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第5話 死の広告(収集)
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「スイーツでもいかがですか? もしまだでしたらお昼ご飯でも」
平日昼過ぎ、ショッピングモールにあるファミレスは閑散としている。私が注文用タブレットを差し出すと、向かい側に座った30代の女性――今回の取材相手である「サンク」さんはびくりと体を震わせた。怯えた視線がプリン髪の下から覗き、注文用タブレットを見てほっと緩む。
「あ、ああ……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
伸びたネイルが画面をタップし、ランチのパスタセットを注文する。ドリンクバーからコーヒーを持ってきた彼女は、ようやく肩の荷を下ろしたように深く息をついた。
「今日はすみませんでした。家を出ようとしたら自転車のチェーンが外れてしまって……連絡もできずお待たせしてしまいました」
「ああ、いえ、気にしていませんよ」
SNS経由でのコンタクトという手段のせいか、オンラインでも対面でも取材をすっぽかされることはそんなに珍しいことではない。昨日送ったリマインドにも返信はなかったし、今回も半分諦めの気持ちで待ち合わせ場所に来ていたところだ。
「本当にお会いできて嬉しいです。来てくださってありがとうございます」
私の言葉に、サンクさんは、白いタートルネックの中に顔を埋めるように俯いた。
「実は、本日のご連絡をいただいたあとスマホを捨ててしまっていて……本当にすみませんでした」
「ああ、確か、スマホ絡みの出来事が起きているんでしたっけ」
本題へと少し話題の矛先を変える。はい、と答えたサンクさんは、カップを持った指先をもじもじと合わせた。
「はい。その、自分でも半信半疑ですし、言っても信じてもらえるかわからないのですが……いえ、お呼び立てしておいてそれはないですよね。でも、どうしても誰かに聞いてほしくて」
「大丈夫です。問題は『その話が本当かどうか』より、『怖いかどうか』ですので」
私の答えに、サンクさんは困ったような笑みを浮かべた。
「そ、そうですよね……」
はい、と答えた私も口角を上げてサンクさんを見返す。
「それでは早速ですけれども、今回サンクさんの体験した怪談をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
◇◆◇
きっかけは多分、「検索してはいけない言葉」を検索したことだと思うんです。
ちょっと前……いやもう私が学生時代の頃だからかなり昔になるのかな? とにかく、以前「検索してはいけない言葉」がブームになったことがあったじゃないですか。
数ヶ月前、高校時代の友人たちと会ったんです。同じオカルト部だったメンバー6人で年1くらいで近況報告をしていて、その日もその「定例報告会」の日だったんです。
その時に、学生時代の思い出話になって。「そういえば昔『検索してはいけない言葉』ってあったよね」「今もドッキリサイトに繋がったりするのかな」って流れになり、Wiki見たりしながらその場で検索していったんです。
当然ながらもうサイト自体がなくなってたり、当時なかった言葉が追加されたりしてて、その場では「こんなのあったねー」とか、「新しく追加されてるこれ知らなかった!」って盛り上がって終わったんです。
その時は……本当にそれだけだったんです。変なこととかも特になくて。
……え? あ、いやまあサイトの内容とか検索結果とかに変なものは出てきたんですけれども、Wikに書いてあるのと違うような予想外の何かがあったわけではない、って意味です。
おかしいな、って最初に気づいたのは次の日の朝でした。
朝起きて、会社行く前にスマホアプリで天気予報を見ようとした時です。アプリの広告に、「こんな人生、終わりにしませんか?」って、首吊りの縄のバナー広告が出てきたんです。
それからもニュースサイトを開いたり、アプリを開いたりするたびに似たような広告が毎回表示されるんです。
「一人で悩む必要はありません」って手招きしてるやつとか、「一歩踏み出す勇気」っていう高所からの風景とか。
ただ……その時はまだ、ちょっと気持ち悪いな、悪趣味な漫画の広告かな、としか思っていなかったんです。
もしかして、って気づいたのは、翌週のことでした。
みんなで集まった日の帰り道、部長――高校時代その人が部長だったので、みんなそう呼んでいました――が事故にあって亡くなった、という連絡が彼女の親から来て、告別式に行ったんです。
そうしたら、彼女と家が近くて途中まで一緒に帰っていたっていう副部長が「私のせいだ」って泣き出しちゃったんです。
みんなで「事故なんだし、副部長のせいじゃないよ」って慰めようとしたんですが、「違う」って首を振るばかりで。よくよく話を聞くと、「広告を触らせてしまったからだ」「次は自分が狙われている」って言うんですよ。
