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第2話 劇中劇(接触)
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「……いや、あの」
話し終わったいちみーさんに対して、私は何と声をかけたらいいか分からなかった。しばし考え、ストレートな感想をぶつける。
「それは……怪談、なんですか?」
控えめに見積もれば、「不気味な話」というカテゴリーには入るかもしれない。だがどう聞いたって「映画館で寝落ちて変な夢を見た」だけである。
私の疑いの眼差しに気づいたのか、慌てたように彼女は両手を振った。
「ち、違うんですって! この話が怪談だって言えるのは、他にも経験者がいるからなんですよ!」
「他にも?」
「そうですよ! ほ、ほらっ!」
机の上に伏せていたスマホを手に取り、私に突きつけてくる。
「『映画見てたら、突然変な劇中劇始まったんだけど何? 他に見た人いる?』……ですか」
私がそこに表示されたスクショの内容を読み上げると、「そうなんですよ!」といちみーさんは大仰に頷いた。
「ほら! こっちも!」
「××の新作見に行ったら謎の女子高生の揉め事見せられてワロタけど、ほかの人に聞いたらそんなシーンなかったって…じゃあ私何見てたん?」「アニメの中に突然の実写、しかもストーリー関係ないとか〇〇監督の迷走すごすぎ」「女子高生の劇中劇は許せたけど飛び降りて潰れる所まで映す必要あった?倫理観疑う」
確かにいちみーさんと同じか似ている経験……をしているかもしれないような投稿が並んでいる。相当頑張って探したのだろう。
「なるほどですね……そのスクショも共有してもらえますか?」
「もちろんです!」
少しして、SNSのDMに画像が送られてくる。それを確認してから、私は謝礼として先生の本をいちみーさんと同じように差し出した。
「こちら、私の推しの本です。帰りに読んでください。絶対ですからね」
「あ、ありがとうございます……?」
不思議そうな顔をしつつ本を鞄に入れ、店を出て帰っていくいちみーさんは、横断歩道を渡ってすぐに見えなくなった。
男子高校生、サラリーマン、観光客……しばらく多様な人間たちを眺めてから、私は手元のスマホに目を戻した。
「……さて」
いちみーさんからもらったスクショを見ながら、指の関節を鳴らす。
彼女を疑うわけではないが、今の話とスクショだけでは余りにも話として弱い。ヤマもオチもイミもないのが実話怪談の醍醐味ではあるが、画像なんていくらでも生成できるこのご時世、裏取り程度は必要だろう。
アカウント名と投稿内容で検索し、メモを取りながら前後の投稿内容をチェックしていく。
1人目が「見た」と投稿しているのは、いちみーさんが見たといっている時期より3カ月ほど前のようだ。タイトルは出していないが、前後の投稿内容からしてSF映画のようなので、いちみーさんとは違う作品だろう。居住地も中部地方のようなので、おそらく映画館も違うはずだ。
何か情報がないかとスクロールしていくものの、謎の映像に関する話はそれっきりで、すぐにストーカーに狙われているかもしれないという話題になり、投稿そのものが途絶えてしまう。
「うーん……」
2人目はアカウントそのものが消えていた。3人目も「高校生だからわかんないのかもしんないけど、勝手に人のこと撮るのって盗撮だからね?キモ」という投稿を最後に、1年ほど前で更新されなくなっている。
「これだけじゃなあ……なんか、他にはいないのかな」
女子高生、劇中劇、ホームビデオ、飛び降りなど、関係ありそうな単語を片っ端から検索していくと、「riki@映画好き」を名乗るアカウントがひっかかった。ボブカットの女性のアイコンだ。いくつかのポストに分けて、いちみーさんたち同様の目撃談が綴られている。
「今回の映画は……正直よく分からなかった。単館系の映画にはたまにあることだけど、ストーリーすら謎。最初は船の上に家を作る話なんだけど、途中で女子高生たちの記録映画風の映像になってしまった。それも垢抜けないおさげの子をギャルがいじめ抜いて自●させてしまうという胸糞モノ。監督には申し訳ないけど、何がしたいのか伝わってこなかった」
「……ん?」
微かな違和感に、私はスマホの録音アプリを開いた。先ほどの取材内容を再生する。
間違いない。いちみーさんは「おかっぱの女の子」と言っていた。
(……間違い? そんな間違いするか? となると……いちみーさんが見たのと、この人が見たのは違う映像なのか?)
