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第3話 幽霊アンパンマングミ(収集)
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「恐い話したらおごってもらえるって聞いたんだけど」
知らないアカウントから唐突にDMが来たのは、夏の終わりのことだった。ひぐらしの声を聞きながら先生の部屋のシャッターを閉め、返信を打つ。
「はい、対面でお話を伺わせていただける場合には、ささやかですが食事代を負担させていただいております」
「焼肉がいい」
随分と度胸のある相手のようだ。どうしましょう、と先生にもスマホの画面を見せながら返信を送る。
「焼肉は構いませんが、××苑とかは無理です」
「×角は?」
「ランチか食べ放題にしてください」
苦笑しながら返信し、翌週の待ち合わせを決める。
指定された場所である郊外の駅前では、絵に描いたようなマイルドヤンキーがタバコを咥えていた。茶髪のソフトモヒカンにスウェットの上下、白いサンダル。タバコの銘柄は分からないが、大方メビウスかセブンスターだと心のなかで決めつける。
「こんにちは、『サンdai』さんですか?」
黄昏時の灰皿スタンドの前に陣取った姿に話しかけると、「あ?」と彼はこちらを威嚇するような声を出した。私を見たその目が困惑したように泳ぐ。
「え、ちょ……あれ? 今日待ち合わせしてたのって小説家の……」
「はい。ですが先生はご病気で外出できませんので、代わりに弟子の私が参りました。昨日お送りしたご案内でもお伝えしたかと思うのですが」
えっ、とポケットからスマホを出したサンdaiさんが「ホントだ」と声を上げた。
「あー、はあ、弟子ねえ」
「普段は資料集めのお手伝いや、先生の身の回りのお世話をしております」
「へえー。一緒に住んでんの?」
「あ、はい。住み込みです」
「ふーん……」
品定めでもするようにじろじろと私を上から下まで眺め回すサンdaiさんを連れ、焼肉屋に向かう。先出しが出てきたところで、「ところでサンdaiさん」と私はカバンからメモ帳を取り出した。
「怖い話をお持ちだということなのですが」
「あー、いや、うん。あるけど、ちょっとその前に」
ビールに口をつけたサンdaiさんは、塩キャベツを口に放り込んだ。
「俺、三田大地だから。そういうふうに呼ばれんの恥ずいし、三田って呼んでもらっていい?」
「かしこまりました、三田さんですね」
私が頷くと、「じゃ、そゆことで」と三田さんは話しはじめた。
◇◆◇
俺、コンビニで夜勤してるんすよ。週5日。よくあるあのチェーン店の××店てとこ。ああうん、そこそこ。
まあ見ればわかると思うけど、まわり住宅地なせいか夜中はほとんど人なんて来ないのよ。でもまあ、毎日決まって来る人も何人かいて。
そのうちの一人が「グミババア」なんだわ。
パンとかおにぎりとか、いろいろ買うんだけど必ず毎回アンパンマングミも買うんでグミババア。俺が名付け親。え? いや俺が勝手に名前つけて一人で勝手にそう呼んでたの。うん。夜勤だから。一人しかいないから。別曜日担当とは会ったことないし。
年齢? だからババアだよ。30過ぎくらいかな……いいだろ別に。直接「あっグミババアだ!」とか言ってねえし。
で、それがどうしたって? あーそうそう、それがメインよ。
去年の今ぐらいかな、突然毎日違算出るようになったのよ。毎日数百円。ちょうど1人分の金額が合わないの。
手打ちで会計してるならまだしも、今うちのレジセミセルフだし、意味わかんねえじゃん。
店長には「お前盗んだんじゃねえの」とか言われてムカつくし。盗むなら万札盗んでるっつーの。
でも他の曜日でも同じように違算出たところで、これはバイトのミスとかじゃなさそうだな、みたいになって。でも原因分からずに一週間くらい過ぎてたんだわ。