広告? って思うじゃないですか。普通に考えて、広告触ったら死ぬとか意味わかんないですし。関係ないでしょ、って言おうとした瞬間――
「もしかして、こういうの?」
って、メンバーの1人がスマホを出したんです。
そこには「こんな人生、終わりにしませんか?」という、私が見たのと同じバナーが表示されていました。
「それ!」って叫んだ副部長の顔は、もう真っ白になってました。
あの日、家が近かった2人は同じ電車で帰ってて、その道中でもまだ「検索してはいけない言葉」を検索して遊んでたらしいんです。その最中、部長のスマホに同じバナー広告がぽっと表示されたそうなんです。
で、ちょうどそうやっている間に出てきた広告だったし、何かオカルト系サイトとかへの誘導かと思って「ちょっとタップしてみてよ」と言ってしまった、と言うんです。で、タップしてもらったら「ご決断、おめでとうございます。可及的速やかに死をお届けいたします」とサンクスページが表示された、と。
だから私のせいなんだ、って副部長は泣いていたんですけれども、でも、私はその時もまだ「偶然でしょ?」って思ってました。
確かに、確認したらあの日一緒にいたオカ部全員に同じような広告が出るようになっていましたが……最近の広告って、検索履歴とかに合わせたものが表示されるじゃないですか。同じ広告が出ること自体は不思議じゃないですし、たちの悪い広告をタップしちゃったのと、事故が偶然重なっちゃっただけじゃないの、って。
ほかのメンバーも同じ気持ちだったのか、スマホを出したメンバーが「気のせいだよ、こんなの。ほら」って副部長の目の前で広告をタップしたんです。
ええ、もう分かりますよね。次の日、彼、首を吊った状態で発見されました。
彼の告別式でまた再会した私たち4人は、話し合って「あの広告には触れないようにしよう」って決めました。関係あるかどうかは分からないけれど、まあ気持ち悪いですし。
とはいえ、広告なんてタップしないじゃないですか。普通に生活してれば平気でしょ、って思ってたんです。
そう思って過ごしていたんですけれど……先々週、あなたにご連絡した後ですね。スマホでSNS見ながら値落ちしちゃってて。目が覚めたら、表示した覚えのないページになっていたことがあったんです。寝ぼけている間にうっかり広告触っちゃったみたいで。
その時は情報商材のPRだったから良かったんですけど……気をつけてても、誤タップしちゃうことはあるじゃん、って気づいた瞬間怖くなっちゃって。
他の人にどうしてるか聞こうと思って、残りの3人に連絡取ろうとしたら、副部長以外の2人まで行方不明になってて。
無理! って思って、衝動的にスマホ捨てちゃったんです。
平日昼過ぎ、ショッピングモールにあるファミレスは閑散としている。私が注文用タブレットを差し出すと、向かい側に座った30代の女性――今回の取材相手である「サンク」さんはびくりと体を震わせた。怯えた視線がプリン髪の下から覗き、注文用タブレットを見てほっと緩む。
「あ、ああ……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
伸びたネイルが画面をタップし、ランチのパスタセットを注文する。ドリンクバーからコーヒーを持ってきた彼女は、ようやく肩の荷を下ろしたように深く息をついた。
「今日はすみませんでした。家を出ようとしたら自転車のチェーンが外れてしまって……連絡もできずお待たせしてしまいました」
「ああ、いえ、気にしていませんよ」
SNS経由でのコンタクトという手段のせいか、オンラインでも対面でも取材をすっぽかされることはそんなに珍しいことではない。昨日送ったリマインドにも返信はなかったし、今回も半分諦めの気持ちで待ち合わせ場所に来ていたところだ。
「本当にお会いできて嬉しいです。来てくださってありがとうございます」
私の言葉に、サンクさんは、白いタートルネックの中に顔を埋めるように俯いた。
「実は、本日のご連絡をいただいたあとスマホを捨ててしまっていて……本当にすみませんでした」
「ああ、確か、スマホ絡みの出来事が起きているんでしたっけ」
本題へと少し話題の矛先を変える。はい、と答えたサンクさんは、カップを持った指先をもじもじと合わせた。
「はい。その、自分でも半信半疑ですし、言っても信じてもらえるかわからないのですが……いえ、お呼び立てしておいてそれはないですよね。でも、どうしても誰かに聞いてほしくて」
「大丈夫です。問題は『その話が本当かどうか』より、『怖いかどうか』ですので」
私の答えに、サンクさんは困ったような笑みを浮かべた。
「そ、そうですよね……」
はい、と答えた私も口角を上げてサンクさんを見返す。
「それでは早速ですけれども、今回サンクさんの体験した怪談をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
◇◆◇
きっかけは多分、「検索してはいけない言葉」を検索したことだと思うんです。
ちょっと前……いやもう私が学生時代の頃だからかなり昔になるのかな? とにかく、以前「検索してはいけない言葉」がブームになったことがあったじゃないですか。
