いたのは5分前だったが、すでにそこには濃赤のコートにロングのハーフアップ――DMで教えられた通りの格好をした女性がいた。
「こんにちは、『いちみー』さんですか?」
私が背後から話しかけると、パッと女性が振り向く。年の頃は20歳くらいだろうか。その向こうでブレザー姿の人影が顔を伏せ、逃げるように小走りで去っていった。
「あ、お話し中でしたか?」
邪魔してしまっただろうか。私が足を止めると、ほっとした表情で彼女の方から歩み寄ってきた。
「いえ、そういうんじゃなくて……ナンパっていうか……ちょっと絡まれてたというか。とにかくよかったです、ありがとうございます」
胸の前で手を合わせたいちみーさんは、はあ、と白い息を吐き出した。それから私を見て、困惑したように眉を寄せる。
「えっと、あの、今日待ち合わせしていたのは■■■■先生では――」
「あ、すみません、私、先生の弟子にあたるものです」
はじめまして、と私は頭を下げた。
「先生がご病気で来れませんで、代役として参りました。本日は代わりにいちみーさんの怪談を伺わせていただければと思います」
「はあ、お弟子さん……ですか。いまどきの小説家さんにもいらっしゃるんですね。落語家さんみたいな感じですか?」
いまいちピンと来ていない表情のいちみーさんに「まあそんなものです」と返答し、目星をつけていた喫茶店へと移動する。
注文したコーヒーが来たところで、私はメモ帳を取り出した。スマホの録音アプリを起動させる。
「それでは……いちみーさんの体験した『怪談』を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
◇◆◇
私、俳優の××くんを推してて。
え、知らない? いやそんなことないですって。見たことありますって絶対。名前知らないだけで顔知ってますって。××とか××××とかに出てて絶対……っていうか今電車の吊り広告やってますし。黄色いやつ。帰りに見てください。絶対ですからね。
あ、すいません、本筋から逸れちゃいましたね。まあとにかく私は彼を推してて……だから、彼が出てる映画は全部見ることにしてるんです。
で、その日も××くんの出る映画を見に行ったんです。サスペンス物のTVシリーズの続きのやつ。
何月何日かって? いや、それは正確には覚えてないですね。でも、金曜日なのは確実です。公開初日だったんで。繁忙期だったんですけど爆速で仕事終わらせて、新宿の映画館のレイトショーに行ったんです。
でも、すごく楽しみにしていたはずなのに……お恥ずかしながら、寝ちゃったんですよね。
絶対映画見に行くぞ! って前倒しで仕事頑張ったのと、週末の疲れとかが一気に出てきちゃったみたいで。
映画館って、ちょうどよくあったかくて薄暗くて、居心地いいじゃないですか。それなのにブランケットまで借りたりしちゃったから、もうだめでした。
最初のCMは覚えてるんですが、ふっと気づいたら全然違う画面になっていたんです。
劇中劇、っていうのかな。高校生くらいの女の子たちが5人、学園祭か何かに向けて映画を撮ってるんです。
ホームビデオ風っていうのかな、誰かが手でカメラを持って撮っているような感じで。音がないせいでストーリーもよく分からないし、映画のあらすじとも全然違ったしそもそも××くんも出てこないし、少し変だな、とは思ったんですが……前衛的な作品なのかな? と思ってそのまま観続けてました。
最初は、ただ仲良く映画を撮っているように見えたんです。
でも、1人の女の子が……なんていうんですかね、熱が入りすぎちゃったというか。よく校内の合唱大会とか学園祭の劇とかで、できない相手を厳しく指導してなんとかしようとするタイプの人って出てくるじゃないですか。「本気でやりなさいよ!」って叫んで泣き出すあれです。ああいうのになっちゃって。
そこから一番背の低い、おかっぱの女の子へのいじめが始まっちゃって。ええ、他の子もターゲットになりたくなかったんでしょうね。みんなで囲んで毎日遅くまで「演技指導」してました。
それで、最終的にいじめられていた子がみんなから責められて、学校の屋上から飛び降りちゃうんです。
私、もう見てられなくて。うわあってなっちゃって、女の子がダイブした所で目をつぶっちゃったんです。
で……気がついたら、映画、終わってました。ちょうど館内が明るくなったところで、みんな席を立ってるところで。
私もとりあえず映画館出たんですけど、どうしてもあの映像が気になって、その後すぐカフェでSNS開いたんです。もう意味がわからなかったし、一体何だったんだろうと思って。
そうしたら、誰もそんな劇中劇の話なんかしてないんですよね。
みんな××くんかっこよかったーとかストーリードキドキした!とかそういうので。女の子のいじめとか映画とかそんなのなくて。
あれは一体なんだったんだろう、って今でも時々思うんです。