いや、っていうか原因そのものは秒で分かったんすよ。レジ履歴と突き合わせてどこで違算出たか店長が確認したら、時間と買い物内容的に「あっこれグミババアじゃん」みたいな。アンパンマングミ深夜4時に買うのなんて一人しかいないから、それはすぐ分かったんす。
でも、なんで違算が出るのかわかんない。だってグミババアちゃんとお金払ってるから。現金で。少なくとも俺はちゃんと払われるとこ見たし、機械もちゃんとお金読み込んでるし。セミセルフだから俺お金触んねえし。でも、気づいたらお金がレジの中から消えてる。わけわかんねえの。
でも万引きじゃん? ナメてんじゃん。ちょっとシメてやろうと思って、ある時店外に出るの追っかけてったの。
え? なんでって……店内だと防犯カメラあんじゃん。店が無人になる? 別に深夜だし誰も来ないと思ったし。
で、裏手から出て追っかけてったら、すぐ近くのアパートに入ってくのが見えたんで、すかさず俺その部屋のピンポン連打したの。
え……うん、深夜だよ。だから深夜4時。グミババアいつもその時間に来るから。いや最初は普通に押したって。今さっき部屋に入っていったんなら起きてるはずじゃん。でも反応ないし電気も消して居留守決め込んでるから連打したの。
でも全然出てこなくて。扉叩いてたら中からなんかガキの泣き声みたいなのが聞こえてきて、は? って思ってドアの覗くとこから見て、それでも暗くて見えないから郵便受け開けたの。
そしたらもう、なんかすっげえ臭えにおいとうわあってなんか黒いのが飛び出してきて。あとでよく考えたら多分ハエかなんかだったんだけど、もうびっくりして俺大声で叫びながらコンビニに走って戻ったの。
店戻ったらちょうど早めに出勤してきてた店長がいて、俺がいないことにバチクソにキレてたんだけどもうそれどころじゃないじゃん。やべえじゃん。とにかくやべえじゃん。いいから来てくれって店長連れてアパートもう一回行ったら店長もうわって叫んで警察呼んで。
うん、結局、部屋の中にはガキと死んだ女がいたってオチ。
気になってニュース見てたらさ、ガキの方は生きてたけど、発見された女は死後一週間だったんだって。
ちょうど違算出始めたときから死んでたんだろうね、っていう話。
知らないアカウントから唐突にDMが来たのは、夏の終わりのことだった。ひぐらしの声を聞きながら先生の部屋のシャッターを閉め、返信を打つ。
「はい、対面でお話を伺わせていただける場合には、ささやかですが食事代を負担させていただいております」
「焼肉がいい」
随分と度胸のある相手のようだ。どうしましょう、と先生にもスマホの画面を見せながら返信を送る。
「焼肉は構いませんが、××苑とかは無理です」
「×角は?」
「ランチか食べ放題にしてください」
苦笑しながら返信し、翌週の待ち合わせを決める。
指定された場所である郊外の駅前では、絵に描いたようなマイルドヤンキーがタバコを咥えていた。茶髪のソフトモヒカンにスウェットの上下、白いサンダル。タバコの銘柄は分からないが、大方メビウスかセブンスターだと心のなかで決めつける。
「こんにちは、『サンdai』さんですか?」
黄昏時の灰皿スタンドの前に陣取った姿に話しかけると、「あ?」と彼はこちらを威嚇するような声を出した。私を見たその目が困惑したように泳ぐ。
「え、ちょ……あれ? 今日待ち合わせしてたのって小説家の……」
「はい。ですが先生はご病気で外出できませんので、代わりに弟子の私が参りました。昨日お送りしたご案内でもお伝えしたかと思うのですが」
えっ、とポケットからスマホを出したサンdaiさんが「ホントだ」と声を上げた。
「あー、はあ、弟子ねえ」
「普段は資料集めのお手伝いや、先生の身の回りのお世話をしております」
「へえー。一緒に住んでんの?」
「あ、はい。住み込みです」
「ふーん……」
品定めでもするようにじろじろと私を上から下まで眺め回すサンdaiさんを連れ、焼肉屋に向かう。先出しが出てきたところで、「ところでサンdaiさん」と私はカバンからメモ帳を取り出した。
「怖い話をお持ちだということなのですが」
