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第4話 幽霊アンパンマングミ(解説)
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「現代版幽霊飴、って感じの話ですね」
聞き終えた私がそう感想を述べると「ユウレイアメ?」と三田さんは首を傾げた。
「幽霊飴っていって……妊娠したまま死んだ女性が棺の中で出産して、夜な夜な子供のために飴を買い求めに来るという昔話が日本各地にあるんです。落語の演目とかにもなっているくらいで」
「はー、んだよそれ! じゃあこれってよくある話なのかよ!」
明らかにがっかりした様子で三田さんは肩を落とした。
「なんだよ、すげえ体験したと思ってたのに……」
「い、いえでも、現代でも似たような事例がある、っていうのは私も今回初めてお伺いしましたし」
なんとかフォローを試みるものの、オンリーワンの話ではなかったというのは三田さん的にかなりショックだったらしい。しおしおと項垂れる彼を見つつ、話に出てきたアパートを探す。
事故物件サイトを開くと、それらしきアパートは簡単に特定できた。洗濯機を廊下に置くタイプの、古そうな物件だ。
「あ、アパートってこれですか?」
三田さんにアパート外観のストリートビューを見せると、「あ、それっすそれっす」と興味を失ったような三田さんは適当な反応をした。
「まあ古かったし、事件後すぐに取り壊されちゃったからもう更地になっちゃってんだけど……あ」
そう言って三田さんは私のスマホに手を伸ばした。ぐるりとスマホ内の視点が回り、端に小さく写っていた女性が中央に来る。
「グミババア、コイツっすよ」
「えっ」
そこには、ようやっと歩けるようになったくらいの子供と手を繋ぎ、道を歩く女性が写っていた。
顔には二人ともぼかしが掛かってしまっているので表情は分からない。けれど、砂場セットを持って二人で公園に行く、あるいは帰ってきているところであろう様子は、どこにでもよくある母子の一コマに見えた。
じっと写真を見ていると、焼き網に伸びた大きなカルビを三田さんが持ち上げた。ハサミで切り分けながら、顎で私のスマホを示す。
「つーかさ、正直意味分かんねえんだけど。自分が死んで部屋に子供が取り残されてるってんなら、グミとかパンとか買ってる場合じゃなくね? コンビニじゃなくて交番行ってさ、そこで助けてって言えばいいじゃん」
三田さんの見た目とコンビニ店員としては明らかに逸脱した行動に反して、至極真っ当――に聞こえる意見だ。人は他人には何とでも言えるらしい。
「……私は、わかる気がしますけどね」
私はそう言い、スマホをしまった。
「多分……死んだ、って気づいてないんですよ。自分が。だから、とにかくいつものようにごはん買って帰らなきゃ、って考えて行動してるんじゃないですかね」
「んなことあるか?」
「普段から意識していないことって、なかなか気づかないものですよ。いつも『自分は生きてる!』って思いながら行動してます?」
「いや、してねえけど……さすがに死んでもわかんねえことはないだろ」
釈然としない顔の三田さんが焼肉をビールで流し込む。
「違和感くらいはあるかもしれませんね。でも、それを直視して、大切な存在と一緒にいられなくなってしまったことを認めるくらいなら……」
そこまで言いかけて、私は背筋がぞくりと冷えるのを感じた。
――そう。そんな現実は、気づいていないふりをするほうがいい。
それを認識してしまった瞬間、全てが壊れてしまうから。
だから――
「認めるくらいなら……何?」
「いえ……何でもありません」
私は首を振り、時間を確認した。そろそろ食べ放題のラストオーダーである。
最後にデザートを注文し、たらふく焼肉を堪能したであろう三田さんを連れて立ち上がる。レジ直前で、三田さんは私の手から伝票を取り上げた。
「自分の食った分くらい払うわ」
「大丈夫ですよ、取材費にしますし」
「いや……なんか、あんまり珍しい話でもなかったみたいだし」
それに、年下の女に払わせるとか格好悪いだろ、とぼそぼそと答えて三田さんは自分の財布を出した。
「幽霊飴、なあ……つーことは今回の話は『幽霊アンパンマングミ』かね」
「一瞬で情緒も何もなくなりますね、その題名だと」
話しながら、そのまま最初の待ち合わせ場所である駅に向かう。途中の十字路で、「あ、俺家こっちだから」と三田さんは駅とは違う方向を指して立ち止まった。
「……あのさ、また、連絡してもいい?」