「こんにちは、『いちみー』さんですか?」
私が背後から話しかけると、パッと女性が振り向く。年の頃は20歳くらいだろうか。その向こうでブレザー姿の人影が顔を伏せ、逃げるように小走りで去っていった。
「あ、お話し中でしたか?」
邪魔してしまっただろうか。私が足を止めると、ほっとした表情で彼女の方から歩み寄ってきた。
「いえ、そういうんじゃなくて……ナンパっていうか……ちょっと絡まれてたというか。とにかくよかったです、ありがとうございます」
胸の前で手を合わせたいちみーさんは、はあ、と白い息を吐き出した。それから私を見て、困惑したように眉を寄せる。
「えっと、あの、今日待ち合わせしていたのは■■■■先生では――」
「あ、すみません、私、先生の弟子にあたるものです」
はじめまして、と私は頭を下げた。
「先生がご病気で来れませんで、代役として参りました。本日は代わりにいちみーさんの怪談を伺わせていただければと思います」
「はあ、お弟子さん……ですか。いまどきの小説家さんにもいらっしゃるんですね。落語家さんみたいな感じですか?」
いまいちピンと来ていない表情のいちみーさんに「まあそんなものです」と返答し、目星をつけていた喫茶店へと移動する。
注文したコーヒーが来たところで、私はメモ帳を取り出した。スマホの録音アプリを起動させる。
「それでは……いちみーさんの体験した『怪談』を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
◇◆◇
私、俳優の××くんを推してて。
え、知らない? いやそんなことないですって。見たことありますって絶対。名前知らないだけで顔知ってますって。××とか××××とかに出てて絶対……っていうか今電車の吊り広告やってますし。黄色いやつ。帰りに見てください。絶対ですからね。
あ、すいません、本筋から逸れちゃいましたね。まあとにかく私は彼を推してて……だから、彼が出てる映画は全部見ることにしてるんです。
で、その日も××くんの出る映画を見に行ったんです。サスペンス物のTVシリーズの続きのやつ。
何月何日かって? いや、それは正確には覚えてないですね。でも、金曜日なのは確実です。公開初日だったんで。繁忙期だったんですけど爆速で仕事終わらせて、新宿の映画館のレイトショーに行ったんです。
でも、すごく楽しみにしていたはずなのに……お恥ずかしながら、寝ちゃったんですよね。
絶対映画見に行くぞ! って前倒しで仕事頑張ったのと、週末の疲れとかが一気に出てきちゃったみたいで。
映画館って、ちょうどよくあったかくて薄暗くて、居心地いいじゃないですか。それなのにブランケットまで借りたりしちゃったから、もうだめでした。
最初のCMは覚えてるんですが、ふっと気づいたら全然違う画面になっていたんです。
劇中劇、っていうのかな。高校生くらいの女の子たちが5人、学園祭か何かに向けて映画を撮ってるんです。
ホームビデオ風っていうのかな、誰かが手でカメラを持って撮っているような感じで。音がないせいでストーリーもよく分からないし、映画のあらすじとも全然違ったしそもそも××くんも出てこないし、少し変だな、とは思ったんですが……前衛的な作品なのかな? と思ってそのまま観続けてました。
最初は、ただ仲良く映画を撮っているように見えたんです。
でも、1人の女の子が……なんていうんですかね、熱が入りすぎちゃったというか。よく校内の合唱大会とか学園祭の劇とかで、できない相手を厳しく指導してなんとかしようとするタイプの人って出てくるじゃないですか。「本気でやりなさいよ!」って叫んで泣き出すあれです。ああいうのになっちゃって。
そこから一番背の低い、おかっぱの女の子へのいじめが始まっちゃって。ええ、他の子もターゲットになりたくなかったんでしょうね。みんなで囲んで毎日遅くまで「演技指導」してました。
それで、最終的にいじめられていた子がみんなから責められて、学校の屋上から飛び降りちゃうんです。
私、もう見てられなくて。うわあってなっちゃって、女の子がダイブした所で目をつぶっちゃったんです。
で……気がついたら、映画、終わってました。ちょうど館内が明るくなったところで、みんな席を立ってるところで。
私もとりあえず映画館出たんですけど、どうしてもあの映像が気になって、その後すぐカフェでSNS開いたんです。もう意味がわからなかったし、一体何だったんだろうと思って。
そうしたら、誰もそんな劇中劇の話なんかしてないんですよね。
みんな××くんかっこよかったーとかストーリードキドキした!とかそういうので。女の子のいじめとか映画とかそんなのなくて。
あれは一体なんだったんだろう、って今でも時々思うんです。
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