聞き直しながら投稿内容を見直すが、女の子の容姿以外のこれと言った差異は見つからない。
何となく投稿内容を斜め読みしながらスワイプを繰り返す。この人も昨年で投稿が途切れており、すぐに最後の投稿にたどり着いた。
「また男子高校生に会った。映画の趣味が合うのは嬉しいけど、私のことを撮影するのをまだ諦めてないみたい。ちょっとストーカーっぽくて怖いかも」
高校生……ストーカー? この人も?
昨今はそんなにストーキング行為に勤しむ人間が多いのだろうか。またSNSの投稿を遡っていくと、女子高生の映像を見た後に声をかけられたことが書かれている。
(関係……あるのか? これ……)
映像は女子高生たちを撮ったもののはずだ。なのに、見た人には共通して男子高校生? が接触している。偶然にしては少し変な気もするが、関連性がわからない。
「あっ」
撮り手か。
思いついた私は思わず手を叩いた。「誰かが手でカメラを持って撮っているような感じ」といちみーさんも言っていたではないか。
「なるほどなるほど、撮影者が観測者のもとに現れる、といったところでしょうか。これなら先生も気に入ってくれそうですね」
スッキリした気持ちでスマホの画面を消す瞬間、「riki@映画好き」のアイコンが目に入った。
ボブ――おかっぱの女性がピースサインをしている。
「……まさかね」
頭に浮かんだ妄想を笑い飛ばし、私は席を立った。
女の子の演技に納得がいかなかったのは、本当は共演していた女の子たちではなくて。
撮影者の男の子だったのではないか。
なんていうのは、あまりにも飛躍している気がしたから。
話し終わったいちみーさんに対して、私は何と声をかけたらいいか分からなかった。しばし考え、ストレートな感想をぶつける。
「それは……怪談、なんですか?」
控えめに見積もれば、「不気味な話」というカテゴリーには入るかもしれない。だがどう聞いたって「映画館で寝落ちて変な夢を見た」だけである。
私の疑いの眼差しに気づいたのか、慌てたように彼女は両手を振った。
「ち、違うんですって! この話が怪談だって言えるのは、他にも経験者がいるからなんですよ!」
「他にも?」
「そうですよ! ほ、ほらっ!」
机の上に伏せていたスマホを手に取り、私に突きつけてくる。
「『映画見てたら、突然変な劇中劇始まったんだけど何? 他に見た人いる?』……ですか」
私がそこに表示されたスクショの内容を読み上げると、「そうなんですよ!」といちみーさんは大仰に頷いた。
「ほら! こっちも!」
「××の新作見に行ったら謎の女子高生の揉め事見せられてワロタけど、ほかの人に聞いたらそんなシーンなかったって…じゃあ私何見てたん?」「アニメの中に突然の実写、しかもストーリー関係ないとか〇〇監督の迷走すごすぎ」「女子高生の劇中劇は許せたけど飛び降りて潰れる所まで映す必要あった?倫理観疑う」
確かにいちみーさんと同じか似ている経験……をしているかもしれないような投稿が並んでいる。相当頑張って探したのだろう。
「なるほどですね……そのスクショも共有してもらえますか?」
「もちろんです!」
少しして、SNSのDMに画像が送られてくる。それを確認してから、私は謝礼として先生の本をいちみーさんと同じように差し出した。
「こちら、私の推しの本です。帰りに読んでください。絶対ですからね」
「あ、ありがとうございます……?」
不思議そうな顔をしつつ本を鞄に入れ、店を出て帰っていくいちみーさんは、横断歩道を渡ってすぐに見えなくなった。
男子高校生、サラリーマン、観光客……しばらく多様な人間たちを眺めてから、私は手元のスマホに目を戻した。
「……さて」
いちみーさんからもらったスクショを見ながら、指の関節を鳴らす。