「怖い話がありましたら、ぜひいつでも」
私が微笑むと、脱力したように彼は笑った。
聞き終えた私がそう感想を述べると「ユウレイアメ?」と三田さんは首を傾げた。
「幽霊飴っていって……妊娠したまま死んだ女性が棺の中で出産して、夜な夜な子供のために飴を買い求めに来るという昔話が日本各地にあるんです。落語の演目とかにもなっているくらいで」
「はー、んだよそれ! じゃあこれってよくある話なのかよ!」
明らかにがっかりした様子で三田さんは肩を落とした。
「なんだよ、すげえ体験したと思ってたのに……」
「い、いえでも、現代でも似たような事例がある、っていうのは私も今回初めてお伺いしましたし」
なんとかフォローを試みるものの、オンリーワンの話ではなかったというのは三田さん的にかなりショックだったらしい。しおしおと項垂れる彼を見つつ、話に出てきたアパートを探す。
事故物件サイトを開くと、それらしきアパートは簡単に特定できた。洗濯機を廊下に置くタイプの、古そうな物件だ。
「あ、アパートってこれですか?」
三田さんにアパート外観のストリートビューを見せると、「あ、それっすそれっす」と興味を失ったような三田さんは適当な反応をした。
「まあ古かったし、事件後すぐに取り壊されちゃったからもう更地になっちゃってんだけど……あ」
そう言って三田さんは私のスマホに手を伸ばした。ぐるりとスマホ内の視点が回り、端に小さく写っていた女性が中央に来る。
「グミババア、コイツっすよ」
「えっ」
そこには、ようやっと歩けるようになったくらいの子供と手を繋ぎ、道を歩く女性が写っていた。
顔には二人ともぼかしが掛かってしまっているので表情は分からない。けれど、砂場セットを持って二人で公園に行く、あるいは帰ってきているところであろう様子は、どこにでもよくある母子の一コマに見えた。
じっと写真を見ていると、焼き網に伸びた大きなカルビを三田さんが持ち上げた。ハサミで切り分けながら、顎で私のスマホを示す。
「つーかさ、正直意味分かんねえんだけど。自分が死んで部屋に子供が取り残されてるってんなら、グミとかパンとか買ってる場合じゃなくね? コンビニじゃなくて交番行ってさ、そこで助けてって言えばいいじゃん」
三田さんの見た目とコンビニ店員としては明らかに逸脱した行動に反して、至極真っ当――に聞こえる意見だ。人は他人には何とでも言えるらしい。
「……私は、わかる気がしますけどね」
私はそう言い、スマホをしまった。
「多分……死んだ、って気づいてないんですよ。自分が。だから、とにかくいつものようにごはん買って帰らなきゃ、って考えて行動してるんじゃないですかね」
「んなことあるか?」
「普段から意識していないことって、なかなか気づかないものですよ。いつも『自分は生きてる!』って思いながら行動してます?」
「いや、してねえけど……さすがに死んでもわかんねえことはないだろ」
釈然としない顔の三田さんが焼肉をビールで流し込む。
「違和感くらいはあるかもしれませんね。でも、それを直視して、大切な存在と一緒にいられなくなってしまったことを認めるくらいなら……」
そこまで言いかけて、私は背筋がぞくりと冷えるのを感じた。
――そう。そんな現実は、気づいていないふりをするほうがいい。
それを認識してしまった瞬間、全てが壊れてしまうから。
だから――
「認めるくらいなら……何?」
「いえ……何でもありません」
私は首を振り、時間を確認した。そろそろ食べ放題のラストオーダーである。
最後にデザートを注文し、たらふく焼肉を堪能したであろう三田さんを連れて立ち上がる。レジ直前で、三田さんは私の手から伝票を取り上げた。
「自分の食った分くらい払うわ」
「大丈夫ですよ、取材費にしますし」
「いや……なんか、あんまり珍しい話でもなかったみたいだし」
それに、年下の女に払わせるとか格好悪いだろ、とぼそぼそと答えて三田さんは自分の財布を出した。
「幽霊飴、なあ……つーことは今回の話は『幽霊アンパンマングミ』かね」
「一瞬で情緒も何もなくなりますね、その題名だと」
話しながら、そのまま最初の待ち合わせ場所である駅に向かう。途中の十字路で、「あ、俺家こっちだから」と三田さんは駅とは違う方向を指して立ち止まった。
「……あのさ、また、連絡してもいい?」
「怖い話がありましたら、ぜひいつでも」
私が微笑むと、脱力したように彼は笑った。
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