数ヶ月前、高校時代の友人たちと会ったんです。同じオカルト部だったメンバー6人で年1くらいで近況報告をしていて、その日もその「定例報告会」の日だったんです。
その時に、学生時代の思い出話になって。「そういえば昔『検索してはいけない言葉』ってあったよね」「今もドッキリサイトに繋がったりするのかな」って流れになり、Wiki見たりしながらその場で検索していったんです。
当然ながらもうサイト自体がなくなってたり、当時なかった言葉が追加されたりしてて、その場では「こんなのあったねー」とか、「新しく追加されてるこれ知らなかった!」って盛り上がって終わったんです。
その時は……本当にそれだけだったんです。変なこととかも特になくて。
……え? あ、いやまあサイトの内容とか検索結果とかに変なものは出てきたんですけれども、Wikに書いてあるのと違うような予想外の何かがあったわけではない、って意味です。
おかしいな、って最初に気づいたのは次の日の朝でした。
朝起きて、会社行く前にスマホアプリで天気予報を見ようとした時です。アプリの広告に、「こんな人生、終わりにしませんか?」って、首吊りの縄のバナー広告が出てきたんです。
それからもニュースサイトを開いたり、アプリを開いたりするたびに似たような広告が毎回表示されるんです。
「一人で悩む必要はありません」って手招きしてるやつとか、「一歩踏み出す勇気」っていう高所からの風景とか。
ただ……その時はまだ、ちょっと気持ち悪いな、悪趣味な漫画の広告かな、としか思っていなかったんです。
もしかして、って気づいたのは、翌週のことでした。
みんなで集まった日の帰り道、部長――高校時代その人が部長だったので、みんなそう呼んでいました――が事故にあって亡くなった、という連絡が彼女の親から来て、告別式に行ったんです。
そうしたら、彼女と家が近くて途中まで一緒に帰っていたっていう副部長が「私のせいだ」って泣き出しちゃったんです。
みんなで「事故なんだし、副部長のせいじゃないよ」って慰めようとしたんですが、「違う」って首を振るばかりで。よくよく話を聞くと、「広告を触らせてしまったからだ」「次は自分が狙われている」って言うんですよ。
広告? って思うじゃないですか。普通に考えて、広告触ったら死ぬとか意味わかんないですし。関係ないでしょ、って言おうとした瞬間――
「もしかして、こういうの?」
って、メンバーの1人がスマホを出したんです。
そこには「こんな人生、終わりにしませんか?」という、私が見たのと同じバナーが表示されていました。
「それ!」って叫んだ副部長の顔は、もう真っ白になってました。
あの日、家が近かった2人は同じ電車で帰ってて、その道中でもまだ「検索してはいけない言葉」を検索して遊んでたらしいんです。その最中、部長のスマホに同じバナー広告がぽっと表示されたそうなんです。
で、ちょうどそうやっている間に出てきた広告だったし、何かオカルト系サイトとかへの誘導かと思って「ちょっとタップしてみてよ」と言ってしまった、と言うんです。で、タップしてもらったら「ご決断、おめでとうございます。可及的速やかに死をお届けいたします」とサンクスページが表示された、と。
だから私のせいなんだ、って副部長は泣いていたんですけれども、でも、私はその時もまだ「偶然でしょ?」って思ってました。
確かに、確認したらあの日一緒にいたオカ部全員に同じような広告が出るようになっていましたが……最近の広告って、検索履歴とかに合わせたものが表示されるじゃないですか。同じ広告が出ること自体は不思議じゃないですし、たちの悪い広告をタップしちゃったのと、事故が偶然重なっちゃっただけじゃないの、って。
ほかのメンバーも同じ気持ちだったのか、スマホを出したメンバーが「気のせいだよ、こんなの。ほら」って副部長の目の前で広告をタップしたんです。
ええ、もう分かりますよね。次の日、彼、首を吊った状態で発見されました。
彼の告別式でまた再会した私たち4人は、話し合って「あの広告には触れないようにしよう」って決めました。関係あるかどうかは分からないけれど、まあ気持ち悪いですし。
とはいえ、広告なんてタップしないじゃないですか。普通に生活してれば平気でしょ、って思ってたんです。
そう思って過ごしていたんですけれど……先々週、あなたにご連絡した後ですね。スマホでSNS見ながら値落ちしちゃってて。目が覚めたら、表示した覚えのないページになっていたことがあったんです。寝ぼけている間にうっかり広告触っちゃったみたいで。
その時は情報商材のPRだったから良かったんですけど……気をつけてても、誤タップしちゃうことはあるじゃん、って気づいた瞬間怖くなっちゃって。
他の人にどうしてるか聞こうと思って、残りの3人に連絡取ろうとしたら、副部長以外の2人まで行方不明になってて。
無理! って思って、衝動的にスマホ捨てちゃったんです。
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