彼女を疑うわけではないが、今の話とスクショだけでは余りにも話として弱い。ヤマもオチもイミもないのが実話怪談の醍醐味ではあるが、画像なんていくらでも生成できるこのご時世、裏取り程度は必要だろう。
アカウント名と投稿内容で検索し、メモを取りながら前後の投稿内容をチェックしていく。
1人目が「見た」と投稿しているのは、いちみーさんが見たといっている時期より3カ月ほど前のようだ。タイトルは出していないが、前後の投稿内容からしてSF映画のようなので、いちみーさんとは違う作品だろう。居住地も中部地方のようなので、おそらく映画館も違うはずだ。
何か情報がないかとスクロールしていくものの、謎の映像に関する話はそれっきりで、すぐにストーカーに狙われているかもしれないという話題になり、投稿そのものが途絶えてしまう。
「うーん……」
2人目はアカウントそのものが消えていた。3人目も「高校生だからわかんないのかもしんないけど、勝手に人のこと撮るのって盗撮だからね?キモ」という投稿を最後に、1年ほど前で更新されなくなっている。
「これだけじゃなあ……なんか、他にはいないのかな」
女子高生、劇中劇、ホームビデオ、飛び降りなど、関係ありそうな単語を片っ端から検索していくと、「riki@映画好き」を名乗るアカウントがひっかかった。ボブカットの女性のアイコンだ。いくつかのポストに分けて、いちみーさんたち同様の目撃談が綴られている。
「今回の映画は……正直よく分からなかった。単館系の映画にはたまにあることだけど、ストーリーすら謎。最初は船の上に家を作る話なんだけど、途中で女子高生たちの記録映画風の映像になってしまった。それも垢抜けないおさげの子をギャルがいじめ抜いて自●させてしまうという胸糞モノ。監督には申し訳ないけど、何がしたいのか伝わってこなかった」
「……ん?」
微かな違和感に、私はスマホの録音アプリを開いた。先ほどの取材内容を再生する。
間違いない。いちみーさんは「おかっぱの女の子」と言っていた。
(……間違い? そんな間違いするか? となると……いちみーさんが見たのと、この人が見たのは違う映像なのか?)
聞き直しながら投稿内容を見直すが、女の子の容姿以外のこれと言った差異は見つからない。
何となく投稿内容を斜め読みしながらスワイプを繰り返す。この人も昨年で投稿が途切れており、すぐに最後の投稿にたどり着いた。
「また男子高校生に会った。映画の趣味が合うのは嬉しいけど、私のことを撮影するのをまだ諦めてないみたい。ちょっとストーカーっぽくて怖いかも」
高校生……ストーカー? この人も?
昨今はそんなにストーキング行為に勤しむ人間が多いのだろうか。またSNSの投稿を遡っていくと、女子高生の映像を見た後に声をかけられたことが書かれている。
(関係……あるのか? これ……)
映像は女子高生たちを撮ったもののはずだ。なのに、見た人には共通して男子高校生? が接触している。偶然にしては少し変な気もするが、関連性がわからない。
「あっ」
撮り手か。
思いついた私は思わず手を叩いた。「誰かが手でカメラを持って撮っているような感じ」といちみーさんも言っていたではないか。
「なるほどなるほど、撮影者が観測者のもとに現れる、といったところでしょうか。これなら先生も気に入ってくれそうですね」
スッキリした気持ちでスマホの画面を消す瞬間、「riki@映画好き」のアイコンが目に入った。
ボブ――おかっぱの女性がピースサインをしている。
「……まさかね」
頭に浮かんだ妄想を笑い飛ばし、私は席を立った。
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