「あー、いや、うん。あるけど、ちょっとその前に」
ビールに口をつけたサンdaiさんは、塩キャベツを口に放り込んだ。
「俺、三田大地だから。そういうふうに呼ばれんの恥ずいし、三田って呼んでもらっていい?」
「かしこまりました、三田さんですね」
私が頷くと、「じゃ、そゆことで」と三田さんは話しはじめた。
◇◆◇
俺、コンビニで夜勤してるんすよ。週5日。よくあるあのチェーン店の××店てとこ。ああうん、そこそこ。
まあ見ればわかると思うけど、まわり住宅地なせいか夜中はほとんど人なんて来ないのよ。でもまあ、毎日決まって来る人も何人かいて。
そのうちの一人が「グミババア」なんだわ。
パンとかおにぎりとか、いろいろ買うんだけど必ず毎回アンパンマングミも買うんでグミババア。俺が名付け親。え? いや俺が勝手に名前つけて一人で勝手にそう呼んでたの。うん。夜勤だから。一人しかいないから。別曜日担当とは会ったことないし。
年齢? だからババアだよ。30過ぎくらいかな……いいだろ別に。直接「あっグミババアだ!」とか言ってねえし。
で、それがどうしたって? あーそうそう、それがメインよ。
去年の今ぐらいかな、突然毎日違算出るようになったのよ。毎日数百円。ちょうど1人分の金額が合わないの。
手打ちで会計してるならまだしも、今うちのレジセミセルフだし、意味わかんねえじゃん。
店長には「お前盗んだんじゃねえの」とか言われてムカつくし。盗むなら万札盗んでるっつーの。
でも他の曜日でも同じように違算出たところで、これはバイトのミスとかじゃなさそうだな、みたいになって。でも原因分からずに一週間くらい過ぎてたんだわ。
いや、っていうか原因そのものは秒で分かったんすよ。レジ履歴と突き合わせてどこで違算出たか店長が確認したら、時間と買い物内容的に「あっこれグミババアじゃん」みたいな。アンパンマングミ深夜4時に買うのなんて一人しかいないから、それはすぐ分かったんす。
でも、なんで違算が出るのかわかんない。だってグミババアちゃんとお金払ってるから。現金で。少なくとも俺はちゃんと払われるとこ見たし、機械もちゃんとお金読み込んでるし。セミセルフだから俺お金触んねえし。でも、気づいたらお金がレジの中から消えてる。わけわかんねえの。
でも万引きじゃん? ナメてんじゃん。ちょっとシメてやろうと思って、ある時店外に出るの追っかけてったの。
え? なんでって……店内だと防犯カメラあんじゃん。店が無人になる? 別に深夜だし誰も来ないと思ったし。
で、裏手から出て追っかけてったら、すぐ近くのアパートに入ってくのが見えたんで、すかさず俺その部屋のピンポン連打したの。
え……うん、深夜だよ。だから深夜4時。グミババアいつもその時間に来るから。いや最初は普通に押したって。今さっき部屋に入っていったんなら起きてるはずじゃん。でも反応ないし電気も消して居留守決め込んでるから連打したの。
でも全然出てこなくて。扉叩いてたら中からなんかガキの泣き声みたいなのが聞こえてきて、は? って思ってドアの覗くとこから見て、それでも暗くて見えないから郵便受け開けたの。
そしたらもう、なんかすっげえ臭えにおいとうわあってなんか黒いのが飛び出してきて。あとでよく考えたら多分ハエかなんかだったんだけど、もうびっくりして俺大声で叫びながらコンビニに走って戻ったの。
店戻ったらちょうど早めに出勤してきてた店長がいて、俺がいないことにバチクソにキレてたんだけどもうそれどころじゃないじゃん。やべえじゃん。とにかくやべえじゃん。いいから来てくれって店長連れてアパートもう一回行ったら店長もうわって叫んで警察呼んで。
うん、結局、部屋の中にはガキと死んだ女がいたってオチ。
気になってニュース見てたらさ、ガキの方は生きてたけど、発見された女は死後一週間だったんだって。
ちょうど違算出始めたときから死んでたんだろうね、っていう話。
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